「すげぇ敏感だよな、ここ……」
熟れ切った小さな尖りを優しく指先で撫でられ、摘まれる度に甘い声が零れてしまう。
同時に、体内に深く含んだ静雄の熱をも締め付けてしまい、そこから生まれる疼くような感覚がじわじわと広がってゆく。
「っ、あ……シズ、ちゃ…ん…っ」
生涯の恋人の名前を呼びながら、柔襞が疼くのに耐え切れず臨也は腰をもじつかせる。
だが、深く楔を穿たれて抱き締められた体勢では、僅かしか身体を動かすことができず、加速度的に疼きが膨れ上がってゆくばかりで、どうにもならない。
「あ、や…っ、もう、動、いて……っ」
背をのけぞらせて快感を逃そうにも、それすら許されない。拘束されたままの濃厚な愛撫にたまらず臨也は静雄の腕に爪を立て、かろうじて自由になる足をシーツの上で小さくもがかせた。
「お前ン中、すげぇびくびくしてる……もっと奥に来てくれって言ってるみてぇ」
「やぁ……っ」
耳元で低く囁きこまれて、臨也は嫌々と首を横に振る。
静雄の言うことには、凡(およ)そ嘘はなかったが、熱を帯びた低い声はそれだけでも甘い愛撫だ。何をされても感じ入ってしまう今の臨也にとっては、甘い毒に他ならない。
どうすることもできず、注がれる愛撫に喘ぎながら静雄の腕に爪を立てていると、不意打ちで静雄がゆるりと腰を動かした。
「っあ……っ!」
それはほんの僅かな動きだった。ほんの少し、計測すれば一センチもない程腰を退き、そして緩く押し込む。
それだけのことだったが、待ち侘びていた臨也の性感を狂わせるには十分に過ぎた。
「あ──っ、あ、あっ…、やぁ…っ……!」
身体の奥深くにある敏感な場所を静雄の熱に愛される。その感覚がもっと欲しくて自然に腰が揺れ始める。
横抱きにされた不自由な体勢であっても、うまく膝や上半身で体重を支えれば、それを貪ることはどうにかできなくもない。
勿論、決して十分な動きではなかったが、それでも擦れ合うところから得られる甘い愉悦に臨也は夢中になった。
「あ…、あ、や…っ…止、まん、ない……っ」
前後に揺らして小さな抜き差しを愉しみ、あるいは腰を強く押し付けて柔襞に秘められた感じやすい箇所を静雄の熱に擦り付ける。
「気、持ち、いい……っ、気持ち、いいよぉ…っ…、シズちゃ……あぁっ」
止め処もなく甘い声を上げながら、臨也が自分の動きが生み出す快感を味わっていると、静雄が小さく含み笑った。
「メチャクチャ可愛いけど、顔が見えねぇっつーのはな」
そんな呟きと共に自分の上体を起こし、臨也の脚を折り曲げさせて体勢を入れ替える。その弾みに、僅かにではあったが繋がった箇所に静雄の体重がかかり、臨也は小さく呻いた。
「っ、い、たい……っ」
「あ、悪ぃ」
すぐに静雄は角度を緩めてくれ、痛みはふっと消える。一瞬強張った身体は直ぐにやわらかくほどけて、深く繋がった箇所からじわりと快感が広がってゆくのを感じ、臨也は静雄を見上げて微笑んだ。
「もう大丈夫……気持ちいい……」
「ん……悪かったな」
「平気……」
そのまま上体を屈めてきた静雄に口接けられ、首筋に両腕を回して応える。すると、キスをしたまま背中を抱かれ、身体を起こされた。
「っ…ん……」
身体の密着度は先程までより薄くなったものの、異なる角度で一層深く繋がり合う対面座位の形になり、長いキスを終えた臨也は静雄の顔を両手で包み込むようにして見つめる。
「シズちゃん」
明るい鳶色の瞳が熱情を込めて自分だけを見つめている。そのことがただ嬉しくて微笑むと、首を伸ばした静雄に、ちょんと唇にキスをされた。
「ったく……。可愛過ぎだ、お前」
「ふふっ、俺のこと、可愛いなんて言うの、シズちゃんだけだよ」
「当たり前だ。他の奴になんざ、言わせてたまるかよ」
お前の可愛いところを知ってるのは俺だけでいい、と静雄は臨也の左手を取り、薬指に煌めいているプラチナのリングに口接ける。
その独占欲が嬉しくて、臨也は右手で静雄の頬をそっと撫でた。
「うん、シズちゃんだけでいいよ。っていうか、シズちゃんだけじゃないと嫌だし、そもそも無理」
こんなに何もかも明け渡せるのは静雄だからだ。
世界で唯一人、何があっても愛し抜いてくれると信じられる相手だからこそ、身も心も全てを委ねられる。
心と身体の全て、魂のひとかけらまで静雄には愛して欲しかったし、自分もまた愛したいと思うから、全てをさらけ出すことに何の躊躇いも覚えない。
「全部、シズちゃんだけ」
独占するのもされるのも、ただ嬉しく幸せで、静雄の金色の髪に頬をすり寄せる。
少し痛んではいても、元々はやわらかい髪質らしい静雄の髪は、猫のようにじゃれつく臨也の頬をふわふわと受け止めた。
「……お前って、本当に猫じゃねぇの? サクラみてぇな真っ黒けの猫」
「失礼な、って言いたいけど、いいよ、猫でも。シズちゃんが一生可愛がってくれるんなら、猫でも何でもいい」
「そうか? じゃあ、首輪買ってやらねぇとな。サクラとお揃いの赤いやつでいいか」
「ヤだ。首輪嫌い」
猫の顎をくすぐるように首筋をくすぐられて、臨也はくすくすと笑う。
「首輪なんかなくても、この指輪があるからいいでしょ」
そう告げて左手を翳すと、それもそうか、と静雄も笑った。
そして二人は、また唇を重ねる。心ゆくまで舌を絡め合い、互いの歯列や口腔の仕組みを確かめ合うように愛撫しながら、その感覚に酔う。
その合間に、臨也の背を抱いていた静雄の手がゆっくりと下へ滑り落ち、敏感な腰のくぼみから丸みの狭間へと指先を這わせた。
「──っ、ん…っ……ふ、あ……っ」
薄い皮膚がいっぱいに広がって静雄の熱を受け入れている。互いの蜜やローションでしとどにぬめっているそこを、ゆるゆるとなぞるように撫でられて、臨也は小さく喘いだ。
「すげぇよな、あんなに小さくて狭いのに、こんな風になってよ」
「あ……、だ…って、シズちゃんで、いっぱいにして、欲しいから……っ」
「だから煽るなっつーの」
喘ぎながら懸命に答えると、静雄は苦笑する。
そして、臨也の身体を抱え直した。
「どうする? このままもう一回、達っとくか?」
「……やだ」
問われて、臨也は小さく首を横に振る。
「次は一緒がいい」
「……そうか」
臨也の答えにいとおしげに微笑み、静雄はそっと臨也の頬を撫でた。
「じゃあ、もう少し、な」
「うん」
ここまでも十分に時間はかけているし、互いの性感も、その気になれば直ぐに絶頂に到達できるくらいまで昂まっている。
だが、もう少し、本当に我慢できなくなるまで二人で一つになっている幸せを味わっていようと誘われて、臨也は素直にうなずく。
「大好き、シズちゃん」
「俺も、すげぇ好きだ」
何百回目とも知れない愛の告白をまた繰り返し、いっそ馬鹿げているほどの幸せを噛み締めながら、二人はもう一度、互いを抱き締めて深く口接けた。
to be continued...
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