STARDUST CITY 12
仕切り直しの長いキスの後、ゆっくりと目を開いた臨也は、まなざしを静雄の股間に向ける。
長い間がまずかったのだろう。天に向かって屹立していたはずのそれは、既に半ば萎えている。
自分も似たようなものではあるのだが、とりあえず、と臨也はそれに向かって手を伸ばした。
「まだやる気なのか?」
「勿論。あ、今度はちゃんとやるから安心していいよ」
「……それ、安心っつーのか?」
呆れた口調で言いながらも、静雄は臨也のしたいようにさせてくれる。
本当に甘いなあと思いつつ、臨也はそれをやわらかく両手で包み込むように撫でた。
全体を数度、優しく撫でて、敏感な箇所を指先で刺激してやると、すぐに元の硬さが戻ってくる。嬉しくなって、臨也はもっと大きくなぁれとばかりに先端に軽く口接けた。
「おい……」
「大丈夫だよ、噛んだりしないから」
無理するなと言いたいのだろう静雄の言葉を、敢えて曲解し、全体に舌を這わせる。
触れる度、刺激する度に小さく反応するのが、たまらなく愛おしい。この感覚を堪能しようとしなかったなんて、先程の自分は本当に馬鹿だったと思いながら、熱く脈打つなめらかな皮膚を唇で繰り返しついばみ、軽く吸い上げる。
「い…ざや……」
「なぁに、シズちゃん。そんなに気持ちいい?」
唇を離し、手のひら全体で包み込むようになめらかに擦りながら悪戯に問いかけると、静雄は複雑な顔で眉をしかめ、諦めたように熱を帯びた溜息をついた。
「いいに決まってんだろ……」
「ふぅん」
その答えに満足し、臨也はまた口を近づけて、今度は先端をぱくりと咥える。そして、雁だけを口から出し入れするように唇で愛撫してやると、先走りの塩気がまた舌を甘く刺した。
「──っ、ん……ふ…ぁ…、また…大きくなった、よ……?」
舐め取っても舐め取っても、透明な液はとろとろと溢れ出してくる。唇に感じる脈動も強さを増してきており、静雄の限界が近付きつつあることに、臨也はどうしようもないほど心が浮き立つのを感じた。
同性であるからツボは押さえているとはいえ、何の経験があるわけでもない拙い愛撫だ。なのに、それに快感を得てくれている。
こんなことで喜ぶなんて、どうかしていると誰かに言われても構わない。大好きな相手をこうして愛し、歓びを与えられることが、ただ純粋に嬉しい。
「ねえシズちゃん、このままイっていいからね?」
というよりも、絶対に達かせたい。そう思いながら、深く口に含んでゆっくりと動き始める。
最初はぎこちなくしか動けなかったが、直ぐにコツは掴めてきて、丹念に裏筋に舌を這わせつつ、全体を軽く吸い上げるようにしながら少しずつ動きを早めてゆく。
「っ…臨也、もう止めろ……っ」
低くかすれた押し殺すような静雄の声が制止してくるが、聞けるわけがない。動きを一層強め、指も使って全体を扱き上げると、限界を訴えるように熱が触れ上がる。
それでもまだ静雄は耐えていたが、永久に我慢できるものでもない。ほどなく怒張は一気に爆ぜた。
「──っ、く……!」
静雄の低い呻きと共に、断続的に吐き出されるそれを臨也は口腔で受け止める。独特の匂いと味が喉を刺したが、覚悟していたせいか、さほどキツイとは感じなかった。
むしろ愛おしさの方を強く感じながら、噎せそうになるのを強引に飲み込み、ゆっくりと唇を離す。
そして顔を上げると、静雄と目が合った。
金の髪はやや乱れ、少しだけ荒い呼吸と、鋭く細められた瞳が、荒々しい男の色気を放っている。
臨也がぞくりとする間もなく、二の腕を掴まれ、その腕の中に抱き込まれた。
「無茶しやがって……」
熱を帯びてうっすらと汗ばんだ肌の感触と匂い、甘さの滲んだ低い声に臨也はまばたきし、少しだけ考えてから首筋に頬を摺り寄せる。
「だって言ったじゃん。今度は俺が好き勝手する番だって」
「いつの話だよ」
舌打ちするように言い、静雄は唇を重ねてくる。いつもよりも強引なキスに臨也は静雄の興奮を感じ取り、また嬉しくなる。
本当にどうかしていると思うが、感情が止まらない。目の前の相手が欲しくて欲しくてたまらないのだ。
そして貪るようなキスに溺れていると、不意に背中がスプリングの利いたマットレスと、それを包み込むさらさらのリネンに触れる。押し倒されたのだと気付くのと、唇が離れたのはほぼ同時だった。
「手前の番が終わったんなら、今度は俺の番だよなぁ? 臨也君よぉ」
「そんなの決めた覚え、ないけど? まあどうしても、ってシズちゃんが泣いて土下座して頼むんなら、そうしてあげてもいいよ?」
「はっ、泣いて頼むのは手前の方だ」
獰猛に笑った静雄は、すぐさま臨也の首筋に噛み付いてくる。が、その噛み方はひどく甘く、痛みの一歩手前のぞくりとした感触が全身に突き抜けた。
そのまま肩やら二の腕やら鎖骨やら脇腹やらをがぶがぶと噛まれて、臨也はその感触に酔いながら小さく笑う。
「……んっ、シズちゃん、本当に、動物みたいだよ……?」
「うるせぇ」
手前は黙ってよがってろ、と乱暴に言われ、今度は舌と指が蠢き始める。だが、言葉とは裏腹にその動きはひどく優しい。
筋肉や骨格を一つ一つ確かめるようにキスされ、指先でなぞられる感触に甘い愉悦が広がる。
この力加減はどこで覚えたのだろうな、という思いがちらりと脳裏を掠めたが、すぐに気分を切り替えて追い払う。静雄の言った通り、二人が愛し合うのに他人の影ほど不要なものもない。
その間にも、静雄の温かな手と指が、ゆっくりと肌の上を這い回る。
ただそれだけのことなのに、こんなにも気持ちいいことを不思議に思いながら、臨也は手を上げて静雄の髪をそっと梳いた。
すると、お返しのように脇腹を手のひらで包み込むように撫でられ、軽く吸い上げられて、びくびくと体が震えてしまう。
「……っや…、やだ……っ」
「何がだよ。まだ何にもしてねぇだろ」
「してるってば…っ……!」
確かにまだきわどい箇所には指一本触れられていない。だが、皮膚の薄い腹部をやわらかく撫で、腰骨の尖りを確かめるように指先でこりこりと刺激されたら、それだけで全身に甘い痺れのような快感が突き抜ける。
「分かってやってるだろ、シズちゃん……!」
「さぁな」
笑みを含んだ声で臨也の抗議を受け流しながら、静雄はわざとらしいほどにゆっくりと臨也の足を太腿から爪先まで撫で下ろす。そして再び、今度は下から上へと撫で上げられ、その途中で神経と血管の集まる膝裏をやさしく擽られて、臨也は甘く引き攣った悲鳴を上げた。
「──やっ、あ……あぁ…っ!!」
目を開けていることもできず、ぎゅっと閉じた目尻に涙が滲む。
たかが脚の表面に触れられているだけなのに、怖いくらいに鮮烈な快感だった。
「お前、マジで感じ過ぎ。そんなんでこの先、大丈夫かよ?」
呆れたように言いながらも、静雄の手は臨也の腰骨の辺りをゆっくりと撫でている。
快感に総毛立った肌を撫でられるのは甘過ぎる拷問にも等しく、そんなことを言うくらいなら手を離せ!、と臨也はわめきたかったが、注がれ続ける感覚に絶えるのに精一杯で、まともな言葉が紡ぎ出せない。
「ま、不感症とか痛がられるよりはいいけどな。俺も楽しいしよ」
その間も好き勝手なことを言いながら、静雄はするりと脇腹を撫で上げ、臨也に悲鳴を上げさせながら、臨也の心臓の上へと手を置いた。
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