闇の雨 (3)














ゆっくりとした仕草で髪を梳かれる。
その手が、温かい、と思った。








触れるだけの口接けが、何度も繰り返される。
その合間に、呂望はぼんやりと目を開く。と、まっすぐに見下ろしてくる瞳と視線が合った。

砕け散る一歩手前の少女の心を映した、潤んで揺れる瞳を見つめ、楊ゼンはその目元に一つ、キスを落とす。
そして、低くささやいた。

「大丈夫・・・・。こんなことで、あなたは変わらない」

揶揄の気配など微塵もない、真摯な響きに、呂望が意味を問うように涙に濡れた瞳をまばたかせる。
その前髪を優しく梳きあげてやりながら、楊ゼンは続けた。

「僕は今からあなたを抱きますが、僕が奪えるのは、あなたの身体だけです。心までは汚せない。あなたの一番綺麗な部分は、他の誰にも触れられないんです。分かりますか?」

語る言葉はこれまでになく静かだった。

「大したことではないとは言いません。どんなに辛いことかは、今のあなたを見ていれば分かります。でも、こんな卑劣な現実に汚されて立ち直れないほど、あなたの心は脆弱ですか? そうではないでしょう?」

何故、青年がこんなことを口にするのか分からないまま、それでも呂望の瞳から涙が零れ落ちる。
極限状態で与えられた、優しい言葉に心が震える。

「この6日間、ずっと見ていて分かりました。あなたはまだ若いし、完璧ではない。でも、決して弱い人間ではない。
だから・・・・自分を信じて」
「──どう・・・して・・・?」

自分を傷つける側の・・・・好奇心で動いていたはずの青年が何故、こんな言葉をくれるのか。
分からなくて、呂望は泣き濡れた細い声で問いかける。
と、青年は淡い微笑を口元に滲ませた。

「あなたが気に入ったから、という言葉は、今の状況ではあなたを傷つけるだけでしょうね。僕はただの賞金稼ぎで、追い詰められたあなたを連れて、一緒に逃げてあげられるわけではありませんから。
・・・・でも、ぎりぎりのところで、あなたの苦痛をほんの少しだけやわらげてあげることは、僕の裁量でできる。それだけのことです」

それだけだ、と青年は言った。
だが。

「──逃げることが・・・・叶わないのなら・・・・」

涙に濡れた瞳を伏せて、呟くように呂望は告げる。

「他に方法がないのなら・・・・・。あなたなら・・・・いい」

そして、もう一度青年を見上げた瞳から、また涙が零れ落ちる。
その深い色をした瞳を、少しだけ驚いたように見つめて。
楊ゼンは少女の苦痛を思いやるような色を表情に滲ませ、そっと白い額に口接けた。

「・・・・・今、この一時だけ、僕は誰よりも深くあなたを愛します。それでいいですか・・・・?」

真摯なささやきは、許しを請うているわけではなかった。
ただ、理不尽な現実の前で、せめてもの誠実さのかけらをのぞかせた声に、呂望はうなずく。

愛などという言葉は、世界の何よりも遠い。
けれど。

「楊ゼン・・・・」

涙に濡れた切ない声で名を呼び。
優しいキスが応える。

ゆっくりと長い夜が始まろうとしていた。











額に、目元に、頬に、優しい口接けを落としながら、ブラウスのボタンが一つずつ外されてゆく。
外気に肌が晒される冷やりとした感覚に、ほのかに震えはしたものの、呂望は青年の手を制止はしなかった。
恐怖や怯えがないわけではない。
これまで誰にも触れられたことのない肌に手指を触れられ、すべてを曝け出させられる事が恐ろしくないはずがない。
曖昧な話でしか知らないそれが、どんな苦痛を・・・・・感覚をもたらすのか、まったく予想がつかないからこそ、怯えおののくしかない。
けれど。

「大丈夫ですから・・・・・」

低い声が繰り返し、耳元でささやく。

「こんな事では、あなたは汚れない。僕には、あなたを汚すことはできません」

詭弁だと思った。
汚れるとか汚れないとか、そんなことは、ただの観念であって、躰を奪われるという目の前の現実の前では何の意味も持たない。
けれど、敢えて詭弁であると承知しながらも、繰り返し言い聞かせてくれる青年の、おそらくぎりぎりの優しさがひどく胸に痛くて。
また涙が零れ落ちる。
と、こめかみを伝った雫を、優しい唇が捉えた。

「泣いて、いいんです」

この躰を組み敷きながらも、青年の声も指も唇も、どこまでも優しい。

「どれだけ泣いても、今ここにいるのは僕だけですから。期限が過ぎてしまえば、もう二度と会うこともない。幻のようなものです」

うたかたの夢と呼ぶには、あまりにも痛すぎる。
けれど、無かったことにして忘れていい事だから、と低い声がささやき、熱を帯びたやわらかなものが、鎖骨の窪みに押し当てられて。
びくりと躰が震える。

不快とか、そういう問題ではなかった。
ただ。

───怖い・・・・!

未知の行為が、ただ怖い。
シーツを握り締める手が、かすかに震え出す。いけないと・・・・止めようと思っても止まらない。
と、青年の手が、そっと髪をやわらかく梳いた。

「愛してます」
「え・・・・」

サイドランプだけの淡い明かりの中、目を開いて見上げた青年の顔は、錯覚しそうになるほどに誠実な瞳をしていた。

「言ったでしょう? この瞬間だけは、誰よりもあなたを愛すると・・・・・。あなたにも僕を愛せよとは言いません。でも、もしできることなら錯覚してしまった方がいい」

たとえば、と青年は続ける。

「一年程前のあるパーティーで、僕とあなたは出会った。可憐なあなたに僕は一目で恋をして、愛を告白する。あなたはもちろん戸惑って、すぐには受け入れてくれない。でも、僕は事ある毎に花を贈って、カードを贈って・・・・少しずつ、あなたも心を開いてくれる」

おとぎ話のような恋物語を、馬鹿馬鹿しい、と笑い捨てても良かった。

「二人で一緒に美術館に行って、ドライブをして、食事をして・・・・。そして、初めてのキスをする」

青年の唇が、優しく重ねられて。

「そして・・・・あなたの十六の誕生日に、初めての夜を迎える」

そう言い、青年は呂望の髪を優しく撫でた。

「笑い飛ばしてもいいですよ。こんなのはただの欺瞞です。でも」

信じられるものなら信じてしまった方が楽でしょう、といたわるような瞳が呂望を見つめる。
その瞳を、呂望は涙に濡れたままの瞳で見つめ返した。

「───あなたが・・・・」
「はい」
「私の・・・・恋人・・・・・?」
「そうですよ」

ためらいもなく答えて、青年は呂望の額に口づける。

「永遠にあなたを愛すると誓った。何があっても絶対に、あなたを傷つけたりはしないと」
「・・・・本当に・・・・?」
「ええ」

頬を包み込むように触れる手のあたたかさに、呂望は目を閉じる。
低い嗚咽が零れるのを止めることが出来なかった。

──本当に、彼の言う通りだったなら。
どこか違う場所で出会い、恋に落ちたのなら。
どんなに良かっただろう。
どんなに幸せな気分で、今、ここに居られただろう。

閉じた瞼から後から後から溢れ出す涙を止めることが出来ないまま、呂望は頬に触れている大きな手に、自分の手を重ねる。

「──もう一度、言って・・・・・?」
「何度でも言いますよ」

真摯な声と共に、唇をそっとついばまれる。

「愛してます、あなただけを永遠に」

低い、甘やかな声が耳を打つ。


──もう、どんな嘘でも良かった。


それがどれほど空虚な言葉であっても。
真実など砂一粒ほども含まれていなくても。
信じてしまえば、その一瞬だけはそれが真実になる。

「楊ゼン・・・・」

青年の名を呼び、目を開ける。
濡れて滲む視界に映るのは、これまで見たこともないような美しい容姿の青年。
きっとどこか、遠い場所で出会って彼と恋に落ちたのだと。
ありえない幻想に、ゆっくりと身も心も任せて。

近づいてきた唇に、目を閉じる。

そして、まるで本当の恋人同士のように深い、むさぼるような口接けを交わして。
するりと肌に触れてきた自分ではない者の体温に、びくりと躰をのけぞらせる。

「あ・・・・!」

ゆっくりと肌の上を動く温かな手のひらに、優しく胸を包み込まれる。
初めての感覚に、激しい羞恥と、そればかりではない何かが込み上げてきて。
しなやかな肢体がシーツの上で跳ねる。

「・・・っ・・・あ、ん・・・っ」

目を開けていられず、何をされているのかも分からない。
けれど、楊ゼンの手が、唇が動く度に悪寒にも似た感覚が体内を突き抜ける。
とりわけ、胸に絶え間なく与えられる感覚がひどく鮮烈で、たまらずに身をよじると、今度はあらわになった腰のラインを優しく撫で下ろされる。

「っあ・・・やぁぁ・・・っ・・!」

そのまま繰り返し、頚椎の数を数えるように過敏な背筋を何度も指先でたどられて、がくがくと躰をわななかせながら呂望は甘やかなすすり泣きを零した。
けれど、優しい指の動きは止むことなく、抱きかかえられるようにして背後から回された手にやわらかく左胸を包まれ、もう片方の手で、なめらかな腹部から脚までをくまなく撫でられて、堪え切れずに甘く透き通った悲鳴が迸る。
もう耐えられない、とそう思った時。
するりと動いた彼の指が、躰の中心に触れた。

「───っ!!」

そこに触れられた瞬間、これまでとは比べ物にならない電撃のような感覚が全身を突き抜けた。
だが、それだけでは終わらず、堅い指先がゆっくりと自分でも触れたことのない箇所を這い回り、何かを摘み上げるように動く。

「い・・や・・・・! 嫌あぁっ!」

脳裏まで真っ白に灼けつくような初めての感覚に、泣き叫ぶようにすすり泣きながらも、与えられる感覚のあまりの鮮烈さに、膝を閉じることもかなわない。
青年の膝の上に抱き上げられ、しどけなく開いた両脚の最奥を優しく苛まれて、初めて味わう官能に少女の肌が淡く桜色に染まり、あえぎながらおののく。
可憐でありながら、匂い立つような甘い艶を帯びたその姿に、見つめていた青年の瞳にも、ふと熱が灯った。

「・・・・・あ・・・」

どれほど懇願しても決して止まなかった指の動きが止まり、ゆっくりとベッドに横たえられる。
その感触に呂望は、ずっと閉じていた目を開く。
と、まっすぐに自分を見下ろす青年と目が合った。

「愛してますよ」

汗に濡れた髪を優しく撫で上げられ、ささやかれる言葉を信じたわけではない。
むしろ、これほど信用のおけない言葉もない、とかすかに残った理性では分かっている。
けれど、この奈落の底のような闇の中では、どんな偽りであろうとすがらずにはいられなくて。
絶望しかない場所でも生き延びるために、夢物語に手を伸ばす。

「呂望・・・・」

自分を呼ぶ声に再び目を閉じて、熱い口接けを受け止める。
何度も舌を絡められ、口腔を優しく撫でられて、その甘いとも熱いともつかない感覚に身を任せたその時。

「!」

最奥に侵入してきたものを感じて、呂望はびくりと全身を震わせた。
知識が皆無なわけではないから、何をされているのかは、分かる。
分かるけれど。

「少し辛いでしょうが、我慢して下さいね。このままだとあなたを傷つけてしまいますから・・・・」

ささやかれる言葉と共に、最奥で異物がゆっくりと動いているのを感じる。
経験のない躰を気遣ってくれているせいか痛みはなかったが、そこから広がる言いようのない違和感に呂望は怯えた。
今までの鮮烈な感覚とは違う。良いとも悪いともつかない曖昧な感覚が、ゆるゆると全身へと染み渡ってゆく。
体内から染め替えられてしまいそうなその感覚に、嫌だと悲鳴を上げようとした瞬間、ぴり・・・と痛みが走った。

「ぁ・・、い・・た・・・・!」

さほど酷い痛みではない。けれど、そこを押し広げようとする異物の動きに、痛みよりも恐怖から本能的に躰がきつく閉じようとする。
と、宥めるように優しい口接けが降ってきた。

「息を詰めないで、力を抜いて・・・・。そうしないと余計に辛いですから・・・・」

できるわけがない、とかぶりを振っても、楊ゼンは指を抜くことはせず、代わりに胸にそっと口接けを落とす。
優しく片手と唇でふくらみを愛撫し、そして花の蕾を思わせる甘く色づいた先端を、やわらかく口に含んだ。

「・・・っふ・・・あ・・・・あぁ・・・っ」

優しく、やわらかく、どうしようもなく過敏になった箇所を刺激されて、呂望は、とろりと熱い何かが溢れ出すのを感じる。
最奥から溢れ出したそれは、挿し入れられたままの青年の指をも濡らして───。

「あああぁっ!」

くちゅり、と聞いたこともない粘質な音が耳に響いた。
最奥でゆっくりと青年の指が動く。それに連動するように、くちゅ、ちゅぷ・・・と響く音が何であるのか。理解するよりも早く、本能で躰が熱くなる。
痛みが消えたわけではなかった。
抜き差しされる度に、言葉にしがたい違和感が走る。
けれど、その痛みを上回って広がる、この感覚は。

「っ・・・あ・・・っん・・・・!」

痛いほどに感じる胸の先端を濡れた舌先に弄られ、優しく歯を立てられる鮮烈な感覚もまた、すべて最奥へと集中してゆく。
そして、それを宥め、また増幅するかのように動く指の感覚がたまらず、呂望は背をのけぞらせてすすり泣いた。
それがどれほど続いただろう。
不意に指の動きが止まり、苛んでいた異物感が消えうせた。

「・・・・・?」

何が、と事態を把握できずに、泣き濡れた瞳をうっすらと開けた呂望に、楊ゼンは軽く口づける。

「力を抜いていて下さいね。痛い時は痛いと言って下さればいいですから」

そう言った言葉と、脚を更に開かせるように触れてきた青年の手の感触に、次に何が起こるのか理解できた。
が、長すぎるほどに長い前戯にさらされた四肢にもう抗う気力はなく、小さくうなずいて言われるままに力を抜こうと努める。
その様子を見て取った楊ゼンは甘く微笑んで、もう一度唇を重ねた。

「今は、誰よりもあなたを愛してますから・・・・」

真摯に響く言葉と共に、熱いものが最奥に触れる。
その熱さに反射的に躰が震えたが、精神的にはもうどこか感覚の一部が麻痺していたのかもしれない。怯えることすら忘れて、呂望は目を閉じる。
その直後。
圧倒的な熱と質量が、呂望の裡へと押し入ってきた。






「・・・ぁ・・・、う・・・・・」

いくら指で慣らされたとはいえ、それと実際の雄とは比べ物にもならない。
これまで誰とも愛し合ったことのない無垢な躰には凶器とすら思える楔に最奥を貫かれて、呂望はかすれた悲鳴を上げる。

「い・・・た・・・・、あ・・・っ」
「息を止めないで、深呼吸して・・・・?」

ささやかれる言葉の意味も把握できないまま、嫌々をするようにかぶりを振り、すがるようにシーツを握り締める。
と、その細い手を、大きな手がそっと包み込んだ。

「呂望」
「・・・・あ・・・」
「もう少しですから。ゆっくりと息をして、力を抜いて」
「で・・も・・・・!」
「大丈夫ですから。躰をこわばらせると余計に辛くなりますから・・・・」

宥めるように優しく触れるだけの口接けを幾つも落とされて、しゃくりあげるようにすすり泣きながら、呂望は言われるままに少しでも大きく息をして、躰の力を抜こうとする。
半端に男を受け入れさせられた状態は、ひどく辛かったが、しかし、止めてくれと言ったところで止めてもらえるものでもないということは分かっていた。

「そう・・・・。できる限り優しくしますから、今だけは全部、僕に任せて・・・・」

ささやく青年の声も、熱を帯びて先程より幾分低い。
そして、また口接けられ、深く舌を絡め合う感覚に呂望が溺れた瞬間を見計らって、ぐいとまた一段深く躰を穿たれる。
行為は決して性急ではなかった。
けれど、躰を押し開かれる苦痛だけはどうしようもない。あえぎ、すすり泣きながらも少しずつ呂望は楊ゼンを受け入れてゆく。
すべてを受け入れるまでにどれほどの時間をかけたのか。
やがて、楊ゼンがかすかに息をつくのを感じて、呂望はかすむ瞳を開いた。

「あ・・・・」

青年の額にも、うっすらと汗が滲んでいる。
どこか苦痛をこらえているようにも見える表情に、耐えているのは自分ばかりではないのだ、と呂望は思う。
彼が耐えているものは自分が感じているような苦痛とは、また異なるものかもしれない。けれど、一方的に快楽をむさぼるような真似をしようとはしない、そのことに、ふと仄かな安堵を覚える。
それが心理的に作用したのか、こわばっていた四肢が溶けるように力が抜け、それに伴って感じていた痛みもわずかながらに和らいだ。

「呂望・・・・」

その変化が彼にも伝わったのだろう、彼は甘やかに微笑んで呂望を見つめ、額や目元に触れるだけのキスを落とす。
錯覚にしか過ぎないのに、ひどく大切に愛おしまれているような感覚を覚えて、呂望は目を閉じ、ずっと手のひらを重ねたままだった楊ゼンの手を、そっと握り返した。

───本当に恋人同士だったのなら。
こんな時は、どんな風に瞳を見交わし、言葉を交わすのだろう。
どんなに、幸せなのだろう。

自分には分からない・・・・決して知ることのなくなったそれが、ひどく遠く、眩しいもののように思えて。
閉じた目から、また涙が零れ落ちる。
と、楊ゼンの唇が優しく涙を受け止めた。

「泣けるのなら泣けばいい。何一つ、あなたが悪いわけじゃない」

それでは何が悪かったのか。
運か、巡り会わせか。
込み上げた嗚咽に躰を震わせながら、どこにもない答えを求めるように呂望は楊ゼンの背へと手を伸ばす。

「もう・・・・いいから・・・・・」

夢でも幻でも、もう何でも良かった。
たとえ何一つ救いにならないとしても、すがれるものがあるのなら、すがりたくて。
抱きしめ返してくれる温かな腕に目を閉じる。

「全部・・・・忘れたい・・・・忘れさせて・・・・」

細く悲鳴のように呟いた声に、背を抱いてくれる腕の力が強くなる。
そして、耳元で低い声が響いた。

「忘れさせてあげますよ、全て・・・・」

そのまま、むさぼり合うように深いキスを交わして。
ゆっくりと熱い夢のような夜が動き始めた。









「っあ・・・ぁ・・・、んっ・・・」

どうしようもなく躰が熱かった。
躰の一番深い部分で、自分ではない肉体が動いている。それだけのことで、どうしてこんな風になるのか、呂望にはまったく分からなかった。
最初に感じていた引き裂かれるような痛みは、とうにどこかへと消えうせ、かわりに今は脳裏まで侵食するような熱さが全身を貫いている。
楊ゼンが動く度、前戯の時とは比べ物にもならないほど重く濡れた音が耳に届くが、今はそれを気にする余裕もなかった。

「・・・っふ・・・・あ・・ぁ・・・!」

熱い手のひらに優しく胸を包み込まれ、頂きに甘く歯を立てられて、全身が総毛立つほどの鮮烈な快感が突き抜ける。

「あ・・ぅ・・・・あ・・、そ・・こ・・・いや・・・ぁ・・・!」

躰の一番奥に、触れられるとめまいがするほどの感覚が生まれる箇所がある。
今まで存在さえ知らなかったそこを繰り返し、熱いもので突かれ、擦られて呂望は息も絶え絶えにすすり泣いた。
躰を繋ぐ。
ただそれだけのことなのに、何故こんな途方もない快楽が生まれるのか。
分からないまま、注がれる熱さに甘く引きつった悲鳴を上げ、躰をおののかせる。
初めて知る官能に狂わせられ、何をどうされても快感としか受け止められなくなった躰の最奥に、力強い雄の存在を刻み込まれて。
早まる律動に、背筋が引きつるようにがくがくと慄え始める。

「あ・・ぁ・・・・、もぅ・・・! あ・・・!」

おかしくなる、と叫んだのか。耐えられない、と叫んだのか。
泣き濡れた悲鳴に応えるように、深く深く躰を融け合わせられて。
すべてが真白に焼け付く。

躰の一番奥で何かが爆発したような感覚に耐え切れず、高く、長く余韻を引く声を上げて。
そのまま呂望は、意識を手放した。















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