「っ、あ……、や…っ…」
「何が嫌だ? 気持ちいいだろ?」
 笑みを含んだ静雄の低い声が降ってくる。そこに隠されている戯れを理解して、臨也はもどかしい快感に浅く喘ぎながら目を開けて、静雄を見上げた。
「だ、から……、もどかしいん…だってば……」
 少しだけ甘えを滲ませた声で訴える。
「もう、脱がして……」
 そう求めれば、静雄の目に浮かぶ欲の色が深くなり、臨也もまた、その目の色にぞくりと身体の奥が濡れるのを感じた。
 互いに分かっていて、煽り煽られる。何度も身体を重ねた相愛の相手だからこそできる戯れは、この上なく淫らで愉しいものだ。
 だから、静雄は普段の彼からは想像もつかないような淫靡な語彙を駆使するし、臨也もまた、他人に対しては絶対に売らない媚と甘えをふんだんに振り撒く。
 身体だけではなくまなざしでも言葉でも、それぞれの手管を出し尽くしてSEXを堪能する。それが二人で見つけた、二人にとっての最上の愛し合い方だった。
「ね、直接触って……」
「手前で着たくせに」
「だって、シズちゃんが喜ぶと…、っ、ん……思ったし……」
「まあ、確かに好きだけどな」
 言葉を交わす間も、静雄の指先は動き続けている。完全に立ち上がって硬くしこった尖りを布越しにあくまでもやわらかく、くりくりと弄られて、臨也はじわじわとこみ上げる疼きに耐えかね、小さく腰を揺らした。
「や…っ…、ね、もう……」
「着たままじゃ駄目なのか?」
「駄目……っていうか、やだ……」
 直接触られた方がずっと気持ちいいのは間違いのない事実だったから、臨也は本心からねだる。
「ね、脱がしてくれないんなら、自分で脱ぐ、よ……?」
 勝手に脱ぐなと言ったくせに、と暗に責めれば、静雄は面白げに笑んだ。
 そして、フランネル生地の上から指の腹で小さな尖りをきゅっと軽く押し潰す。
「ひぅ…っ…!」
「じゃあ、脱げよ」
 鋭く突き抜けた快感に臨也が身体を撓らせるのと同時に、耳元で低く告げられて。
 じわりとまた一つ、自分の中で何かが蕩けてゆくのを臨也は感じた。
「い、いの、脱いでも……?」
 臨也は本来、他人に対しては完全な攻撃型で被虐趣味は微塵もない。だが、静雄にだけは何をされても構わなかったし、また、猫科の肉食獣が獲物を弄ぶように虐められると、ぞくぞくと芯から悦びが込み上げるのを抑えられない。
 だから、今も自分で脱ごうと思えば脱げたのに、敢えて自分からは動かなかったのだ。
「ああ」
 快楽に潤み始めた目で見上げれば、許しと共に触れるだけの小さなキスが唇に降ってくる。
 その感触の優しさにうっとりと溺れながら、臨也は、じゃあ、と静雄を見上げたまま、手さぐりでボタンのパジャマに指を懸けた。
 手元を見ないまま、敢えてゆっくりゆっくりとボタンを上から三つ外し、スローモーションのように胸元を開く。わざと全部のボタンは外さなかったのだが、そのあざとさを見逃すことなく静雄は反応して、目の色を深くした。
「ね、触ってよ……」
 ひそめた声で誘いかければ、静雄は眉をしかめて熱くなった息を小さく吐き出す。
「お前、エロすぎだろ」
「……そんなの、当たり前だろ。君とSEXしてる最中なんだから……」
 ただの恋人を超えた、生涯の伴侶と定めた相手と抱き合っているのに、いやらしくならなくて一体いつなるのか。
 全身全霊を込めて誘い、煽っているのだから、反応してもらわなければそれこそ困る。
 そう思いながら臨也は手を伸ばし、静雄の右手を取って引き寄せ、指先にそっと口接けた。
「この指でいっぱい触って、気持ち良くしてよ、シズちゃん」
「……ったく、しょうがねえ奴」
 苦笑交じりの溜息をつくように呟き、静雄は臨也に口接ける。噛み付くような激しく深いキスに、臨也もためらうことなく応じた。
「もうヤだ許してくれって泣くまでやっても、文句言うなよ」
「言わないけど、うんと優しくしてくれないと駄目」
 だって三週間ぶりなんだよ、と静雄の頬を指先でそっとたどりながら訴えれば、それもそうだな、と静雄は小さく笑った。
「じゃあ、もっと激しくしてくれもう嫌だってお前が泣くくらい、優しくしてやるよ」
「……いいけど、そんなに泣かせたいの?」
「おう」
 臨也が軽く眉をしかめて問えば、静雄は悪びれもせずに臨也の頬や目元に幾つものキスを落としながら肯定する。
「お前の泣き顔とか、泣きながら嫌だ嫌だって言う時の声、すげぇクるんだよ。エロいし可愛いし。丸ごとバリバリ食っちまいたくなる」
「……あ、そう」
 悪趣味、とは言えない。SEXの最中に静雄にそう思ってもらえるのは、臨也にとっても本望だからだ。
 ただ、可愛いという語彙には、嫌じゃないけど嫌だという相変わらずの心理が働くため、手放しには喜べないのも相変わらずだった。
 でも、と臨也は呟く。
「まあ、俺もしてる最中に虐められるのは嫌いじゃないしね……」
 こちらが反射的に嫌だと口走ってしまうところを更に責め立てられた時の快楽は、それこそ奈落に落ちるかと思うほどに深い。
 だから、「嫌だ」と「もっとして」がイコールであるのは既知の事実で、散々抱き合ってきた仲としては今更確認することでもない。
 そんな風にぼんやりと考えていると、またもや唇をついばむような優しいキスで奪われた。
「俺も、やってる間だけはお前のことを滅茶苦茶虐めたくなるんだよな」
「……うん、知ってる」
 悪びれることもなく言われて、臨也は小さく笑む。
 気が狂うかと思うほど焦らしに焦らされ、追い詰められるのが臨也は好きだったし、静雄も焦らしに焦らして泣かせるのが好きなのだから、最高に相性がいいと言うべきなのだろう。
「じゃあ、二人でうんと気持ち良くなろう?」
 微笑んで静雄の首筋に両腕を回せば、当然とばかりに笑みを返される。
「途中で根を上げんなよ」
「そりゃ上げるよ。上げるけど、でも止めないで。嫌だって言って泣いても、もっと気持ち良くして」
「おう」
 甘くねだれば、望むところだとばかりに口接けられる。
 その熱く甘やかな歓びを、臨也は目を閉じて受け止め、同じだけの歓びを返した。

to be continued...



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