「──あぁ…っ!」
 濡れて熱くなった粘膜に触れた途端、綱吉は嬌声を上げて大きく身体を震わせる。
 その反応を見て、獄寺はどうしようかと数秒だけ迷った。
 多分、このまま達かせてやった方が、限界に近い綱吉には少し楽だろう。
 だが、一度達してしまうと、筋肉が痙攣を起こして収縮してしまうために、その緊張を緩めて体を開くにはある程度の時間がかかる。そして、そうするには獄寺の方の余裕がもうなかった。
 すみません、と心の中で謝って、一旦綱吉の熱を離し、代わりに溢れた雫を掬い取って濡らした指を最奥へと滑らせる。
 思った通りに、限界近くまで焦らされていたそこは切なげにひくついて、獄寺の指先をやわらかく飲み込んだ。
「きつく、ないですか?」
 この状態なら大丈夫だろうと思ったが、それでも確認せずにはいられなくて問いかけると、綱吉は、平気、と小さくうなずく。
「大…丈夫だから……早く、隼人も……」
 獄寺の与える愛撫に小さく喘ぎながらの言葉に、獄寺は思わず微笑んだ。
 十年近く抱き合ってきたのだから、獄寺が綱吉の限界を知っているのと同じく、綱吉も獄寺の限界を知っている。
 互いに差し出せるものを全て差し出し、与え、与えられることの愛おしさと喜びを知っているからこそ、綱吉は一方的に愛撫を受けることを善しともしないし、獄寺に耐えさせることも望まない。
 そのことがたまらなく愛おしく獄寺には感じられた。
「俺はもう少し、大丈夫ですから」
 全く平気とは言わない。そんな嘘は、自分たちの間には必要ない。だから、正直に獄寺はそう告げて、綱吉の唇にキスを落とし、ゆっくりと綱吉の最奥に触れる指を増やす。
 先を急ごうとは思わなかった。早く一つになりたいのは山々だったが、綱吉にはわずかでも辛い思いをさせたくない。できる限り、気持ちよさと喜びだけで繋がりたかった。
「っ…ふ…あ……っん…っ…」
 更に指を増やすと、綱吉は耐え切れないというように、のけぞりながら首を横に振る。
 その様子を見つめながら挿し入れた指先で深い部分をゆっくりと探り、繰り返しポイントを引っかくように刺激すると、細い腰がびくびくと跳ね上がった。
「あ…や……、もぅ…っ…あっ……」
 懸命に見開いた熱で潤んだ瞳ですがるように見つめられて、獄寺も抑えていた熱が一気に猛ってくるのを感じる。
 左手の指を深く咥え込んだ柔襞は熱く濡れてひくつき、今からこれに自身が包まれるのだと思うと眩暈すら覚えた。
 ゆっくりと指を抜き、その感覚に身体を震わせる綱吉をなだめるように口接けながら、しなやかな脚を大きく押し開いて、最奥に硬く猛った熱を押し当てる。
「綱吉さん……」
 熱くなった息を吐き出しながら、狭いそこに少しずつ熱を沈み込ませる。
 十分に濡らされていれば挿入の痛みそのものはないと綱吉から聞いてはいるが、それでも狭い場所を押し開かれる衝撃だけは、どうしようもないものであるらしい。
 ただ、感覚が高まっていれば、その衝撃も快感にすり替わるようだったから、獄寺は押し寄せる目の眩むような欲望の波は無視して、綱吉の反応だけに集中しようと神経を尖らせる。
 そうして半ばまで熱を沈めた時、震えるような喘ぎを零していた綱吉がふっと目を開き、獄寺を見つめた。
 潤んだ瞳を切なげにまばたかせ、物憂い仕草で右手を上げて、獄寺の頬をそっと撫でる。
「大…丈夫……気持ち、いいから……」
 そんなに慎重にしなくても大丈夫だと微笑未満の優しい表情で言われたが、それでも獄寺は急かなかった。
 綱吉のその手に自分の手を重ね、それから互いの手のひらを合わせるように深く指を絡める。
 そして、ゆっくりと時間をかけて、全てを熱くやわらかな場所に埋めた。
「大丈夫ですか……?」
「ん……でも、ちょっとだけ、動かないで……」
 汗に濡れた前髪をかき上げてやりながら問うと、綱吉は小さくまばたきして答え、受け入れている感覚に自分を慣らそうとするかのように目を閉じ、喘ぎながらも意図的に深い呼吸を繰り返す。
 そうして獄寺がついばむような軽いキスをしながらじっと待つうちに、張り詰めていた綱吉の肩の力が抜け、獄寺の熱を呑み込んでいる箇所も、きつすぎるほどだった締め付けがやわらかく包み込むような感触に変わる。
 頃合を悟って、ゆっくりと獄寺が腰を動かすと、綱吉は甘い声を上げて首をのけぞらせた。
 まずは感覚を馴染ませ、目覚めさせるように感じやすい浅い部分をやわらかく擦り上げる。
 互いに何年もの経験をつんでいるのだから、最初からそれなりに激しくすることもできないわけではなかったが、獄寺は身体を繋いでいるうちに少しずつ蕩けて、とろとろになってゆく綱吉を見るのが好きだった。
「あ…ぁ……気持ち、いい……」
 熱を帯びているものの、まだ与えられる快楽に浸っているだけのような理性の光を残した瞳で、綱吉は獄寺を見上げる。
 そして、余裕がまだあることの証のように、右手を上げて獄寺の髪をかきやり、そのまま首筋をたどって肩を撫で、ゆっくりと手首まで撫で下ろす。
「ね……、気持ちいい……?」
 ゆったりとした獄寺の動きに合わせて、受け入れている柔襞もやわらかく締め付けてくる。
 それは半ば無意識、半ば意識的に綱吉がやっていることで、獄寺はその感覚を心の底から楽しんだ。
「最高に、気持ちいいですよ」
 手練手管の使い方など忘れてしまうくらい蕩けて夢中になった時の綱吉も愛しているが、こんな風に互いに与え合うようなじゃれあうような段階にいる時の綱吉も、ひどく愛おしい。
 幸せだと、何の裏もなく獄寺は思いながら、甘く喘ぐ唇に口接け、首筋に唇を這わせていつもより早い脈を感じ取る。
 そして鎖骨を甘噛みしてから、赤みを帯びて色づいた胸元を舌先で愛撫すると、びくりとしなやかな身体が跳ね、締め付けがきつくなった。
「あ…ゃ……ねぇ…隼人……っ」
 ゆったりとした浅い動きがもどかしくなったのか、綱吉が獄寺の肩に爪を立てる。その求めに獄寺は逆らわなかった。
 綱吉の手首を取って肩から外させ、指に口接けてからシーツの上にそっと下ろす。そして上半身を起こした。
「脚をこっちに……そう」
 身体を繋いだまま綱吉の左脚を膝が胸につくほどに上げさせ、体勢を入れ替える。ベッドに横になり背中側から抱きしめるようにして、同じように横向きになった綱吉の左脚を自分の腰の上に乗せ、身体が開いた状態で安定させた。
 そして繋がりを深くすると、綱吉は小さく喘いで背中を震わせる。
 うっすらと汗ばんだうなじから背筋へと唇を這わせ、自由になる左手で脇腹から胸までを撫で上げると、その震えはいっそう激しくなった。
「っあ…だ、め……! これ……すごく…っ……あぁ…っ!」
 この形だと激しくは動けない代わりに、深い部分を執拗なほど愛することが可能になる。
 獄寺の方はさほど強い快感を得られる体位でもないのだが、綱吉の方は繋がる角度が変わったことで、感じ方も全く変わったのだろう。
 先程までとは打って変わって、甘く引きつった声で呻きながらシーツに爪を立てる。
 獄寺が、溢れ出した先走りに濡れそぼって震えている綱吉の熱に手を触れると、耐えかねたように綱吉は背をのけぞらせたが、それは背後にいる獄寺に身体を押し付けるだけの結果となり、更に甘い苦悶を生んだだけだった。



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