「──そうだな。久しぶりだからお前の中で達きたかったけど、それじゃお前がきついよな」
「平気、って言いたいけどね……、うん、多分ちょっと辛くなると思うから……」
普段から静雄の情欲を受け止めるのは、臨也にとってはギリギリの行為である。
静雄は決して無理強いはしないし、臨也も肉体的にはタフな方だ。だが、二人の間には歴然とした体力と筋力の差があり、静雄が本気で貪ったら、臨也など簡単に壊れてしまう。
だから、静雄はいつも臨也に合わせてくれているし、丁寧な愛撫で臨也の快感を引き出すことによって、臨也の身体を静雄の欲求にある程度は耐えられるよう導き、彼自身もきちんと充足感を得ている。
それでも、時折こんな風に盛り上がってしまうとセーブが難しくなるのだ。限界を超えた臨也が失神してしまったことはこれまで何度もあるし、翌日、筋肉痛と疲労で動けなくなってしまうことも稀にある。
臨也はそれを咎めたことはないが、だからといって身体が辛くないわけではない。避けられるものなら避けたいというのが本音だった。
「うんと気持ち良くしてあげるから、一回イって……?」
そう甘く囁きかけながら、うなじをゆっくりと指先で撫で、首筋に唇を這わせる。そして、鎖骨から肩に繋がるラインをくすぐるように丁寧に撫でた。
「達くまでシズちゃんは俺に触らないでね。俺も結構ギリギリだから……」
自分よりは逞しいものの筋肉ダルマというわけではない引き締まった腕のどこにあんな力があるのか、探るように撫でながら告げると、静雄の手が上がり、さらりと髪を撫でられる。
そして、
「一緒にするか?」
告げられた言葉に臨也は一つまばたきした後、小さく首を横に振った。
「……ヤだ」
「なんで」
「だって俺も、シズちゃんをうんと気持ちよくしたいから。触りっこしながら達くタイミングを合わせようとしたら、俺、気が狂っちゃうよ」
「……それはそれで、俺は結構楽しいんだけどな」
「もうヤだ止めてって、わんわん泣きじゃくってよがり狂う俺がシズちゃんは大好きだもんねー」
くすくすと笑いながら、臨也は静雄の肩に歯を立てる。頑丈な彼の肌には、歯形をくっきりと残す勢いで噛みつくくらいがちょうどいい。
「別にお前が先に達ったっていいだろ」
「そうしたら、達く前後は俺、シズちゃんのをしゃぶるどころじゃなくなっちゃうし。それからまた挿れるためにシズちゃんに延々虐められたら、本当に狂い死にしちゃう」
「じゃあ……」
「却下」
「まだ何にも言ってねぇだろ」
「言わなくったって分かるよ。後ろを弄られたら、俺はもうシズちゃんのしゃぶる余裕なくなるから駄目。却下」
「………」
「それに、まだこれから胸を触ってもらって、コレを触ってもらって、それから後ろだろ。いきなり手順すっ飛ばさないでよ。俺も楽しんでるんだから」
そう言えば、それもそうか、と静雄は納得したようだった。
「はい、分かったんならマグロになって。ね?」
軽いキスを一つ落として、それからゆっくりと静雄の肌に手を触れる。
先程までの静雄の手順をなぞるわけではなかったが、指の長い手にキスをして腕の筋肉の形をたどるように、そっと指先を滑らせた。
そして肩まで戻ったところで、今度は鎖骨の形をなぞり、丈夫な骨を肌の上からかりりと軽く齧る。すると、静雄が小さく息を詰めたから、気を良くして再度歯を立てた。
「ここ、気持ちいいんだ?」
「……くすぐってぇ感じの方が強いけどな」
吐息交じりに静雄は応じて、臨也の髪から首筋をやわらかく撫でる。協定違反ではあったが、静雄の手が背中までは降りて行かなかったから咎めるのは止めて、臨也は静雄への愛撫に集中した。
「っ……、そこもくすぐってぇよ……」
敢えて脇の方から筋肉の流れに沿って胸筋を撫で上げると、静雄が小さく眉をしかめる。
「じゃあ、もう少し強くするね……?」
くすぐったいということは快感の一歩手前だ。ならばと、少しだけ指先を立てるようにして力を込め、同じ個所を繰り返しなぞり、ゆるく円を描くように逞しく盛り上がった胸全体を撫でる。
それから、ごつごつと幾つもの隆起を見せる腹筋を一つ一つ、丁寧に指先と唇で愛した。
「……ふ、っ…臨、也……っ」
「気持ち良くなってきた?」
「……ああ」
「じゃあ、下脱がせるから少し腰浮かせて?」
頼めば、すぐに静雄は応じてくれる。パジャマのズボンと下着を脱がせ、あらわになった下半身を臨也は疼くような欲望と共に見つめた。
「もう大きくなってる……」
臨也に愛撫をしている間に静雄自身も煽られていたのだろう。ほぼ完全に立ち上がっているそれを目で愛でながら、臨也は敢えてそこには触れずに下生えをやわらかく指先で梳く。そして、愛撫を続けながら伸び上がるように静雄にキスをした。
「…っ…ん……、シズちゃん……」
臨也が仕掛けたキスに静雄も情熱的に応じてくるのは、興奮が高まってきているからだろう。
「もっと気持ち良くしてあげるね……」
そう囁いて静雄の下唇に軽く歯を立て、臨也は身体の位置をずらす。そして、手のひらを静雄の太腿へと滑らせ、逞しい筋肉を撫でながら内腿に口接けた。
いくら静雄でも、身体の内側にある皮膚は幾らか柔い。そこにリップ音を立てながらキスを繰り返し、時折じっくりと歯を立てる。やわやわと歯に力を込めれば、静雄が低く呻いた。
「ここ? ここ噛まれるの好き?」
甘く囁きながら敏感になってきているらしい肌を撫で、愛情込めて歯を立てる。そうしながら、ふと悪戯心に駆られて丸く膨らんだ陰嚢を指先で優しくつつくと、その思いがけない刺激に静雄はびくりと腰を揺らした。
「っ、おいっ、臨也……!」
「ふふっ、だってさ、なんか可愛く見えて」
成人した男の性器に愛らしさなど、かけらもあるはずもない。が、その形がどうしようもなく愛おしく、可愛がってやりたい衝動に駆られて、臨也は完全に張り詰めた静雄の熱の先端に音を立てて軽くキスをした。
「クッソ……」
「もうしゃぶって欲しくなってきちゃった?」
「当たり前だろ。さっきからその口に突っ込みたくて仕方ねぇよ……」
「ふふ、でもまだ駄目。もう少し我慢して……」
焦らせば焦らすほど快感が高まるのは、何も臨也だけの話ではない。身体を重ねるようになった最初の頃はその辺を分かっていなかった臨也だが、静雄に愛されるうちに学習したのだ。
フェラチオといっても即咥えたところで、快感はそれほどのものでもない。だが、その前に散々に焦らされると、同じ射精でも天と地ほどにも違う深いオーガズムを味わうことができるのである。
それが分からなかった頃は、少しでも早く射精に導くことが上手さだと思い込んでいたが、今は違う。余裕を持って静雄を焦らし、その反応を愛でることができるようになっていた。
そそり立った熱塊を、ごくやわらかな動きでさわさわと撫で、わざと音を立てながら幾つものキスを落とす。時折悪戯に唇で食めば、その度に静雄は低い呻きを零した。
「ああ、濡れてきた……。気持ちいいんだね、シズちゃん」
愛するうちに静雄の熱は更に昂ぶりを増し、先端に透明な雫が滲み始める。愛おしさを込めて臨也はその雫を舌先で舐め取った。
「……っ、臨也……」
「うん、もう少し……」
我慢してね、と甘く囁き、裏筋の窪みをそっと舌先でくすぐる。窪みをなぞってゆっくりと舌先を上下させれば、たまりかねたように静雄の腰が震えた。
そろそろ頃合いだろうと反応を計りながら、臨也は指先でもゆっくりと上から下まで往復させるように形をなぞる。同時に舌を伸ばしてねっとりと舐め上げ、雁首周辺の複雑な窪みと怒張に丁寧に舌先を這わせた。
そうして散々に焦らし、静雄が快感をこらえる険しい表情できつく目を閉じているのを確かめてから、臨也はゆっくりと先端に唇を寄せる。
「すごい、びしょびしょ……」
濡れたそこを舌全体でやんわりと舐め、それから唇を開いてゆっくりと表面を滑らせながら先端を口に含んだ。
それだけでも口の中がかなりいっぱいになる大きさの雁全体を含んだまま、ゆるゆると舌を動かす。そして十分に愛撫してから、それを更に口腔の奥へと導いた。
「い、ざや…っ……う……ぁっ」
焦らすことは止めず、唇でじっくりと圧をかけながら逞しい幹を含んでゆく。同時に指先で輪を作って、下から上へと唇にぶつかるところまで撫で上げると、静雄の腰が緩く突き上げるような動きで揺れた。
その動きに逆らわず、だが、快感を長引かせるために力を少しだけ緩めて臨也は舌を這わせ、指先で下生えや蟻の戸渡りを撫で、手のひらで袋を温めるように転がす。
そして、口の中に溢れる先走りが苦みを帯びてきたところで、一旦口を離し、手指での愛撫に切り替えて、自分の呼吸を整えながら静雄の様子をうかがった。
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