愛 人 −L'AMANT− (3)














初めての夜を過ごしてから3日間、この館の主人である青年は、何もしようとはしなかった。
おそらく身体を気遣っていてくれるのだろうとは想像がついたが、しかし、かえって嬲られているような気がして落ち着かなかった。
かといって、彼の訪れを心待ちにしていたわけではない。

ただ。

夜の訪れが怖かった。












突然、静寂を破ったノックの音に、呂望はびくりと身体をすくませる。
「・・・・・・どうぞ」
ぎりぎり、廊下に届くかどうかという細い声で答えると、ゆっくりとドアが開いた。
それと同時に呂望は目線を伏せ、沈黙したまま訪問者を迎える。

「『失われた時を求めて』、ですか」
膝の上に開いた本を見て、彼が微笑した気配が伝わる。
「──他にすることもありませんから。読んだことのない本を読んでみようと思っただけです」



呂望は本が好きだった。が、将来の崑崙グループ会長として祖父に厳しく教育されていたため、高校に上がった頃からは、こういった純文学に目を通す暇はほとんどなくなっていた。
だが、運命の悪戯──というには、あまりにも厳しい波に翻弄された結果、辿り着いたこの館の書斎には、千冊を越える蔵書が収められていた。

もっとも、本が読みたくて書斎に行ったわけではない。
ただ、無為に過ぎてゆく時間が苦痛で・・・・・・言ってみれば、何も考えなくても済む口実を探して、そこに足を踏み入れたのだ。
そして、本当なら一面に並んだ本の背表紙を見ただけで心が浮き立つはずなのに、死んだ魚のような虚ろな気分のまま、何となく目に付いた本を抜き出して、とりあえず部屋に持ち帰った。

だが、そうして現実逃避をしていても、ふと気が緩んだ隙に、心の奥底から浮かび上がってくるものがあって。
現代の叙事詩、とたたえられる大作は、身を入れて読めばとても面白いのだろうが、今は、ただ活字の表面を追っているだけだった。



と、不意に目の前のローテーブルに、小振りのワイングラスが置かれる。
そこに注がれた透明な淡い薔薇色の液体に、まなざしを上げると、青年が甘やかに微笑する。
「アルコールは平気でしょう?」
そして彼自身は、サイドボードからコニャックを取り出して、ブランデーグラスに注ぎながら言葉を紡いだ。

「僕を警戒されるのは当たり前ですが、それで身体を堅くすると、あなたが辛い思いをしますから」

その言葉が含むものに、呂望はぴくりと肩をこわばらせる。
───こんな時間に彼が部屋にやってくる目的など一つしかない。
けれど、3日前の記憶はいまだに鮮やかで、それだけに、身がすくむような感覚も強い。

だから。

膝の上の本を閉じて、テーブルの上に置き、代わりにワイングラスを手に取った。
瑞々しい香りを確かめて、ゆっくりと口に含む。
思った通り熟成の浅い甘口のワインは、口当たりも軽く、ふわりと爽やかな後味が残った。

「お酒には強い方ですか」
「───多分・・・」

未成年ではあったが、会食の場では、どうしてもアルコール類を口にする機会は多くなる。
とはいえ、そういう席で摂取する酒量は大したものではなく、酔ったというほどの記憶はこれまでにない。
だから正確なところは難しいが、世の中には一口飲んだだけで足腰にくる人間もいるのだから、そういうタイプに比べれば、どちらかといえば呂望は強い方なのだろう。

呂望の答えに、楊ゼンは、それなら一つ楽しみが増えましたね、と微笑しながら言う。
笑うことさえ忘れてしまったような自分と酒を酌み交わすことの何が楽しいのか、と呂望は思ったが、所詮、彼の考えなど自分の想像の範疇外のことだったから、すぐに思考を放棄した。

「もう少し飲みますか?」
「いえ・・・・・・」

いっそのこと、泥酔するまで飲んでやろうか、そうなったら彼はどうするのか、と自棄になったような考えも浮かんだが、彼の眼前で醜態を晒すのも嫌で、小さく首を振る。

すると。

微笑した青年が、ゆっくりとした足取りで数歩の距離を近付いてきて。
形のいい手がすいと伸び、呂望の顎を捕えた。

顔を上げさせられて、かすかに瞳を揺らしながら、呂望は瞼を閉じる。

軽くついばんだ後、ゆっくりと唇が重ねられて。
濡れた舌が少女の口腔に忍び入ってくる。
かすかに芳醇なアルコールの香りがする口接けは、あくまでも甘く優しく、過敏な上顎を舐め上げられて、呂望はびくりと背筋を震わせた。

「───っ・・・」
長く深いキスから解放されて、小さく喘ぎながら、ぼんやりと瞳を開くと、至近距離で微笑む青年が映って。
まっすぐに見つめる瞳に、呂望は射すくめられるような気分になる。

「シャワーを浴びておいでなさい」

その言葉に。
逆らうすべはなかった。















熱いシャワーを浴びている間も、3日前の記憶が蘇ってくるようで、呂望は何度も唇を噛み締めた。

白い胸元には、もう何の跡も残ってはいない。
けれど、何も知らなかった躰に刻み込まれた、快楽と苦痛の記憶は、どんなに振り払っても消えることはなく。
目を閉じれば、躰に触れた彼の手指の感触、躰の奥に感じた彼の熱が鮮明に思い出されて、夜、眠りにつくのが苦痛だった。

あれがまた今夜も繰り返されるのかと思うと、たまらなく気分が重くなる。
だが、やはりどこにも逃げ場所がないのは、何も変わっていなくて。
呂望は唇を噛み締めて、シャワーを止めた。

そして、水滴をぬぐい、置いてあったバスローブに袖を通しかけて。
やわらかな厚手のタオル地が首筋に触れた瞬間。

ぞくり、と思わぬおぞけが背筋を走る。

そのことに息を飲み、そしてまた唇を噛み締めて、呂望は同じタオル地の腰帯を締めた。
それから。
一つ重い息をついて、ドアノブに手をかける。
変わらぬ金属の冷たさが、躰の芯まで染みるようで思わず手が震える。
それを無理に抑えつけ、目を伏せて、ゆっくりと呂望はドアを開いた。









この間と同じように鏡台の前に導かれて、濡れた髪を乾かされる。
だが、自分の肌とは違う体温と感触を持った青年の指が首筋をかすめるたびに、ぞくりとしたものが背筋を駆け抜けてゆく。

───何・・・?

その感覚が何なのか、分かるような分からないような、突き詰めるのがひどく恐ろしいような気がして、呂望は椅子の優美な肘掛にかけた手に力を込め、そちらに神経を集中させた。
だが、青年の指が触れるたび、ちりちりと鳥肌が立つような感覚は強くなる一方で。
それを悟られないように、呂望は懸命に意識を散らそうとするが、またたく間に張り詰めていく肌をどうすることもできず、思わず小さく唇を噛み締めた時。

ドライヤーの電源がOFFになった。

けれど、ブラシで髪を梳かれる感覚にさえも、怖気が走って。

「───!」
前触れなく、首筋をすうっと撫でた指先に、びくりと全身が跳ねる。
見れば、鏡の中で青年が甘やかに微笑んだまま、己を見つめていて。
しなやかではあるが、女性のものとは違う硬い感触の指が、さりげない動きで首の真後ろに浮き出た頚椎から脊椎にかけてを彷徨う。

「・・・・・・っ・・・」
たったそれだけのことで、悪寒めいた感覚に背筋がおののく。
止めてくれと言うか堪えるべきか、混乱しながら椅子の肘を掴む指先が白くなるほど手に力を込めた時。
始まった時と同様な唐突さで、彼の指が退いた。

だが。
今更解放されたところで、煽り立てられた感覚が治まるわけもなく。

顔を上げさせられ、受け止める口接けになすすべもなく流されるしかない。
「・・・ん・・ッ・・」
熱い舌が口腔内をまさぐるたびに、ぞくぞくとした酩酊感が背筋を這い登り、躰が震える。
唇が触れ合っている感覚にすら、熱が生まれるようで。

おかしい、と甘くとろけて正体を無くしてしまいそうな思考の中、呂望は感じる。

3日前の行為は、苦痛そのものは大したことがなかった分、かえって感じてしまった快楽に対する厭わしさが呂望の中では強くなっていた。
正直なところ、呂望は行為に一片の快楽も求めてはいなかった。
むしろ、純粋に苦痛のみであることを望んでいたといっていい。
愛していない──そして、愛されてもいない青年に抱かれるのであれば。
その方がずっと楽だったはずなのだ。
なのに、苦痛とは似て非なる感覚をもって征服され、己が乱れたということは、少女をこの上なく 混乱させ、行為への嫌悪感を強めていた。

それにもかかわらず、濃厚な口接けだけで躰は溶けていこうとしている。
そのことに、呂望は怯えと同時に不審をも感じた。

「───っ・・・ふ・・」
長い長い口接けからようやく解放され、呂望はぐったりと椅子の背に躰を預けたままあえぐ。
その間にも、青年の唇はやわらかな耳朶を噛み、首筋を這い降りてゆく。
力なく目を閉じたまま、呂望は執拗な愛撫に躰を震わせ、逃れようとするかのように小さく身をよじった。

と、楊ゼンがかすかに含み笑った。

「ほんの二、三滴なのに・・・・・よほど薬の効きやすい体質のようですね」

その言葉は、霞み始めていた呂望の意識には即座には届かなかった。
が。
ほんの数秒の時間差をおいて、呂望ははっと目を開き、斜め後ろに立つ青年を見上げる。
信じられない、と言いたげな少女のまなざしを、楊ゼンは冷ややかに甘い微笑と共に受け止めた。

「先日は少し辛そうでしたから、これは早めに快楽の味を覚えていただいた方がいいかと思いましてね」
耳に心地良い、低い声が、甘く響く。
「大した効能のある薬じゃありません。少しだけ感度を上げる程度のものですし、後にも残らない。あなたに使った量なら、効果らしい効果もないはずなんですが・・・・・・」

含み笑ったその言葉に。
かっとなった呂望は、左手を振り上げる。
が、青年の頬に届く前に、すばやく手首をつかまれた。

「恥知らず・・・っ!」
「何とでも」
少女の詰る声にも、青年は動じない。
「あなたが何を言ったところで、僕はあなたを自由にできるんですよ。あなたは僕の未来の妻で、愛人なんですから。あなたにはここ以外、行く場所も帰る場所もない」
御自分の立場を忘れたわけじゃないでしょう、と甘い声が冷ややかにささやく。
その言葉に一瞬、呂望は表情をこわばらせたが、しかし抵抗を止めようとはしなかった。
「離して!!」
利き腕を掴む青年の手を振り解こうと、腕に力を込め、一方の手で青年の肩をつっぱねる。

だが。

「───あ・・っ!!」
分厚いタオル地のバスローブの胸元に、楊ゼンの手がするりと滑り込む。
陶磁器のようなすべやかな肌に触れられて、びくりと呂望の動きが止まる。
手のひらに収まるやわらかな膨らみを、いとおしむように優しく撫でながら、
「僕から逃げられるとでも?」
楊ゼンは低く笑った。

そして、いつもよりもはるかに感度の高まっている胸を包み込むようにしながら、先端につんとしこっている小さな尖りをきゅっと指先で摘まむ。
「ひ・・ッ・・」
未成熟な性感帯に強い刺激を与えられて、少女の躰からがくりと力が抜け落ちた。
せめてもの抵抗をしようとした細い手も、楊ゼンのシャツを掴みはしたものの、快楽に耐えるようにおののくばかりで。
そんな少女の様子に、楊ゼンは目を細める。

「・・・・・・言い忘れてましたが、この薬は弱い分、効力が長く続くんです。一晩かけて、じっくり女性の悦びを教えてあげますよ」
「───・・・」
何か言いたげに、呂望が切なげに潤み始めた瞳で楊ゼンを見上げたが、結局、言葉は喘ぎにまぎれて、楊ゼンの耳には届かなかった。












ゆっくりとやわらかな胸を愛撫しながら、楊ゼンは神聖なものに口接けるかのように、その頂きでおののいている小さな花芽に唇を落とす。
綺麗に色づいたそれは、いかにも愛されたがっているかのように、つんと尖っていて。
楊ゼンが口接けると、更に甘い色合いを増した。
そのことに含み笑いながら、軽く歯を立てつつ、舌先でくすぐってやると、耐えかねたように華奢な躰がびくりと跳ね、甘いすすり泣きが零れる。

「い・・や・・・もぅ・・っ」

切れ切れに制止を訴える細い声は、男の欲望を煽ることにしかならない。
くすりと小さな笑みを零した楊ゼンは、愛撫におののいているふくらみを手のひらに包み込むようにして、優しく揉みしだいた。

「ぁ・・ん・・・!」
「・・・・気持ちいいでしょう?」

同時に固くしこった桜色の花芽をも刺激されて、与えられる快感にのけぞった躰が、男の手の動きに合わせて切なげにくねる。
執拗に過敏な胸を愛撫され続け、少女の上げる悲鳴は明らかに艶を含んで濡れている。
そのうわずった甘い響きに、楊ゼンは心地好い酩酊感を覚えた。

「慣れてくると、これだけで達けるようになるんですが・・・・二度目では、さすがに無理ですね」

笑みを含んだ声でささやき、快楽を受け止めるために緊張したままのしなやかな少女の背筋に指を這わせる。
折れそうに細い腰の窪みからやわらかな双丘までを執拗に愛撫しながら、胸の頂きで色づく濃い桜色の花芽に口接け、軽く吸い上げる。

「───あぁ・・っ!!」

途端に、軽く抱きしめた躰が大きく跳ねた。
どうやら軽い絶頂を迎えたらしく、きつく眉根を寄せて目を閉じたまま、呂望は切なげに喘ぐ。
その涙の零れ落ちる目元に口接けて、楊ゼンは微笑した。
「薬の効果があるとはいえ・・・・大したものですよ。本当にあなたは仕込み甲斐がある」
毒のある低い声が聞こえたのかどうか、呂望がうっすらと瞳を開けた。

「・・・・ぁ・・もう・・・」
「何を言ってるんです」
かすれた声で許しを乞うた少女の涙に濡れた瞳を見つめて、楊ゼンは微笑う。
「まだほんの序の口ですよ。本当の快感はまだこれから・・・・。3日前の感覚を忘れたわけではないでしょう?」

その言葉に、嫌悪からか恐れからか、呂望はかすかに眉をひそめる。
だが、少女の表情など意に介しもせずに見惚れるほどに美しい笑みを浮かべ、楊ゼンは続けた。

「今夜は、あなたの気持ちいいと感じる所を全部見つけて、徹底的に躰に教え込んであげますよ。二度と僕から離れられなくなるように、ね」








「───っあ・・ん・・・っ」
やさしく青年の指が胸の頂きを摘むたびに、得体の知れない感覚が背筋を駆け抜けてゆく。
むず痒いような、だがくすぐったさとは異なる感覚が全身を支配し、肌をおののかせている。
胸を触られているだけで、何故こんな風になるのか呂望には分からなかった。
着替える時や入浴の時など、素肌に自分の手が触れるのは珍しくもないのに、己のものではない青年の手指や唇が触れるたび、泣き出してしまいたくなるような感覚が体内をつき抜け、躰の中心が熱くなる。

───そう。
青年が与えるのは、苦痛ではなかった。
もちろん精神面から言えば、それは拷問にも等しかったが、しかし、その形のいい、長い指は決して乱暴な動きをしなかった。
どう譬えればいいのか分からないほど、ひたすらに優しく、繊細に肌に触れてくる。
だが、その優しい動きが引きずり出すのは、得体の知れない、恐怖さえ感じる感覚なのだ。

ワインと共に服用させられたらしい催淫薬の効果は、確かに常とは比べ物にならないほど肌を過敏にさせている。
だが、感じている感覚そのものは前回の・・・・初めての夜と、特に変わっているわけではなかった。
鋭さは遥かに増しているものの、思わずこれまでに出したことのない声を上げ、泣き出してしまいたくなるような感覚は同じもので。
そのことが更に呂望を混乱させる。

───自分は、あの時も今も、何を感じているのか。
───己の躰が、一体どうなってしまっているのか。


「いま感じているのが、性の快楽ですよ」

戸惑いを見透かしたような低いささやきと共に、胸の花芽を軽く噛まれる。
「やぁ・・っ・・・!」
だが、呂望を襲ったのは痛みではなく、眩暈にも似た酩酊だった。
とろけてしまいそうな感覚に、抵抗することもできずにただ乱れた浅い呼吸を紡ぐ。

「そろそろ次に進みましょうか。胸を弄られるのが気持ちいいということは、もう覚えたでしょう?」
魅惑的な響きの声が、耳元で悪魔のように甘くささやく。
「それから、躰が疼く感覚も・・・・・」

耳朶にやわらかく歯を立てながら、青年の手が優しく胸のふくらみを愛撫する。

「こうされていると、躰が熱くなってきて、何か物足りないような気分になるでしょう? もっと違うところに触って欲しいような感じがしているはずですよ」
「────っ・・・」

その言葉に、呂望は弱々しく、だがはっきりとかぶりを振る。
だが、楊ゼンは泣き出しそうな顔を見つめて微笑んだだけだった。
「意地を張るのは構いませんが、そうすると一晩中、このままですよ」
言葉とは裏腹な優しい微笑と共に、楊ゼンの手が羽で撫でるような繊細さで肌の上を這う。
総毛立ちそうなその感覚に、呂望はかすれた悲鳴を上げた。

「あなたが僕を欲しがって泣くまで、これを続けてあげましょうか? 薬の効いている今、どれくらい我慢できるでしょうね?」

優しい手の動きは、薬で感覚を高められた肌には拷問に等しい。
どうやって見つけ出したのか、躰のあちこちにある異様に感じるような箇所を繰返し指先で触れられ、口接けられて、その感覚に呂望は溢れ出る嬌声を抑えることもできずにすすり泣いた。

そのまま、楊ゼンの手はゆっくりと、すんなり細い脚へ降りてゆく。
すべやかな肌を楽しむように膝下まで手のひらを這わせ、そして、ゆっくりとした動きで内腿を這い上がる。

堪えがたいその感覚に身を捩りながら、きわどい箇処まで上がってきたその指が、ぬるりと肌の上で滑るのを呂望は混濁した意識の底で感じた。

「こんなに濡らしているのに・・・・・。経験不足だから感覚が分からないだけではなくて、どうやら、あなたは筋金入りの強情者のようですね」

苦笑まじりの声と共に、楊ゼンは呂望の下半身の方へと身体をずらす。
何を、と呂望が訝しがる間もなく、青年の手が細い脚を大きく押し開いた。






「嫌っ・・・!!」

すべてをさらけだす姿勢を強要されて、少女が引きつった悲鳴を上げる。
だが、これまでに与えられた快楽にとろけきっている躰は抵抗らしい抵抗もできずに、たやすく楊ゼンの腕に押さえ込まれた。
そもそもからして、小柄で華奢な少女が標準以上の体格をした青年に抗えるわけがない。
羞恥なのか恐れなのか、抵抗が無駄だと悟ったらしい少女は、顔をそむけるようにして唇を噛み締め、押し殺したすすり泣きを零す。

「もう初めてでもないのに、そんなに泣くことはないでしょう?」

微苦笑しながら、楊ゼンは少女の秘花に視線を落とす。
純潔は既に3日前に奪われていたが、それでも慎ましやかで無垢なそこは、今も甘く色づいて十分すぎるほどの蜜に濡れている。
長い執拗な上半身への愛撫に反応して開いた花弁の奥に、とろりとした蜜をシーツに滴るほどに溢れさせ、微かにひくついている花芯を見て、楊ゼンは微笑した。

「あなたのここは、こんなにも泣いているのに・・・・。従順すぎるのも面白くありませんから、強情が悪いとは言いませんけど、これでは可哀相ですよ」

笑みを含んだ声で言いながら、指先をそっと花弁に触れる。
途端に、少女はびくりと震えて反応した。
だが、それ以上の抵抗は優しい指の動きで封じ込める。

「──や・・ぁ・・・んっ・・」

蜜に濡れそぼった花弁をゆっくりとなぞるように愛撫すると、呂望は甘い声を上げて小さく躰をくねらせる。
服用したのはほんの微量ではあるとはいえ、催淫薬に高ぶった躰には曖昧な感覚はもどかしいばかりなのだろう。口ではどう言おうと、少女が逃れようもないところまで快楽に堕ち、更なる深みを求めているのは明らかだった。
甘いすすり泣きに心地好く酔いながら、楊ゼンは花弁の間からわずかに覗いている珊瑚色の真珠に触れる。

「っあ・・・、触らないでぇ・・・っ!」

びくりと反応した少女の悲鳴が、いっそうの甘さを帯びる。
たっぷりと指先に蜜を絡め、優しくそこを撫で回しながら、楊ゼンはささやいた。

「まだ達ったら駄目ですよ」

加減しながら快楽の芽を責め立てる指淫に反応して、下方の花芯もとろとろと蜜を溢れさせ、淫らなひくつきを繰り返す。
密にまみれて甘い色をしたそこに、誘われるままに楊ゼンは右手の中指を浅く挿し入れる。
熱く濡れた花芯は、抵抗らしい抵抗もなく男の指先を呑み込んだ。

「・・は・・・、ぁ・・んっ・・・・」

ゆるゆると入り口付近を指先で刺激してやると、少女は甘い声を上げる。
華奢な脚は、もう楊ゼンが抑えていなくとも大きく広げられたままで、閉じようとする気配もない。
むしろ、更なる指淫を求めるかのように細い腰がかすかに揺れる。
少女の無意識の媚態に目を細めながら、過敏な真珠を愛撫しつつ、楊ゼンはゆっくりときつい収縮を繰り返す花芯に長い指を沈めてゆく。

「気持ちいいでしょう?」

とろけるようにやわらかく、熱い柔襞を優しく指先で宥めながら、快楽にすすり泣く少女にささやきかける。

「こうして覚えるんですよ。ここをこうされると気持ちいいということをね」

そして、ゆるやかな動きで花芯を犯す指はそのままに、上方の真珠への愛撫を強める。
綺麗な珊瑚色をした小さな快楽の芽を、あくまでも優しく摘んで揉みしだく。
強弱をつけた巧みな愛撫に、少女はたまらず泣き濡れた悲鳴を上げた。

「ひぁ・・っ、ぁ・・・やめてぇ・・・っ!!」

快楽から逃れようとするのか、それとも頂点を求めているのか、華奢な腰が揺れる。
青年の指を呑み込んだ花芯も、びくびくとせわしない収縮を繰り返して。

「あああぁぁっ!!」

他愛もなく少女は昇りつめた。

ぴんと張り詰めた躰はしばらくの間、緊張が解けず、激しくおののきながら花芯に咥えさせられた指をきつく締めつける。
処女とまるで変わらない、たかが指一本でさえ動かせないほどのきつさに、楊ゼンは微苦笑を滲ませる。

「まだ指一本なのに・・・・駄目ですよ、そんなに感じていたら」

荒い息をつき、ぐったりと脱力して寝台に身を沈めた少女に、冷ややかに甘くささやきながら、しどけなく開かれた細い脚の間に顔を伏せる。
そして、蜜にまみれて艶やかに色づき、かすかにおののいているような真珠を、そっと舌先で舐め上げた。

「───っあ・・・!!」

甘い甘い蜜を舐め取るようにしながら、優しく舌先で真珠を転がす。
絶頂を極めたばかりの躰には刺激が強すぎる愛撫に、呂望はかすれた高い悲鳴を上げ、華奢な躰をのけぞらせる。

「やぁ・・・っ・・、は・・ぁん・・・っ」

ひどく過敏になっている快楽の芽を刺激されて、指を咥えたままの花芯も再び、びくびくとひくつき始める。
その熱くとろけた内部を探るように、ゆっくりと楊ゼンは指を動かした。
ひどくきついのは変わらないが、それでも薬の効果か、十分すぎるほどに快感を感じて濡れているからか、少女は苦痛は訴えない。
真珠への愛撫を途切れさせないまま、慎重に指を1本増やすと、きつさは増したものの、やはり抵抗らしい抵抗は見せずに、少しずつ呑み込んでゆく。

そして、その指が中程まで花芯に沈んだ時。

「──ぁ・・・!」

柔襞を探る指先の動きに、快感を示す反応がかすかにあったことに気付いて、楊ゼンは軽く目を瞠る。

「ここ・・・、感じるんですか?」

とろけるようにやわらかいのに弾力のある内壁を、指先で軽く押すようにして繰り返し刺激する。
途端に、少女は快楽に引きつった嬌声を上げた。

「いゃぁっ・・・、そこ・・・っ!」

だが、制止を求める声にも止むことのない愛撫に、華奢な躰が狂おしくおののく。
甘やかに泣きじゃくる少女を見つめた楊ゼンは、ふっと口元に微笑を浮かべた。

「ここはね、どの女性でも感じるというものではないんです。しかも、普通はそれなりの経験を経て開発されるんですよ。なのに反応するというのは・・・・・。薬の効果もあるんでしょうが、あれの効き目は本当に大したものじゃない。
この世に二つとない・・・・得がたい宝石のような女性ですよ、あなたは」

最後は感慨深げに呟きながら、ゆっくりとした指の動きで、少女に更に嬌声を上げさせる。
照明を落とし、星と傾きかけた月の光だけの薄明かりの中で、見惚れるほどに優美で華奢な白い肢体が、切なげに喘ぎ、快楽におののいている。
どうしようもなく惑乱し、身も世もなくすすり泣くその姿は、言葉にできないほどに美しく、また淫らだった。

「もう一度、達きますか?」

二本の指で、処女を失ったばかりの女性でも感じやすい花芯の入り口付近と、その少し奥に秘められた性感帯を同時に嬲りながら、つんとしこったままの胸の尖りに口接ける。
可愛らしい桜色の花芽を軽く噛んだ途端、
「やぁぁぁっ!!」
呂望はシーツから背筋が浮くほどに大きく躰をのけぞらせ、高い悲鳴を上げた。

そのまま軽い痙攣を起こしたように肢体を震わせながら、ゆっくりと脱力してゆく。
ぐったりと寝台に沈み込んだ躰は、細い脚をしどけなく開いたまま、その奥に咥え込んだ青年の指をきつく締め上げる。
そこから溢れ出した蜜は、シーツをしとどに濡らしていて。

「まだ2度目ですよ」
「──っ、ぁ・・やぁ・・・っ」

笑みを含みながら、緊張に張り詰めたやわらかな肌に空いた方の手を這わせる。
挿入したままの指がきりきりと締め付けられるのを楽しみながら、楊ゼンはひどく感じやすい胸を優しく愛撫し、固くしこった花芽を舌で転がした。

「は・・っ・・、あ・・っく・・・!」

これ以上ないほどに感度を高められた躰を刺激されて、呂望は上ずった泣き声を零す。
だが、青年は構うことなく、秘花を犯す指を更に増やした。
過ぎる快楽にきつく閉じようとする花芯は、強引に押し開き、侵入しようとするものを拒もうとするが、内股までをも濡らす蜜のぬめりを利用して、三本の指は少しずつ柔襞の裡に沈んでゆく。
初めての時と変わらないきつさに微笑して、楊ゼンは挿入した指の動きは止め、宥めるように白い肌に口接け、紅い跡をいくつも刻む。

「あなたは僕のものですよ」

ひどく甘く感じられる涙をそっと受け止め、唇を重ねた。







「──っ・・ん・・・」
戯れるように軽く胸の頂きに口接けられて、びくりと躰が震える。
意識はかなり白濁していたが、それでも下腹部の違和感──異物感は強く感じていた。
だが、薬のせいなのか、前回のような痛みはなく───。

「や・・ぁ・・・もう・・・っ・・」

優しく胸のふくらみを撫でられて、呂望は涙にかすれた嬌声を上げる。
だが、優しい手の動きに躰は所有者の意思を裏切り、おののきながら切なげにくねる。

「気持ちいいけれど、何か物足りない気がするでしょう?」

与えられる愛撫に反応して、そこが異物を──青年の指を締めつけているのを、否が応でも感じ取ってしまう。
そのことに呂望は唇を噛み締めて、精一杯の、だが力ない仕草でかぶりを振った。
けれど、少女の内心を知ってか知らずか、青年はほんの小さく、柔襞に包まれた指を動かす。
途端に、やはり得体の知れない、どこかもどかしいような感覚が躰の奥から沸きあがり、全身へと拡散してゆく。

「これが、躰が疼くという感覚ですよ。あなたの躰が僕を欲しがってるんです」

「───っ・・・」
甘い毒を注ぎかけるような低い声に、呂望は更に唇を噛んでかぶりを振った。

薬のせいだ、と思いたかった。
だが、どんなに否定したくとも、自分が感じているのは前回に感じた感覚を寄り鮮やかにしたものでしかなく。
それに加えて、効果は大したものではないと繰り返す青年の言葉が、胸を引き裂く。

───拷問にも等しいこの行為から生み出される、得体の知れない感覚は。

何。


「そろそろ、もう一つ先に進みましょうか」

ひどく優しげな声の後、ゆっくりと異物感が失せる。
指が引き出されてゆく感覚に、背筋に怖気に似たものが走った。

「あ・・・・」

同じことは三日前にもあったが、それが何を意味するのか、その時はよく分からなかった。
性行為がどういうものかということは知識として知っていたが、体験したことのない異常な状況に、何がどうなっているのか、展開を認識することなど到底無理だったのだ。
だが。
今は分かる。
分かってしまう。

「い・・や・・・」

呂望の瞳に浮かんだ恐怖の色に気付いたのか、青年は優しく微笑む。
前戯を施しつつも器用に衣服を脱ぎ捨てたのか、淡い星明かりに逞しくもしなやかな青年の肢体が浮かび上がっていて。
その美しい微笑に、呂望は怯えながらも目を離すことができなかった。



───どうして。

───どうしてこの人は、こんな残酷なことを強要しながら、こんなにまでも優しく微笑むのか。

───どうして、初めて出会った時と変わらない微笑を。



「あなたが快楽を恐れるのは無理もありませんけど、早く受け入れて慣れてしまった方が楽ですよ。この先ずっと、僕はあなたを抱き続けるんですから」

この上なく優しい甘い声で、これ以上ないほどに残酷なことをささやきながら、楊ゼンは呂望に口接ける。
深く舌を絡め取る口接けに呂望が気を取られた隙に、楊ゼンは華奢な脚を力強い腕で掬い上げるようにして押し開き、あらわになった花芯に己の欲望を押し当てた。

そして、深く唇を奪ったまま、ぐいと腰を押し進める。

その感覚に、呂望は声にならない悲鳴を上げた。


何かが──熱く大きな、とてつもない異物が体内に侵入してくる。
その圧迫感が。
押し開かれる感覚が。

たまらなく───。


「・・・・っ・・あ・・・いやっ・・・!」

長く執拗なキスから解放された時には、既に奥深くまでを熱い楔に満たされていた。
そのまま男は動こうとはしない。
なのに、呂望は顔をそむけて、すすり泣かずにはいられなかった。

大きなものに躰を貫かれている圧迫感に。
その、切なさに。

どんなに拒絶しようとも沸き起こる──躰の疼きに。

「ぃ・・や・・・、うごか・・ない・・・で・・っ・・!」

彼が動いたら、自分がどうなってしまうのか、どんな感覚が自分を襲うのか予測できず、呂望はうわずった声で哀願する。
青年を受け入れただけで感じているこれは──押し広げられ、強い圧迫感を感じている箇処から生じている感覚は、ひどくもどかしく切ない・・・・・快感だった。
どれほど否定しても、躰の奥の方がとろけてしまいそうに甘い。
直接に感じる彼の熱に──脈動に。
焦れて、いる。

「あなたのお願いなら何でも聞いてあげたいところですが・・・・。でも、動かないと終わりませんよ?」

微苦笑を含んだ甘い声と同時に、胸の果実を指先で軽く転がされる。
「──ぁ・・っ、やぁ・・・んっ」
脳天まで突き抜ける甘い痺れに躰がのけぞり──熱い楔を締めつけてしまう。
途端に圧迫感が強くなり、躰の奥底が切ない甘さに疼く。
終わりのない快楽の輪環に囚われ、何もかもが白く灼かれてゆくようで。

優しく胸のふくらみを手のひらに包まれ、撫でられる。
硬く張り詰めた先端をきゅっと摘まれ、そのまま揉みしだかれて、言葉にできぬ快感が全身に広がってゆく。
舌先で突かれ、舐め転がされる感覚も、どうしようもない切なさを生み出して。
それらの熱は、すべて一点へと収縮してゆく。

「・・っは・・ぁ・・・も・・ぅっ・・!」
「我慢できませんか?」

揶揄するような声が、甘く耳元で響く。

「動いてあげましょうか? 躰が疼いてたまらないんでしょう?」

ささやかれた低い声に、呂望は涙に濡れた瞳を見開く。
長いまつげに縁取られた深い色の瞳は、明らかな情欲と快楽への怯えに揺れながら、楊ゼンを見上げる。
そうする間も、華奢な躰は、最奥の疼きに耐えかねたように小刻みに震えていて。

「うんと気持ちよくしてあげますよ」

優しい仕草で楊ゼンは、呂望の艶やかな黒髪を撫でる。

「あなたの裡を僕で満たして、何も考えられなくなるまで何度でも・・・・」

微笑みながら告げる声は、この上なく甘く優しい。
楊ゼンは呂望の泣き濡れた目元に口接け、頬や額にも羽根のように優しいキスをいくつも贈り、最後に細く喘いでいる唇に口接ける。
おののいているやわらかな舌を深く絡め取り、甘い口腔を執拗に愛撫して貪る。
そして、ゆっくりと唇を離して。

「僕だけを感じていればいい」


「──あぁ・・・っ・・!!」
ごくゆるやかな動きだった。が、それでもとろけて過敏になった内部を刺激される快感に呂望は悲鳴を上げる。
熱い楔が動くたびに、脳裏が真っ白に灼き付く。
前回とはまるで違う、これまでに感じたことのない強過ぎる快感に、指先から甘く溶け崩れていくようで。

「は・・・あ・・っ、あぁんっ・・」

少しずつ激しくなってゆく動きに翻弄されるまま、呂望は甘い声を上げ続ける。
大きく脚を開き、どんなあられのない姿で男を受け入れているのか、もう認識することもできなかった。
自分の躰にこんな快感を感じる部分があったことが信じられず、かぶりを振り、身を捩るが、襲いくる快楽から逃れることはできない。
甘すぎる切なさに耐え切れず、すすり泣く呂望の固く閉じた目尻から涙がいくつも零れ落ちる。

「気持ちいいでしょう? 拒もうとしないで、受け入れて流されてしまえばいい。そうしたら、もっと気持ちよくなれますから」

ゆっくりとした動きに合わせて、ぐちゅ・・ちゅぷ・・と淫猥な濡れた音が響く。
逞しい熱塊が熱く潤った柔襞と擦れ合うたび、たまらない快感が生まれる。
そのことに怯えながらも、呂望は快楽の荒波に翻弄され、溺れた。

「──っあ・・やぁ・・・っ、ぁあ・・ん・・・・」
「ここですか?」

嫌だ、と思った箇処を、楊ゼンは執拗に責め立ててくる。
その感覚に、躰中の神経が灼き付いて。

「だ・・め・・・っあ・・・・も・・ぅ・・・っ!!」

途切れ途切れの悲鳴を上げながら、全身をのけぞらせて呂望はまたたく間に昇りつめる。
だが。
楊ゼンは律動を止めなかった。
きつい締めつけを楽しむように、おののきながら熱い蜜を溢れさせる花芯を穿ち続ける。

「ひぁっ・・、あ・・っ・・ああぁ・・・っ・・!」

快楽を極めたのに、逞しいもので過敏な柔襞を擦られ、揺さぶられ続けて。
昇りつめたはずの絶頂の波から降りることができずに、呂望は引きつった悲鳴を上げる。

「や・・め・・・、やめてぇ・・・っ・・!」

果ての見えない激しい快感に、気がおかしくなりそうだった。
存在そのものをすりつぶされるような異様な感覚に、甘くうわずった泣き声がほとばしる。

「良すぎて気が狂いそうでしょう? こういうのをイキっぱなしと俗に言うんですよ」

青年が微笑うのも、もう知覚することはできない。

「狂ってしまえばいいんです。奈落の底まで堕ちて、あなたには僕しかいないのだと理解するまで・・・・・」











「───っ、あああぁっ・・・!!」

高く腰を上げさせられた後背位で貫かれていた呂望は、最奥から込み上げた灼熱の感覚に高い声を上げて背筋をのけぞらせ、シーツに額を擦り付けるようにして、極上のリネンを引き裂かんばかりに強く爪を立てる。

これで何度の絶頂なのかも分からなかった。
二度注ぎ込まれた青年の精と交じり合い、滴り落ちる蜜は白濁した雫となり、内股を伝って膝の辺りまでをも汚している。

「・・・ぅ・・あ・・・・」

全身を断続的に軽く痙攣させながら、しゃくりあげるように喘ぐ少女の躰を、青年はいとも簡単に仰向けに返した。
躰を繋いだままの強引な動きに、呂望は声にならない悲鳴を上げる。
長時間に渡って犯され続けている下半身の感覚は、とうに痺れたような状態だったが、それでも変わらない苦しいほどの圧迫感と、改めて組み敷かれた体勢に青年の意図を察して、脱力しきった躰で精一杯の拒絶を示した。

「も・・ぅ・・・・い・・や・・・」

見過ごしてしまいそうなかすかな動きでかぶりを振り、吐息だけのかすれた声で限界を訴える。
だが、青年はわずかに汗の滲んだ顔に微笑を浮かべて、呂望の汗と涙に濡れた 髪を優しく指で梳き上げる。

「僕はまだ、満足させてもらってませんよ。分かるでしょう?」
「──っ・・あ・・・!」

質量を保ったままの大きな楔を軽く揺すられて、躰を駆け抜けた鮮烈な感覚に、呂望はびくりと反応を示してしまう。
責め苛まれて疲れ切っているはずの躰は、与えられた快感を素直に悦び、青年の熱をきつく締めつけて更なる快楽を促す。

「ね・・・? あなたの躰も、もっと欲しいと言ってますよ」

ゆっくりと動かれて、たまらない快感が生まれる。
だが、その感覚についてゆけず、呂望はかすれて細いすすり泣きを零した。

「・・・ぁ・・も・・・や・・ぁん・・っ」

青年が動くごとに背筋を駆け抜けてゆく鋭い快感に、甘やかに泣きながら頼りない動きでかぶりを振り、虚ろなまなざしを彷徨わせる。
いつもは凛とした光をたたえている深い色の瞳は、今は何も映してはいなかった。
華奢な躰はなされるがままに青年の責めを受け止め、甘すぎる拷問のような愉悦のみを感じ取る。

「すごく・・・いいですよ。あなたの中・・・・。もう何度も達ったのに、僕のものをものすごく締めつけているのが分かりますか・・・・・?」

ささやく青年の声も、熱を帯び、わずかに乱れている。
ぐい、と少し荒く腰を進められて、呂望はびくりと躰をのけぞらせた。

「──っ・・ん・・・、ゃ・・・ああぁっ!」

少しずつ激しくなる動きに、歓喜するように柔襞は熱い楔に絡みついてゆく。
逞しいもので擦られるのがどうしようもなく気持ちよくて、とろとろと溢れ出す蜜は律動に合わせて淫らな音を立て、無意識のうちに腰が揺れる。
とろけきった躰を深く犯され、甘すぎる感覚に咽び泣くしかない。

「・・・やぁ・・っ、もぉ・・駄目ぇっ・・・!」

最初のうちはそれほど深くなかった律動も、今は最奥まで押し入ってくる。
熱い楔で執拗に過敏な箇処を突かれて、苦痛と思えるほどの激しい快感に、呂望は悲鳴を上げる。
躰中の血管を、純粋な快楽の熱がめぐっているようで。
感じているものは痛みではないのに、あまりにも苦しくて呼吸さえまともにできない。

深く繋がりあった箇処は、ひくひくと悦びの蜜を溢れさせながら、逞しい異物を逃すまいと貪欲に絡みついてゆく。
少女の意思とは無関係なその動きは、あまりにも淫らで。

「すごく悦んでますよ、あなたのここは・・・・。僕に吸い付いて離れない」

とろけきり、快楽を受け止めきれずに泣きじゃくる姿も、裏腹に快楽を貪欲にむさぼる躰も、青年の欲望を煽り、更に高ぶらせるものでしかない。
疲れを知らないような力強い律動に、呂望は背筋をのけぞらせて嬌声を上げ続けた。

「──っは・・・やあぁっ・・、い・・・ぁああん・・っ」

息もつけないような激しい快楽の波に、ひどい眩暈を感じる。
くらりと平衡感覚が薄れ、どこまでも落ちてゆくような感覚に、しかしどうすることもできない。
底のない淵にひきずりこまれ、溺れるしかなくて。

「綺麗ですよ・・・・。もっと狂って・・・・」
「・・っく・・・あ・・、ひ・・ぁ・・・やあぁっ・・・!」

頂天を目指す激しい動きに突き上げられて、限界を迎えた華奢な躰がびくびくと痙攣するように震え出す。
全身の血が沸騰するような灼熱の快楽の奔流に、呂望は呼吸もまともにできずに喘ぎ、悦楽に灼かれる苦しさに声にならない悲鳴を上げて。
咽び泣きながらシーツをかきむしるように爪を立てる。

そのまま、容赦なく追い詰められて。

「ひっ・・ぁ・・、─────っっ!!!」

気の狂いそうな凄まじい絶頂感に、呂望は高く叫んで躰を硬直させた。
そのまま柔襞で強く絞り上げるように締めつけたものに、熱い迸りを最奥に叩きつけられて。
限界まで背筋をのけぞらせ、痙攣を起こした躰が力を失い、がくりと寝台に崩れ落ちた時、既に彼女の意識は失われていた。











汗と互いの体液に濡れた華奢な躰に、少女の感じた快楽の余韻を示すさざなみのような痙攣が時折走る。
すべての力を失い脱力した、その白い躰にしばらく覆い被さっていた楊ゼンは、一つ息をついてゆっくりと少女から離れた。
意識を失っていてもなお強く吸い付いてくる秘花から己を抜き、上体を起こして少女を見下ろす。
星明かりに照らされた、泣き濡れ、疲れきった表情はひどく痛々しい。
顔ばかりでなく、陵辱され続けた下半身は白濁した体液にまみれ、力なく投げ出された手足とあいまって、ひどく無残に見えた。

もう一度溜息をついて、楊ゼンはベッドから降り立った。
広い寝室を横切ってバスルームへ行き、シャワーのコックをひねる。だが、湯を浴びることはせず、温度調節だけして湯を出しっぱなしにしたまま、寝室に戻る。
そして少女の躰を両腕に抱き上げ、バスルームへと運んだ。

そのまま無言で淡い薔薇色の大理石のタイルに膝をつき、片腕で少女を抱きかかえるようにして、少しぬるめのシャワーで白い肌を洗い流してゆく。
無色透明の湯に混じって、細い脚の間から白濁した粘液がゆっくりと流れ出してゆくのを、かすかに眉をひそめて見つめ、それから目を逸らすようにして目線を少女の顔に戻した。

と、それほど熱い湯ではなくともシャワーの水流が刺激になったのか、呂望がかすかな呻きをもらした。
二、三度、薄い瞼が震えて、ぼんやりとしたまなざしが開く。

「・・・・ぁ・・・」

ゆらりと彷徨った瞳が、自分を見つめる青年のまなざしに気付いて、怯えた色を浮かべる。
「い・・や・・・」
わずかに首を振りながら、嗄れてかすれた吐息のような声を絞り出して。

「も・・ぅ・・・・・ゆ・・るして・・・・」

怯えて哀願する瞳に涙が滲む。

目尻にとどまれず、零れ落ちた涙を楊ゼンはそっと指先でぬぐった。

「大丈夫ですよ。今夜はもう終わりましたから。これ以上、何もしません」
シャワーの水音にも紛れず届いた低い声に、少女は真偽を確かめようとするようにまばたきする。

「本当です。だから、もう眠っていいんです」
「・・・本・・当・・・・?」
「ええ」

その言葉に、少女はゆっくりと目を閉じながら大きく息をついた。
途端、腕にかかる体重が元の重さに戻る。
どうやら意識の回復は一瞬のものであったらしい。再び意識を失った少女の躰をもう一度支えなおして、楊ゼンはゆっくりと残る部分にシャワーの流れを当ててゆく。
やがて穢れを洗い流し、清浄さを取り戻したやわらかな肌は、しなやかに水滴をはじくようになって。
ついでのように楊ゼンは自らの体にもシャワーを当てて軽く汗を流し、水流を止める。

浴室を出て、予備のバスタオルとバスローブを棚から取り出し、まず少女の躰をぬぐい、バスローブを着せてから、自分も手早く体を拭いてバスローブを羽織った。
そして意識を失ったままの少女を抱き上げ、寝室へと戻る。
だが、一旦はソファーに寝かせて、行為で汚れたシーツを新しいものに取り替えてから、広い寝台の中央にそっと少女の躰を横たえた。

「───・・・」

意識のない少女の顔は、星明かりにやや青ざめて見えた。
だが、繊細な顔立ちには取り立てて何の表情も浮かんではおらず、憔悴した様子で昏々と眠り続けている。
そのすべやかな頬を、楊ゼンはそっと指先で撫でた。

そして、上体をかがめ、艶やかな前髪の間からのぞく白い額に口接けようとして。
触れる寸前で唇を止める。

そのまま、ゆっくりと体を引いて。
溜息をつき、前髪をくしゃりと片手でかきあげる。



夜明けの近い寝室で、広いベッドの端に腰を下ろしたまま。
楊ゼンは東の空が白み始める頃まで、ただ無言で少女を見つめていた。














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