「ん…っ……あ……」
 指先をきちんと濡らしてくれているから、痛みは感じない。
 骨ばって長い指。所々に古い火傷の痕のあるそれを思い浮かべるだけで、ぞくぞくとした快感が背筋を走る。
 それだけでも気持ちいいのに、入り口近くの感じやすい場所を指を出し入れするようにやわらかく刺激されて、更なる甘さが全身へと散ってゆく。
 骨っぽい関節が軽く引っかかる感じが、たまらない。
「気持ちいいですか……?」
「うん……もっと、奥…まで……」
 甘い問いかけにかすれた声で答え、更なる愛撫をねだる。
 本当はもっと激しくして欲しい。そうすれば、もっと気持ちよくなれる。
 けれど、今ここでじわじわと長引かせれば長引かせるほど、後から得られるものは深く、豊かになる。
 そうと分かっているから、目を閉じて緩やかな愛撫に身をゆだねる。
 獄寺も、そんな綱吉の想いを承知しているかのように慎重だった。
 要望に応えてゆっくりと指を深く沈めたものの、激しくは動かさない。焦らすように感覚を引き出すように、やわらかく熱い内部でそっと指を蠢かせる。
 そのままゆったりと唇を重ね合わせ、なめらかに舌を絡ませ合い、貪り合う。
 綱吉はうっとりとその感覚に溺れ、唇が離れると甘い溜息を零した。
 獄寺の背を抱いていた手をそっと首筋に滑らせると、指先にどくどくと脈打つ獄寺の血潮を感じる。
 ああ彼も興奮して、欲しがっている。そう思うと、またぞくりとした疼きが全身を走った。
 それをきっかけにするように、獄寺の指を受け入れている最奥が熱っぽく疼き始める。
 やわらかな愛撫に呼び覚まされた感覚が、少しずつもっと強い刺激を求め始める。
 もっと深く。
 もっと熱いものを。
 満たされた時の感覚を思い出したそこが、熱く狂い始める。
 その変化を感じ取ったのか、獄寺が唇を綱吉の首筋に這わせ、鎖骨を甘く食(は)んだ。
「っん……!」
 そのまま少し強く胸元を吸い上げられ、鋭い快感が突き抜ける。反射的に獄寺の指を強く締め付けたのが自分でも分かった。
「は…やと……っ」
 思わず声を上げて、恋人の名を呼ぶ。
 体の感覚が、また一段階切り替わったのが分かる。
 ここまで積み重ねられた愛撫を受けて、すべての感覚が開放されたかのようにざわめき、貪欲に快楽をすすり上げようと全身がうごめき始めている。
 獄寺の動きは変わらず緩やかでやわらかいのに、触れ合っている箇所全てから、先程までは感じなかったたとえようもない甘さが生まれ、全身に広がってゆく。
 こうなってしまったら、もう止まれないし、止まらない。何をされても、今のこの体は快感と受け止める。そのことを綱吉自身も知っている。
 だが、欲しいものは一つだけ。
 たった一人だけだ。
「も……欲し…っ…」
 満たされたい、と衝動の込み上げるままにかすれて上ずった声で呟きながら、綱吉は獄寺の背を抱いていた手を下方へ滑らせた。
 細い手指が筋肉の浮き上がる脇腹を掠めると、獄寺もまたびくりと体を震わせる。だが抵抗は何もなく、綱吉の手は大きく張り詰めた中心に届いた。
 先走りの液が、ぬるりと手のひらを濡らす。
 その感触に熱い息をつきながら、綱吉はゆっくりと表面を包み込むように手のひらを滑らせた。
「…っ、綱吉、さん……!」
 なめらかに手指を上下させると、獄寺もまたかすかに体を震わせ、熱い息をつく。
 綱吉の手の中のものが、いっそう力を増すのが感じられたが、綱吉は愛撫の動きを止めない。
 五秒後、獄寺は小さく呻き、我慢の限界とばかりに綱吉の内部から指を引き抜いた。それを合図に綱吉も、獄寺の中心から手を離す。
 そして二人は、深い口接けを交わした。互いを抱き締め、愛しい相手を可能な限り貪る。
 深く舌を絡め、キスだけでも達けそうなほどに求め合い、愛し合ってから、快楽に張り詰めた体をゆっくりと繋いだ。
「ぅ…あ……、あ…ぁ……」
 熱く圧倒的なものが、疼いてたまらない場所に押し入ってくる。
 圧迫される苦しさと、それを遥かに上回る感覚に綱吉の全身が痙攣するように震える。
「大…丈夫ですか……?」
「へ…いき……、もっと奥まで……っ」
 全て繋がりたくて、綱吉は催促するように獄寺の腕に爪を立てた。
 もっと満たされたかった。隅々まで獄寺に満たされたい。一つになりたくてたまらない。
 その想いに応えるように、ゆっくりと熱いものが奥へ侵入してくる。
 そうして一番奥にまで獄寺を感じた時、綱吉は軽く達していた。
 吐精を伴う本当の絶頂ではないが、獄寺を受け入れた場所は浅く痙攣するようにひくつき、思考は真っ白に痺れかけている。
「…ふ、…ぁ……少し、動か…ない、で……」
 切れ切れの声でかろうじてそう訴え、全身を苛む甘い痺れにぐったりと目を閉じると、様子を察したのだろう、獄寺の優しいキスが頬や目元に落とされた。
「綱吉さんの中、すごいですよ……。こうしてるだけで、達っちまいそうに気持ちいいです」
 熱に浮かされたような囁きを耳元に落とされて、ただでさえ過敏になっている体にぞくりと更なる疼きが走る。
「馬…鹿……っ」
 たまらずに霞む目を開いて、睨みつけたが、馬鹿な恋人は端正な顔に嫌になるほど艶めいた微笑を浮かべただけで、またキスを仕掛けてくる。同時に、また胸元に指先を滑らされて、びくりと綱吉の体が震えた。
 そんな風にされたら、また感じてしまう。衝動をこらえきれずに体の奥深くにあるものをきつく締め付けると、今度は獄寺が呻いた。
「もう、動いても……?」
 まだ一度も熱を吐き出していないのは、互いに同じだ。限界が近いのは互いに分かっている。
 だから、綱吉もうなずいた。
「一緒…に……気持ち、よく…なろう……?」
 どうしても伝えたかったそれだけを言葉にすると、切羽詰った色を見せていた獄寺の表情がふっと緩む。
 そして獄寺は、今度はうんと優しく綱吉の唇をついばんだ。
「……はい」
 状況に似つかわしくないほど優しい、誠実な声に、綱吉も微笑む。
 溢れ出す愛おしさのままに、ゆっくりと二人の体が動き始める。途端に綱吉の体の深い部分で甘い快楽がはじけた。
 生まれては瞬く間にはじけるシャボン玉のように、獄寺が動くたびにたまらないほどの歓びが生まれる。
「っあ、あ…っ……あ…ぁ…!」
 引くような動きで過敏な箇所を擦られる感覚、奥にある感覚の塊のような箇所を突かれる感覚。どんな動きもどうしようもなく気持ち良かった。
 擦れ合う箇所から生まれる全身の神経が白く灼きつくような感覚があまりにも強過ぎて、わななく唇からすすり泣きが零れてゆく。
「は…やと……っ、隼人…っ…」
 細い首をのけぞらせながら、甘く引きつった声で繰り返し恋人の名を呼ぶ。
 獄寺の動きに合わせて自然に腰が揺れ、繋がり合う箇所が濡れた音を立てるのも快感を煽ることにしかならなかった。



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