仕切り直しとばかりに、臨也の顔や首筋にいくつものキスを落としながら、静雄の手指がゆっくりと肌の上を滑ってゆく。
手から腕、肩へ上り、胸元を避けるように身体の側面をゆるゆると滑り落ち、腰骨に辿り着いたら爪先へと跳んで、細い脚を丹念に撫で上げる。
それは産毛を撫でるようなやわい愛撫だったが、静雄を愛撫する間、一時逸らされていた臨也の感覚を呼び戻すにはそれで十分だった。
「ふっ…ぁ…、んっ、あ…ん……!」
この上なく優しく肌を撫でられるうちに、全身が再びどうしようもないほど敏感になっていくのを臨也は感じる。
胸元も中心も、触れられることを期待して疼き、もう甘い痛みを覚えるほどだった。
「やぁ…っ、も、さ…わって……、触って…っ……」
どうしようもなくなった体内の熱を持て余して背をのけぞらせ、身をよじりながら、臨也は必死に訴える。肩にすがりつくようにしてきつく爪を立てれば、宥めるように涙の滲んだ目尻にキスを落とされた。
「泣くなよ」
「シ、ズちゃんが、泣かせてるんだって……!」
虐めている張本人に理不尽なことを言われて、思わず臨也は眦を吊り上げる。
だが、静雄は心底嬉しそうに笑っただけで、首筋にかぷりと歯を立てて甘噛みしてくる。同時に太腿を撫で上げた手指がそのまま下腹部に触れてきて、臨也はその刺激に思わず腰を跳ねさせた。
「──っ、あ……っ…!」
脇腹は元々人体の弱い部分であり、触れられれば誰でもくすぐったさを感じるものである。
にもかかわらず、ここまでの愛撫で桁違いに感度を増したそこを意図的に触れられれば、泣き声のような悲鳴を上げないでいるのは絶対に無理だった。
静雄の指先が薄く割れた腹筋を丹念になぞり、大きな手のひらがゆるゆると身体の前面を這い上がる。
「やぁ…っ、も……やめ…て……っ」
「触ってくれって言ったの、お前だろ」
全身にざわざわと鳥肌が立つような快感の波に耐え切れず、もう触って欲しいのか手を離して欲しいのか分からなくなって、捕食動物に囚われた獲物のように小さくもがく。だが、それを静雄が許してくれるはずはなかった。
敢えて胸の尖りだけを避けるように脇を撫でられ、淡い色をした周辺を指先と舌でじっくりとなぞられる。
それだけで、その中心の小さな肉粒ばかりでなく、体の奥深くがどうしようもなく疼き、これで愛撫を待ち侘びて熟れ切った頂(いただき)に触れられたどうなるのだろうと、惑乱した思考で怯えたその時。
「あぅ…っ…!」
掠めるような愛撫が、胸元を襲った。
触れるか触れないか。それくらいのかそけさで、舌先と指先が左右同時に繰り返し触れる。
下から押し上げるようにやわらかくつつき、ゆっくりと爪弾くように転がして弄んでから、最も敏感な先端にそっと舌先を触れることを繰り返す。
「ひ、……あぁっ、あ、ぅ、あ…ん……っ」
静雄は決して先を急がない。過敏すぎる箇所をじっくりと嬲られて、頭の中が真っ白になるような強烈な快感に、臨也は全身をよじり、身悶えしながら泣きじゃくった。
焦らしに焦らされた挙句の愛撫は、うんと優しいのにもかかわらず、まるで雷に打たれ続けているかのように臨也の快楽神経を灼き尽くす。
そして、そのドロドロに融けた灼熱のマグマのような快楽の奔流は──身体の中心へ、そして更なる最奥へと流れ込んでゆき。
「や、だぁっ…、も…ぅ疼いちゃう…っ…」
いつも静雄を受け入れている箇所が、逞しい熱を求めてひくりひくりと息衝き始めている。その感覚に耐え切れず、臨也は泣きながら犯されることを乞うた。
「あぁ…っ…、も…いれ、て…っ、挿れて……っ!」
敏感な尖りに触れられる度、疼いてたまらない最奥を持て余して腰がびくびくと跳ねる。
すると、脇腹から腰骨までをするりと撫で下ろされて、更に疼きがひどくなった。
「シ…ズ、ちゃ…ん……っ」
快楽と涙に霞む瞳を懸命に開いて、まなざしでも求める。
探し当てた静雄の瞳は、強い情欲の光を湛えながらも苦笑するように優しかった。
「ま、ここまで結構焦らしちまったからなあ」
指先で尖りをきゅ、とやわらかくつままれて、その衝撃にびくりと臨也は震える。
それを宥めるかのように静雄は手指の形を少し変えて、人差し指と中指とで軽くつまんだ尖りの先端を親指の腹で何度も何度も優しくかすめ、つついた。
「ひあっ、あああ…ぁっ、あ、ぅ…っ!」
胸元に対する究極の形とも言えるその愛撫に、臨也は新たな雷に打たれたかのように背をのけぞらせ、高い悲鳴を上げる。
だが、静雄は許してはくれず、臨也は全身をびくびくと震わせながら嬌声を高く透き通らせてゆき、やがて力尽きてシーツの上に崩れ落ちた。
「っ…あ……、ふ…ぁ……」
「あー、胸だけで空イキしちまったか」
最初から狙っていたのだろうに、静雄はそんなことを満足げに呟く。
やっと手指を離されたものの、臨也の身体に走るさざなみのような痙攣は治まらず、ひどい、と臨也はすすり泣いた。
「む、ねで…っ、イくの、やだ……って、言ってる、のに…っ…」
「知ってっけどな。でも、すげぇ可愛いし」
「かわ…いい…っ、やだ……っ」
こんな目に遭うのなら可愛いなんて思われたくないと、子供のように泣きながら首を横に振れば、宥めるように頭を撫でられる。
「俺の目がどうかしてるのかもしれねぇけどな。すげぇ可愛いんだから、諦めろ」
好きだ、と駄目押しのようにささやかれ、臨也は嫌々と更に首を横に振る。
だが、その抵抗も、やや強引に唇を重ねられたことで封じ込められた。
「……っ…ん、ふ…っ……あ…」
濃厚に舌を絡められ、たっぷりと口腔を愛撫されて唇が離れた頃には、臨也の思考はぼんやりと霞み、蕩けたまなざしで静雄を見上げることしかできなくなっていて。
「失神しない程度にする、って約束しちまったよな……」
ぼやくように呟いた静雄の言葉の意味も、もう耳を素通りするだけで理解できない。
それよりも胸元だけで達したために返ってひどくなった疼きを持て余し、緩く腰を持ち上げて、すり…と自分の熱を静雄の熱に擦り付けた。
「おい……っ」
「触って……シズちゃん」
慌てたように腰を引いた静雄をそれ以上追うことはできず、代わりに臨也は両腕を持ち上げて静雄の肩に触れ、うなじや頬を撫でる。
「いっぱい触って……、シズちゃんの、挿れて……」
静雄が欲しいと、もうそれだけしか考えられずに、本能のまま甘く囁きかける。
「俺の中、シズちゃんでいっぱいにして……?」
「──あー、クソッ」
甘やかな誘惑に煽られたのだろう。獰猛に静雄が毒付く。
「これで失神しないようにしろとか、拷問だろ……」
こいつがぶっ飛んでるのは俺のせいだけどよ、とぶつぶつとぼやきながらも、もう一度臨也に深く口接ける。
それから、身体を軽く起こし、臨也をころんとうつぶせに転がした。
「シ、ズちゃ……」
「手前はもう黙ってよがってろ」
そんな言葉と共に腰を持ち上げられ、いわゆるバックスタイルを取らされる。
「あー、すげぇひくついてんな。これなら、そうはかからねぇか」
呟きと共に、サイドテーブルの方で少し硬質な音がしたのはローションを手に取ったからだろうか。
顔の見えない体勢はどうしても不安を煽られて、後ろを振り返ろうとした時、不意にぬるりとした感触が秘所を撫でた。
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