DAY DREAM
-Heaven In Your Eyes 08-
「痕、付けちまった」
ここに、と薄紅の鬱血に指先で触れながらそう告げると、臨也は言葉の意味を理解しようとするように、静雄を見上げてまばたきする。
その弾みに、また透き通った水晶のような涙がほろりと零れ落ちて。
「──いいよ」
数秒間、静雄の言葉について考えたようだった臨也は、泣き濡れた顔のまま、春の花がほころぶように小さく微笑んだ。
「痕が消えるまで、外に出なければ済む話だから。今日は、いっぱい付けて」
「……本当にいいのか?」
「駄目だったら駄目だって、俺はちゃんと言うよ」
思いがけない答えに驚き戸惑う静雄に、臨也はふんわりと笑みを深める。
そして、指先にまで愛情のこもった仕草で、静雄の頬を撫でた。
「好きにしていいよ、シズちゃん。殺されても文句は言わないって、俺、言ったよね?」
「でも……」
「痕なんて何てことないよ」
小さくかぶりを振って、臨也ははっきりと断言する。
「これまで俺の仕事を気遣って、痕を付けないようにしてくれてたのは、すごく嬉しい。シズちゃんが俺を大事にしてくれてるのは本当に嬉しい。でも、そういうシズちゃんだからこそ、俺に何をしてもいいんだよ」
真っ直ぐに静雄を見つめてそう告げる臨也は確かに微笑んでいるのに、その瞳からは、また涙がほろほろと零れ落ちる。
一夜のうちにどれだけ泣くのかと思いながらも、その涙に込められた想いが分からない静雄ではなく。
「好きな奴を大事にするのは当たり前のことだろ」
「それでも」
指先でそっと涙をぬぐってやりながら告げれば、臨也は、その『当たり前』のことがすごく嬉しいんだよ、と泣き笑いながら、静雄の顔を自分の方に引き寄せて、唇に触れるだけのキスをした。
「いっぱい愛して、シズちゃん。俺は全部、シズちゃんのものだから」
「──ああ」
これだけの想いを向けられて、他に言うべきことなどあるはずもない。
静雄は短く、だが心の底から応じて、臨也に深く口接けた。
甘くやわらかな舌に自分の舌を絡め、うんと優しく貪る。
どれほどの優しさと愛おしさを注いでも足りないと思いながら、ずっと繋がったままだった下半身をゆるく揺らした。
「──っあ……!」
途端に臨也の全身がびくりと震え、離れた唇から高い嬌声が零れる。
その声を甘く聞きながら、二度、三度とごく緩く突き上げてやると、十分過ぎるほどに熱く熟れた柔襞がきゅうっとひくつきながら絡み付いてきて、静雄もまた、熱い息を吐いた。
「お前ン中、すげぇ気持ちいい……」
単に生理的な快感ばかりではない。誰よりも愛し、そして愛されていることを知っているからこそ、魂まで蕩けんばかりに心地良い。
こうして一つに繋がり、共に歓びを得られることが何よりも幸せだと感じる。
そして何よりも、この幸せをくれる臨也が愛おしい。
「臨也…っ」
「ひぅ…っ、あ……ぁんっ、あ、っあ…シズ、ちゃ……っ!」
腰を揺らめかすたびに、臨也の唇から甘く蕩け切った声が零れる。
もっと気持ちよくしてやりたくて、白い肌の上にゆっくりと手を滑らせ、胸元を優しく愛撫してやると、途端に締め付けがきつくなった。
「…は、ぁ…ん、あっ……気持ち…い…っ、も…、溶け…そぅ…っ」
静雄の律動に合わせて臨也の腰も揺れ、熱く柔らかな内壁がひくつきながら奥へ奥へといざなってくる。
抗わずに深みをやわらかく突いてやれば、臨也のすすり泣く声が更に甘く透き通った。
「…そ…こ……っ、そこっ、駄目…っ…!」
「駄目? どうしてだよ?」
「ふ、あぁ…っ! かん、じ…すぎちゃう…っからぁ……っ…駄、目…っ!」
「──だったら、こうしたらどうなる……?」
臨也の感じる箇所など、とうに知り尽くしている。
駄目だと言われた深い部分を、雁の先端と暈の部分を使ってぐりぐりと捏ね、擦り上げてやると、臨也は箍が外れたように甘い声を上げて泣きじゃくった。
「ひあ…っ…、や、い…ゃ…っあ、ああ…っ、あ…っ…んあっ…!」
「あー、くそっ、すげぇ、いい……っ」
臨也が快感を得れば得るほど、柔襞もとろけるような感触で静雄の熱に吸い付いてくる。
おそらくは最初の絶頂が近いのだろう、びくびくと震えながら熱に絡みついてくる感触は、まるで千もの舌に舐めしゃぶられているような心地よさだった。
その感触に耐え切れず、静雄は再び律動を開始する。一定の強さで繰り返し深いストロークを打ち込むと、臨也が切れ切れに悲鳴のような嬌声を上げた。
「ああ…っ、や、駄目っ…い…っちゃう…っ! やぁ…っ…!」
駄目、と切羽詰まったように、臨也はのけぞらせた首を左右に振る。
だが、ここで止めてやる気は静雄には無かった。
「達けばいいだろ…っ」
リズムを保ったまま、浅い部分から深い部分まで感じやすい箇所ばかりを狙いながら数度突き上げてやると、臨也は全身をのけぞらせて高い悲鳴を上げた。
途端にとてつもない勢いで熱を締め付けられ、静雄も思わず奥歯を噛み締めて、込み上げた灼熱の衝動を耐える。
が、静止したのは僅かな間のみで、頂点を過ぎて微かに締め付けが緩んだのを見計らい、そのままゆるゆると腰を動かし続ければ、臨也は全身を震わせるようにして嫋々とすすり泣き始めた。
「───ぁ…う…、ふぁ…っ、うご、いちゃ…駄目ぇ…っ…!!」
制止の言葉は口にするものの、細い腰は静雄の動きに合わせて揺れ、後孔への刺激のみで達したために未だ欲望を開放していない熱からは、とろとろと蜜が零れ落ちてゆく。
「気持ち、いい…っ…、ひ、ぁあ…っ気…持ちいいの、止まん、ない……っ!」
「でも、こうして欲しかったんだろ……?」
「…うん…っ、すごい、気持ち、いい…っ、う…れしい……っシズちゃん…っ…」
声を震わせて甘くすすり泣きながら、臨也は泣き濡れた瞳を懸命に開いて、静雄を見上げる。
その表情が愛おしくて唇を重ねれば、臨也は懸命に舌を絡めてきて、二人して甘い口接けに夢中になった。
───連続絶頂、俗にいうイきっぱなしの状態は、男の場合は基本的に後ろへの刺激のみで起こり、射精するとそこで快感は終了してしまう。逆に言えば、前に触らなければ、その分起こりやすくなるのだ。
とはいえ、精神的な要因も大きく、パートナーを信頼して行為に溺れ切ってしまわなければ、そこまで到達することはできない。
そんな風にハードルが高いからこそ、そこに辿り着けた時の肉体的精神的な喜びは半端なものではなく、ゆえに、今夜は二人とも口には出さずとも、そうなることを願っていたのであって。
独りでは決して得られないその歓びに、二人してただ溺れる。
「──っあ、ひぁっ、も…気持ち、よすぎて…っ、死…にそう…っ」
「俺もだ」
快感の度合いで言えば、臨也の方が受身の分、深いだろう。だが、精神的な幸福感は決して勝るとも劣らない。
そして、そんな静雄の言葉を、臨也はこんな状態でもきちんと拾ったようだった。
「ほ…んと? っ、あ…、シズちゃん…も、ちゃんと…っ、気持ちいい……?」
震える声でよがり泣きながら、懸命に、と形容してもいい程に真剣に問いかけてくる。
そんな臨也が可愛くて、静雄は微笑みながら、臨也の汗に濡れて張り付いた前髪を優しく梳き上げ、あらわになった額を愛おしさを込めて撫でた。
「すげぇ気持ちいい。こんな幸せな気分になったこと、今までにねぇよ」
正直な想いを告げると、臨也は乱れた呼吸を浅く繰り返しながらも切なく瞳を揺らし、喜びに満ちた微笑みを淡く刻む。
が、その笑みも、静雄がやわらかく揺らすような律動を止めないせいで、すぐに快楽に耐える表情にまぎれてしまい、再び言葉にならない甘い悲鳴が唇から零れ落ち始めて。
「は…シズちゃん…っ…あ、ん…っ」
蕩けるようにやわらかく、しかし容赦なく締め付けてくる柔襞に、静雄もまた熱い息をつく。
「マジで…すげぇな……」
そして少しだけ繋がる角度を変え、やや上方から勢いをつけて深く熱を突き込むと、最奥まで侵食するその衝撃に臨也は声を震わせて泣きじゃくった。
NEXT >>
<< PREV
<< BACK