DAY DREAM
-Heaven In Your Eyes 04-

「っ、ふ…、あ……シズ、ちゃん…っ…」
 肌理の細かい肌は、こうして触れているだけでも恐ろしく心地良い。それなのに、更なる先を求めて臨也は静雄に手を伸ばしてくる。
 細い腕に肩を抱き寄せられ、応えるように淡い色の胸の尖りに唇を落とせば、臨也はびくりと息を詰めた。
「あっ……ひ、ぅん…っ……」
 まだやわらかなそこの周辺にやわらかく舌を這わせ、少しずつ硬さを帯びてきたのを見計らってから、舌先で優しくつついてやる。
 決して急ぐことなく、ゆっくりと何度もそれを繰り返しているうちに、小さな尖りがつんと丸みを帯びて熟れてゆく様に静雄は目を細めた。
「すげぇ可愛いな……」
 それに美味そうだ、と呟いて、やわらかく歯を立てる。
「ひぁ…っ! や、あ…っ…あぁ……ん、っ…」
 そのままふにふにと甘噛みしてやると、臨也は背をのけぞらせ、びくびくと震えながら甘い悲鳴を上げる。
 だが、静雄の頭をぎゅっと抱き締める仕草は、引き離そうというには程遠く、むしろ、もっととねだられているようで、それに応えるべく静雄は、反対側の尖りにも指を伸ばした。
 同じようにやわらかく薄い皮膚に覆われたそこの周辺を、指先で丸く優しく撫でる。
 そのうち中心が仄かに立ち上がってくるのを感じて、ゆっくりと指先を左右に滑らせてやると、臨也はまた甘い声を上げた。
「や、だ……っ、も…、それ…っ…っあ……感じ、ちゃう……!」
 細い爪をうなじに立てられて、愛撫を続けながら静雄は小さく苦笑する。
 感じちゃう、と言われて止める馬鹿がどこにいるだろうか。
「もっと幾らでも感じりゃいいだろ」
 つんとしこった尖りから僅かに唇を離して、そう囁き、再びやわらかく吸い上げながら、舌先で先端の敏感な箇所ををくすぐってやる。
 同時に、反対側も指の腹でやわらかく転がし、親指と中指で軽く摘まみ上げながら先端を人差し指でつついてやれば、面白いように臨也の体はびくびくと跳ねた。
「──っあ、ああ…っ、や、駄目、っシ、ズちゃ…ぁ……ひ、ぁ……!」
 感情の昂ぶりが最初から尋常でなかったせいもあるのだろう。いつもよりも遥かに感度よく静雄の愛撫を受け止めながら、臨也は早くも絶頂寸前のようなすすり泣きを零す。
 もどかしいのか、細腰までもシーツから浮いて不規則に揺れているのを感じたが、静雄は愛撫を止めなかった。
 左右を入れ替えて、それぞれを口唇と手指で優しく優しく愛してやる。
 やがて臨也の身体がその愛撫に少し慣れてきて、乱れていた呼吸が僅かに落ち着いたのを見計らい、静雄は少しだけ身を起こして、はじけんばかりに熟れた小さな果実のような尖りを両の手のひらでやわらかく転がすように白い胸を撫でた。
「ふ、あ…っ、ああっ……ん…っ、あ…っ…」
「こうされるの、気持ちいいんだろ?」
 一年以上も愛情を込めて抱き続けてきた身体だ。弱い所も、好きな愛撫の方法も知り尽くしている。
 耳元で囁いてやれば、臨也は甘やかにすすり泣きながら、こくこくとうなずいた。
「気…持ち、いい……っ、気持ち、い…か、ら…ぁっ…、も…ぅ…だめ……っ!」
「駄目? 何がだ?」
 素直に愛撫に応える臨也が愛おしくて、少しだけ意地悪く問いかける。
 勿論、その間も愛撫の手は止めず、硬く張り詰めた小さな尖りをやわらかく摘まんで、その弾力を楽しむように強弱を付けてこりこりと揉みしだき、敏感な先端を舌先でくじるようにつつく。
「や、ああ…っ、駄目っ、だ、めぇ……っ!」
 そして、そっと爪弾くように指の腹で優しく転がしてやれば、その責めにたまりかねたように臨也は高い悲鳴を上げて、上半身を大きくのけぞらせた。
「──っ、ひ、ぁ…っ、あああぁ……っ…!!」
 細い首筋を晒して、びくびくと身体を痙攣させる。その過敏すぎる反応に、静雄はもしや、と手を止めて臨也の下腹部に目を向けた。
 臨也のパジャマは黒のコットンであるために分かりにくいが、よく見れば、確かにそこは濡れて色を濃くしていて。
「胸だけで達ったのか……?」
 さすがに驚いて呟きを零せば、耳聡くそれを拾ったのだろう。
「だ…から……、駄目って言ったのに……っ」
 快楽の余韻にぐずぐずとすすり泣きながら、恨みがましげに臨也が睨み上げてくる。だが、その羞恥に染まった表情は、いつもと同じように甘く宥めてやりたくなるようなものでしかなく、迫力は微塵もない。
 可愛くてたまらず、思わず微笑むと、涙に濡れた臨也の眦(まなじり)が更に吊り上った。
「何笑ってんの……!?」
「そんなん、お前が可愛いからに決まってんだろ」
 笑いながらそう言い、赤く染まった頬に手を添えて臨也が何かを言い返す前に、ちょんと唇にキスを落とす。
「すげぇ可愛い」
 そして目を覗き込んで告げてやれば、臨也は更に赤くなり、また泣き出しそうに目を潤ませた。
「だ…から、俺は男なんだってば! 可愛いとか、全然褒め言葉じゃないし……っ」
「でも言われんのは嫌いじゃねぇだろ」
 臨也が本気で嫌がれば、静雄は二度は言わない。だが、臨也もきちんと理解しているのだ。静雄が可愛いと言うのは、決して臨也を女扱いしているわけではなく、自分を一途に愛してくれるその心の形が愛おしいという意味だということを。
 だから、口先では何と言おうと、本心では嫌がっていないし喜んでもいる。それが分かるからこそ、静雄も可愛いという言葉を繰り返すのだ。
「──嫌いじゃない、けど、嫌だ…っ…」
「何だよ、それ」
 ここまでくると子供がぐずっているのと変わらない。思わず噴き出しながら、静雄は優しい手つきで臨也の頬を撫でた。
「じゃあ、言い方変えてやるよ。すげぇ好きだ、臨也」
 そう表現を変えてやると、今度こそ臨也は言葉に詰まって、悔しさ半分恥ずかしさ半分といった表情でまた目を潤ませる。
 その甘やかな表情に、ああもうこの野郎、と思いながら静雄はもう一度、唇を重ねる。そして深く口接けてやれば、臨也もまた懸命に応えながら静雄の首筋に両腕を回し、縋り付いてきた。
 何度も角度を変えながらキスを繰り返し、息苦しさからか臨也が首筋に爪を立ててきたのを合図にゆっくり解放してやると、臨也は呼吸を乱しながら目を開けて、シズちゃん、と名前を呼ぶ。
 その声のどこか意を決したような響きに気付いて、ん?、と静雄が見つめれば。
「あの…さ、俺が嫌だとか、駄目だとか言っても……、今夜は聞かなくていいから……」
「臨也?」
「シズちゃんの、好きにしていいから……」
 もどかしげに、そして切なげに熱を帯びた身体をすり寄せて、臨也は顔を赤く染めたまま、たどたどしく囁いた。
「俺を、シズちゃんでいっぱいにして欲しい……」
 身も、心も。
 全てを静雄で満たして欲しいとそう願われて、静雄の身体の奥深い部分がぶるりと震える。
 それはもしかしたら、身体ではなく魂が震えたのかもしれなかった。
「──ああ」
 真摯にうなずいて、静雄は臨也の熱を帯びた頬に口接ける。
「全部、お前にやる」
 今夜だけは素直になりたいと願う臨也の心が透けて見えるようだと、静雄は思った。
 生来の捻くれ者とはいえ、この一年で臨也の感情表現は随分と素直になり、静雄に対して訳の分からない屁理屈を捏ねる回数は目に見えて減った。殊に最近は、喜怒哀楽全般について完全に素のままでいると感じることが増えている。
 だが、臨也にしてみれば、それでもまだ足りないのだろう。
 今日という日だけ、この夜だけは何一つ隠さず、全てをさらけ出して愛し愛されたい。
 ついつい、先程のように売り言葉に買い言葉のような反応をしてしまうが、そんなものは無視して、心ゆくまで愛して欲しい。
 その想いが込められた言葉は、間違いなく、折原臨也という人間が差し出した最上級の愛情表現だった。
「臨也」
 愛しさに溺れてしまいそうになりながら、静雄は名前を呼び、薄い唇にそっと触れるだけのキスをする。
 すると、臨也も手を伸ばしてきて静雄の頬に触れ、そっと引き寄せてやわらかなキスを返した。
 そしてまた、潤んだままの透明感のある色合いの瞳で静雄を見つめる。
「シズちゃんも、俺を全部もらってね……?」
 その声は静雄を信じ切っているようで、その癖、どこかおずおずと希(こいねが)うようでもあって。
 静雄は溢れ出しそうな想いを懸命に抑えて、うなずいた。
「頼まれたって、ひとかけらだって残してやらねぇよ」
 お前は俺のものだ。
 そう囁き、ありったけの想いを込めて最愛の恋人に深く深く口接けた。



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