Stardust City 16
「──っあ…!?」
「あのなぁ、俺だってお前を嫌い続けるのは、とっくの昔に飽き飽きしてたんだよ!」
怒ったように告げられる言葉は荒々しい。
だが、身体の動きはあくまでも優しかった。
慣れない臨也の体を気遣うように、浅く退いた所で、臨也の感じやすい場所を丹念に逞しい熱で擦り上げる。
「素直になれなんて言っても無駄なのは、分かってんだよ。けど、もう少しヒントを寄越してれば、俺だってもっと早く、お前の本音に気付いてやれたんだよ……!」
同時に張り詰めたままの前にも手で触れられて、臨也はたまらずに高い悲鳴を上げた。
「好きだ。お前が好きだ。何度だって言ってやるし、これまでの分も傍にて、大事にしてやるから、そんな風に泣くんじゃねえよ……っ…」
存在を馴染ませ、刻み込むように、やわらかな粘膜に繰り返し熱が擦り付けられる。
指とは比べ物にならない圧倒的な質量に蹂躙されて、苦しいはずなのに、微妙な強弱をつけた前への刺激のせいで、全てが甘過ぎる感覚に変わる。
「ふ…っあ……っ、そ…んな、風に、しちゃ駄目……っ…!」
前に対する快感であれば、自分の感じ方も対処の仕方も分かる。だが、体の奥深くから生まれてくる快感はどうすればいいのか。
受け止めることも受け流すこともできず、ただ翻弄されて、臨也は切れ切れに甘くかすれた悲鳴を上げ、すすり泣く。
「シ…ズちゃん……っ、シズちゃ…っ……!」
「臨也…っ…」
縋るものがそれしかないかのように繰り返し呼ぶ声に、静雄も応じて唇を重ねた。
ゆるゆると腰の動きは止めないまま、深く舌を絡ませ、臨也を貪る。
やわらかく舌先を甘噛みされ、ひどく敏感になった口腔を隅々まで探られ、弄られる快感に、臨也は酸素不足も相まって意識が飛びそうになる。
唇が離れ、半ば朦朧とした状態で静雄を見上げると、欲を顕わにした静雄が愛しさと苦しさがないまぜになった小さな笑みを口元に刻み、臨也の涙に濡れた目元を、優しい指先で拭った。
「──シ…ズ…ちゃん……」
「ああ」
すすり泣くような声で細く呼ぶと、静雄はうなずき、頬や細く尖った顎にキスを落とす。
「痛くねぇか……?」
先程まで浅い部分で動いていた熱は、今は奥深くまで侵入して脈動している。その感触に臨也は震えながらうなずいた。
「大、丈夫……」
逞しいものに圧迫されている苦しさは、今も勿論ある。だが、それを感じていられる歓びの方が遥かに上回った。
「シズちゃん、は……痛くない……? キツ過ぎない……?」
受け入れることについては何の経験もなかった身体は、怯えてすくむように異物を締め上げている。感じているひどい圧迫感は、そのせいでもあるのだと霞んだ思考でも朧気に分かっていたから、静雄にも苦痛を与えてしまっているのではないかと不安を覚えて問いかける。
だが、静雄は小さく笑ってそれを否定した。
「入り口はキツイけどな。中の方はそうでもねぇよ。熱くてすげぇ気持ちいい」
「ほんと……?」
「こんなことで嘘ついてどうするよ。それに、俺が嘘が下手なのは知ってんだろ」
微苦笑と共に触れるだけのキスを唇に落とされて、それなら良かった、と臨也は安堵する。
女性のふくよかさは微塵もない身体だ。だが、それでも大好きな人に歓びを与えられるのなら、そんな幸せなことはない。
そして、静雄の言葉を裏付けるように、猛々しいほどに漲った逞しい熱が、感じやすい箇所を再び緩く突き上げる。
途端に、瞼の裏に星が散るような快感が指先まで突き抜けて、臨也は細い悲鳴を上げた。
「──っ、あ…! そ、こ……やだぁ…っ…」
「ここな」
「ふぁ…っ! や…っ、やだ…って…ば……!」
分かったとばかりに数度繰り返し突かれて、臨也は、止めてと言ってるのになんで、とたまらずすすり泣く。
だが、静雄は敏感な柔襞を蹂躙する動きを止めなかった。
「お前も少し慣れてきたみたいだな。さっきよりいい……吸い付いてくるみてぇで、すげえ気持ちいい」
情欲にかすれた低い声で囁かれて、嫌々と首を振る。
静雄が動く度に、身体の奥に快楽の欠片が積み上げられてゆくようだった。
一つ一つ小さな扉が開かれてゆくかのように、先程までは何も感じなかった箇所が疼くように反応し始める。
そうして積み上げられた快楽の欠片が、いつか限界を超えて崩れ落ちてしまったら。
一体自分がどうなってしまうのか想像も出来ないまま、臨也は注がれ続ける快楽という名の甘露に怯えながら溺れてゆく。
「シ…ズちゃ…ぁ、ん…っ、ひ、あ…ぁ……っ!」
濡れた音を立てながら深いストロークで熱を打ち込まれ、爪先まで砂糖細工と化して甘く融け崩れてしまいそうな感覚に、シーツを引き裂かんばかりに爪を立てる。と、それに気付いたのだろう。静雄の温かな手が臨也の手を包み込んだ。
そして、やんわりと手首を掴まれ、静雄の首筋に縋り付くように誘導される。
「どうせなら、俺に掴まってろよ」
熱を帯びた低い声でそんな風に囁かれても、快感にぼやけた思考では半分も意味を捉え切れない。
ただ導かれるままに臨也は静雄の肩に爪を立て、広い背に縋り付いた。
「…っ、あ、……ぁ…シズ、ちゃん……っ」
好き、と熱に浮かされたように何度も呟く度、臨也、と名前を呼ばれ、耳元や首筋、鎖骨に肩に、幾つものキスが落とされる。
それがただ幸せで、気持ちよくて。
「も…、駄目…っ……お、かしく…なる……っ…!」
すすり泣きながら、切れ切れに臨也は訴えた。
ゆるゆると浅い所で遊ばせては、感じ過ぎる箇所をしつこいくらいに突き、擦り上げ、そしてまた、やわらかく全体を揺らしては小刻みな振動で揺さぶってくる。
臨也が苦痛を感じるほどの奥には決して押し入らず、ただ快感だけを探り当て、注いでくるような静雄の動きに翻弄されて、繋がった箇所から蕩けてしまいそうだった。
「おかしく、なっちまえばいいだろ……っ」
嫋々と泣きよがっているような臨也の身体に、静雄もまた、強い快感を得ているのだろう。限界が近付いてきているのか、臨也に答える声は低くかすれ、呼吸も乱れている。
だが、それを感じ取る余裕など、臨也にはもう微塵も残されてはいなかった。
「あ…、ぁ……もぉ、ホ…ントに、だめ……っあ…ぁ……!」
また過敏な箇所を硬い先端に抉られて、息も止まるような快感に悲鳴を上げる。
そしてそのまま臨也は、泣きながら上ずった声で言葉を紡いだ。
「も…う…、殺して…っ……!」
震える唇から迸り出たそれは、快楽に浮かされたうわ言なのか、それとも本心だったのか。
自覚も無いまま臨也は、ほろほろと涙を零し、静雄の肩にすがりつく。
「殺して、シズちゃん……っ!」
気が狂いそうなほどに気持ちよくて。
幸せで。
いっそ、この瞬間に世界が終わってしまえばいい、と心の底から思う。
それが無理なら、せめて。
「も…ぅ、俺、このまま、死にたい……っ!」
大好きな人の腕の中で、この快楽の中で息絶えることができたなら。
きっとそれ以上の幸福などないから。
だから、いっそ殺して、と。
涙と快楽に霞む目を無理矢理に開いて、鳶色の瞳を捜す。
「馬鹿野郎……っ」
だが、静雄は何とも言えない、もの苦しさと愛しさが入り混じった光を瞳に滲ませて臨也を見つめていて。
その表情のまま、貪るように臨也に口接けた。
「手前が居なくなったら、俺は一人になっちまうだろうが……!」
吐息も言葉も喰らい尽くすようなキスの後、低くそう呟いて深く腰を律動させる。
慣れない身体を十分に気遣った、その上での容赦のない動きに臨也はたまらず高い悲鳴を上げる。
だが、静雄はもう動きを緩めず、速いピッチで過敏な箇所を擦り立てられ、同時にとろとろに濡れそぼって震えていた前にも、やや荒い手指の動きで愛撫を加えられて、臨也はそのまま成す術もなく高みへと引き摺り上げられて。
「や、あ、あああああ……っ!!」
その瞬間、何もかもが真っ白に灼け付き、全細胞が爆発するような衝撃に魂ごと押し流されて、砕け散った。
たまらず全身を激しく痙攣させた臨也に、静雄もまた低い呻きを零して熱を迸らせる。
そして、ゆっくりと二人の体は弛緩してゆき、荒い呼吸ばかりが響く中、静雄の手にそっと、汗で額に張り付いた前髪を掻き揚げられて、臨也はぼんやりと意識を浮上させた。
「臨也……」
低くて深みのある大好きな声に名前を呼ばれて、気だるくまばたきし、やわらかなキスを受け止める。
シズちゃん、と声にならない声で呟いて。
神経が麻痺してしまったような腕をゆるゆると持ち上げ、汗に濡れたその広い背中をぎゅっと抱き締めた。
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