「ものすごく気持ちよさそう、シズちゃん」
「っ……、いいに、決まってんだろ……」
 指先で上から雁をつまむようにしてくりくりと撫で回すと、静雄は耐えかねるように目を細め、眉をしかめる。
「お前、上達し過ぎだ」
「そう? じゃあ、もっと味わせてあげる」
 嬉しいな、と笑って臨也は静雄の熱の根元を持ち、細かいバイブレーションを与えるように揺らす。と、静雄の熱は少しだけ勢いを納めたように見えた。
「……おい、そのテク、どこで覚えた」
「あ、これ? ネットで拾ったんだよ」
 少しでも快感を長引かせるには、いきり立ったものの熱を引かせることも必要になる。それには何故だか、このバイブレーションが効くのだと、どこぞのブログだか掲示板だかに書いてあったのだ。
「……それ、ソープなんかでよく使うテクだぞ」
「へー。それはそれは。よく御存じで」
 悪びれもせずに解説する静雄に、さすがに少しだけむっとして臨也は、静雄の熱を手のひらに収め、きゅきゅっと捻るような動きで愛撫する。
 途端に、静雄は喘ぐような呻き声を上げた。
「これもねー、切り札的なテクだよねー。普通、男は自分でやる時も上下運動しかしないからさぁ。捻りを加えられると弱いんだよねー」
「わ、かった! 俺が悪かったから、ちょっと、やめろ……っ」
「ヤだ」
 静雄が時折、水商売や風俗の女に襲われていたのは既に過去の話である。静雄が愛撫のテクニックに長けているのもそのせいだと臨也は知っていたし、臨也との恋に落ちてからは一切、他の相手には触れていないことも知っている。
 だが、それでも知らない女の影をチラつかされたら腹が立つのだ。
 付き合い始めの頃は、そんな嫉妬を見せることはできなかったが、指輪を交換してそれなりの時間が経過した今は、多少の嫉妬をしたところで静雄が怒らないことはもう分かっている。
 だから、臨也は遠慮なく静雄を愛撫で責め立てた。
「ホントにさ、一体何人の女と経験したわけ? 答えなんか聞きたくないけど。その相手全員、八つ裂きにしたくなるから!」
「だ…から…っ、悪かった、つってんだろ……っ…」
「別にいいけどねー。今は俺だけだって知ってるし。でもムカつく」
 ふん、と鼻を鳴らして、臨也は愛撫の勢いを少しだけ緩め、伸び上がるようにして静雄の唇に口接ける。
 たっぷりと舌を絡めて長い長いキスをした後、唇を離して至近距離から静雄を見つめた。
「過去のことはいいよ、シズちゃん。俺だって褒められたもんじゃないし。でも、昔のことをチラつかせるのは止めて」
 真面目にそう告げれば、静雄もまた、快楽に耐える色をあからさまに浮かべてはいたものの、真面目にうなずいた。
「ああ。俺が悪かった。許してくれ」
「──うん」
 ありきたりの、だが心のこもった謝罪に臨也はうなずく。
 そしてもう一度、今度はゆっくりと口接けた。
「好きだよ、シズちゃん。本当に好きだから、俺に嫉妬させないで……」
「ああ。もう言わねえ」
「うん」
 約束してね、と囁き、臨也は止まってしまっていた手を再び動かして、静雄のものを優しく撫でる。
 そして、身体の位置を元に戻し、それをそっと優しく口に含んだ。
 ゆっくりと丁寧に舌を這わせ、指の動きも合わせてやわらかく責め立てる。そうするうちに一層熱が昂って膨れ上がるのを感じ取って、少しずつ動きを早めてゆく。
「ね、シズちゃん、もう我慢しなくていいからね……?」
 アクセントをつけるために横咥えにして唇で全体を食み、それから再び喉奥まで呑み込んで更に愛撫を深める。
 これが一年半ほど前であれば、臨也は静雄が過去に経験した誰よりも深い快楽を与えたくて、むきになっていただろう。だが、うんとうんと気持ち良くなって、と念じながら愛撫する臨也の脳裏からは、既に先程の会話は綺麗に蒸発していた。
 とにかく好きでどうしようもなくて、全てが愛しい。
 その想いだけで一心不乱に静雄のものを愛する。
「あ…クソッ、臨也……っ、もう……!」
 やがて切羽詰まってかすれた声と共に、乱れた黒髪に手を添えられて、臨也は全体を強く吸い上げると同時に、輪の形にした手指で根元に捻るような愛撫を加えた。
 そのツボを心得た鮮やかな手管に耐え切れず、静雄は小さく声を上げて熱を迸らせる。
 喉奥に吐き出されたそれを臨也は動きを止めて受け止め、全て飲み干した。
 それから唇で全体を拭うように吸い上げながら静雄のものを離し、しとどに濡れた口元を指先で拭う。
 そして、脱力してベッドに転がる静雄を見やった。
「シーズちゃん。気持ち良かった?」
「……気持ちいいなんてレベルじゃねぇよ……」
「ふふ」
 精魂尽き果てたような静雄の返事が嬉しくて、臨也は静雄の上にぴったりと身体を伏せる。すると、耳を寄せた胸元で静雄の心臓がどくどくと脈打っているのが聞こえ、それがまた嬉しくて口元が緩んだ。
「お前、テク付け過ぎだ」
「シズちゃんに言われたくないですー」
 普段、焦らしに焦らされて泣かされているのだ。たまにはこれくらいいいだろうと、研究の成果に臨也はほくそ笑む。
 と、静雄の腕が背に回ったと思った途端、くるりと身体を回転させられて、臨也はベッドの上に仰向けに組み伏せられていた。
「すげぇ良かったから、今度は俺が今の倍くらい感じさせてやるよ。今以上の天国に連れて行ってやる」
 至近距離で目を合わされ、盛りの付いた野獣の笑みと共にそう宣言されて、不覚にも臨也の心臓はとくとくと期待にときめき始める。
 だが、期待を口にする寸での所で、それが本末転倒であることに気付いた。
「あのさ、シズちゃん。俺、君ががっつくのを防ぐためにフェラしたんじゃなかったっけ?」
「あー、そういやそうだったな」
「そうだよ! 煽るためにしたんじゃないよ!」
「だったら、もっとつまんねぇフェラしろよ。あんなん、煽られて当然だろ」
「……そんなんじゃ意味ないじゃん……」
 何が悲しくて、わざと下手な真似をしなければならないのか。嫌いな相手とするのではない、最愛の相手に施すのだから、愛撫が最上のものになるのは当然のことだろう。
 なのに無茶を言う静雄が恨めしくて睨めば、静雄はふっと相好を崩して臨也の鼻先にキスを落とした。
「あのな、別にお前にガンガン突っ込んで無茶しようってわけじゃねぇよ。俺もお前をうんと気持ち良くしてやりたいだけだ」
「……それでも感じさせられ過ぎると、結構辛いんだよ?」
 甘い仕草と声と笑みに、それだけでもう許す気になってしまいながら、一応口先では物言いを付けてみる。
 すると静雄は、直ぐに言い方を変えた。
「だったら、お前が失神しない程度にはセーブするって約束してやる」
「まあ、それくらいなら……いいよ」
 静雄は一度約束したことは必ず守る性格だ。だから、約束の内容よりも約束してくれたことそのものが嬉しくて、臨也は小さく微笑み、静雄の頭を引き寄せてキスをする。
 キスはすぐに深くなり、力強い腕にうんと優しく背中を抱き寄せられる。
 そのことがただ幸せで、臨也はためらうことなくその腕に自分の全てを預けた。





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