「ひぁ…っ」
静雄の体温に馴染んでいるのか、ローションの冷たさは感じなかったが、それでも敏感な箇所への刺激に反射的に身がすくむ。
だが、それ以上に静雄を求める疼きが強烈に身体の奥からこみ上げて、臨也はシーツに額を擦り付けながら必死に耐えた。
静雄の指先は繊細な粘膜をゆるゆると繰り返し撫で、それから固い指先が感触を確かめるかのようにそっと差し込まれる。
乱暴にされていたら、それだけで絶頂してしまっていただろう。しかし、臨也の状態をよく理解しているらしい静雄に指の第一関節くらいまでを浅く出し入れされて、湧き上がる甘い感覚に臨也はたまらずに細くすすり泣いた。
「シ…ズちゃん……っ、あ、ん…っ…」
もっと深く犯されたい。指一本では足りない。
そう思うものの上手く声にならず、震える喉で懸命に静雄の名前を呼ぶ。
すると、長い指がゆっくりと根元まで押し入れられ、柔襞が抵抗らしい抵抗を見せず吸い付くようにひくつくのを確認してから、慣らすようにぐるりと指を回された。
「すげぇ食い付いてくるな。さっき達ったせいか?」
「知、らない……っ」
聞かれても分かるはずがない。分かるのは、自分がどうしようもなく静雄を欲している。そのこと唯一つだ。
「あ…ん……、っあ…、やぁ…っ」
静雄としても特に答えを求めていたわけではないのだろう。ゆるゆると指を動かし続け、魔法のように臨也の身体から更なる快楽を引き出してゆく。
やがて、静雄の指の腹が最も敏感な箇所に触れ、いつもされるようにやんわりと繰り返し柔襞に秘められたしこりを押されて、臨也は甘い声を上げながら腰を揺らした。
「そ、こ…っ、気持ち、いい……っ、あ…んっ……」
「ここな。こうすると……もっと気持ちいいだろ」
「ひっ、あ、あああ……っ…!」
そうして臨也を快楽に狂わせながら、静雄は指を二本、三本と増やしてゆく。
男らしい形の整った指が、他の誰にも触れさせたことのない場所を暴き、犯している──。そう考えるだけで臨也の甘く霞んだ思考は焼き切れそうになり、無意識のうちに静雄の指をきつく締め上げてしまう。
すると、静雄が熱を帯びた声で低く笑った。
「そんなに締めたら動かせねえっての。お前だってキツイだろうが」
苦笑交じりに言われて、臨也は知らない、とシーツにすがりつきながら必死に首を横に振る。
確かに挿入されたものを締め上げれば圧迫感が増して苦しいが、意識してやっているわけではないのだ。咎められても、宥められても、どうすることもできない。
そんなきつさを増したという柔襞を、しかし、更に広げるようにじっくりと虐められて、臨也は切れ切れに甘やかな悲鳴を上げた。
「……っ、あ…、やっ…そ、こ……っ」
「んー、こっちか?」
「ちが…っ、もっと、奥……っ」
「これ以上は指じゃ届かねぇよ」
本当なのか嘘なのか、静雄は含み笑って浅い位置で指を遊ばせる。
どれ程懇願しても疼いて仕方のない奥には触れてもらえず、込み上げる欲望に耐えかねて、ぼろぼろと零れる涙がリネンのシーツに吸い込まれてゆく。
「や…だぁ……、も、やだ…っ、ちゃんと、挿れてぇ…っ…」
ずっと張り詰めたままの熱からは、指を挿入された直後からねっとりした蜜が滴り落ち続けている。静雄はそこには一向に触れようとする気配はないが、僅かでも触れられたらその瞬間、熱ははじけてしまう違いなかった。
そんなギリギリの状態を長い時間強いられて、臨也はもう身も世もなくすすり泣きながら必死に欲しいと訴える。
すると、まぁこれくらいにしとくか、という呟きと共に、ずるりと指が抜かれた。
「あー……」
最奥を苛んでいたものが消え失せて、思わず立てていた膝が崩れそうになる。
だが、静雄がそれを許してくれなかった。
「力、抜いてろよ」
きちんと腰を抱え直され、とろとろにされた蜜口にみっしりとした重みを感じさせる熱が押し当てられる。
「あ……」
この熱さが、重みが、どうしようもなく欲しい。
でも、こんな欲しくて欲しくて気が狂いそうになっている状態で挿入されたら、一体どうなってしまうのか。
自分は壊れてしまうのではないか。
一瞬のうちにそんな相反した想いが巡り、待って、と口走りかける。が、それよりも早く、ぐ…とそこに体重が掛けられた。
「──あ…っ! あっ…ん、シ、ズちゃ……っ」
硬く張り詰め、ずっしりとした重みのある熱がゆっくりと押し入ってくる。
指とは比べ物にならない質量を馴染ませようと、柔襞がひくりひくりと小さく痙攣するのに合わせて緩く抜き差ししながら、奥へ奥へと入り込んでくる。
「う、あ…っ、あぁっ、やっ…、そ、こ……っ」
疼いて疼いて仕方がない所を愛おしい感触が埋めてゆく。
馴染ませるための動きで最も感じる場所を数度擦り上げられ、その果てにずん…っと最後まで熱塊を押し込まれて、臨也はたまらず高い声を上げて昇り詰めた。
「っあ…、ああああぁ──…っ!」
頭の中が真っ白になるほどの強い快感に灼かれ、がくがくと腰を震わせながら熱を吐き出し、深く挿入されたものを食い締める。
「っ…ふ……あ…ぁ…」
よがり狂った柔襞が激しく痙攣しながら食むような蠕動を繰り返す。その刺激にすら感じて、臨也はシーツに額を擦り付けながら、しゃくりあげるように細くすすり泣いた。
「あー、クソッ、食い千切られちまいそうだ」
身も心も蕩けそうな余韻に溺れていると、臨也の絶頂がもたらした締め付けに耐えたらしい静雄が低い声で呻く。
「臨也」
「──っ…んっ」
そして、シーツに上半身をへたらせてしまった臨也の肩を抱き、自分ごと横抱きにころんと横になった。
「シ、ズ…ちゃ……」
「この方が楽だろ」
身体は深く繋げたまま、背後から臨也を緩く抱きしめる。
汗に濡れた肌が触れ合い、伝わってくるいつもより高い体温や速い鼓動に、臨也はすすり泣くような吐息を零しながら静雄の手を求め、頬をすり寄せた。
「シズ、ちゃん、シズちゃん……」
「ん……」
何度も名を呼べば、答える声と共にうなじに幾つもついばむようなキスを落とされる。
薄い敏感な肌を唇で優しく愛撫して、そのくすぐったさにも似た気持ちよさに臨也が首をすくめれば、やわらかく耳朶に歯を立ててくる。
そのいとおしみ、可愛がるばかりの愛撫がどうしようもなく心地良く幸せで、臨也はほろほろと涙を零してすすり泣いた。
「気持ち、いい……」
「ん……?」
「どぉ、しよう、シズちゃん……ものすごく、気持ちいい……っ…」
深く繋がり合ったそこは満たされているだけでも疼くような心地良さがあるのに、柔襞は互いの脈動に合わせて小さくおののき続け、更なるやわらかな悦びを生み出し続けている。
重なった熱く濡れた肌は互いの息遣いまでもを感じ取り、静雄の唇はうなじから肩までに優しい愛撫を送り続け、腕は臨也を包み込んで、大きな手は臨也が手指をすがりつかせるままに優しく握り返してくれる。
何もかも夢のように幸せで、感情のメーターが振り切れてしまったのか、一旦零れ出した涙は止まる気配もない。
子供のように細くしゃくりあげながら泣いていると、ぎゅっと抱き締める腕の力が強くなった。
「馬鹿……。俺だって滅茶苦茶気持ちいいんだよ」
「シ…ズちゃん……」
「お前のここな、気持ちいい気持ちいい、嬉しい嬉しいって俺のを包み込んでくれてる。分かるんだよ。お前が俺を本当に俺を受け入れてくれてるかどうかなんて、こうして身体を繋いじまえば、すぐに分かる」
「……だって、本当に……そうだもん。すごい、嬉しいし、気持ちいいし……」
「うん、分かる。すげぇぴったり吸い付いてきてくれてて、キツイのにやわらかくて、熱くて……。挿れてるだけで溶けちまいそうなくらいに気持ちいい」
低く熱を帯びた声でうっとりと告げられて、臨也の眦からまたほろりと涙が零れ落ちる。
「シズちゃんが……愛してくれるから、だよ……」
「ん……?」
「シズちゃんが、こんなに俺のこと大事にしてくれるから……気持ちよくて、嬉しくて、幸せで……俺ももっと、シズちゃんを大事にして、うんと気持ちよくしてあげたいって……そう思うんだよ」
「臨也……」
愛されているからこそ、身体もまた静雄を一生懸命愛し返そうとするのだと告げると、またぎゅっと抱き締められ、頬にキスが落とされた。
「すげぇ好きだ、臨也。本当に、お前のためなら死んでもいいくらい愛してる」
「俺も、だよ。シズちゃん」
本当に本当に愛してる、と告げて片手を上げ、届く範囲で静雄の髪と頬をそっと撫でる。
「ね……、うんと気持ちよくなって、俺のこともうんと気持ちよくして……?」
「──おう」
そうだな、と温かな声で応じて、静雄は臨也と指を絡ませていた手をやわらかく解き、取り戻す。そして、臨也の肩から二の腕へとすべやかな肌の上に手のひらを滑らせた。
肘まで辿り着くと、そこから脇腹の辺りへと静雄の手のひらは落ち、腰骨を包み込むようにして通り過ぎ、更に手の届く限り下まで降りてゆく。
それからゆっくりと這い上がってきて、脇腹からゆるりと鳩尾を撫で、胸元へと辿り着いた。
大きな手のひらがしなやかな胸筋の感触を確かめ、指先でそっと先端に触れる。待ち侘びていたその愛撫に、臨也は小さな嬌声を上げて、びくりと身体を震わせた。
NEXT >>
<< PREV
<< BACK