「は…やと……っ、も……達きそ…っ…!」
 目じりに涙を滲ませながら、許しを請うように綱吉が訴える。
 中心の熱もとめどなく熱い蜜を零して、獄寺の手指の滑りをよりいっそうなめらかに助けながら、器用な指先が与える愛撫にびくびくと震えている。
 深く繋がった箇所も、とろけるようなやわらかさできつく絡みつきながら、おののくようにひくついて限界が近いことを獄寺に教えていた。
「達っていいですよ……」
 耳元に低く吹き込みながらも、獄寺は綱吉を愛するリズムを変えなかった。
 ここで下手に追い込むような動きをしたら、自分も果ててしまう。
 ここまでも十分に気持ち良かったが、この程度で終わらせる気はなかったし、綱吉を一度目の絶頂では絶対にたどり着けない更なる高みへと導きたかった。
 規則的な動きは変えず、ただ中心の熱を愛撫する手の動きを、少しだけ強く、速くする。
 指先で先端の割れ目や、その下のくびれを丁寧になぞり、手指全体で下から上へと包み込むように扱き上げる。
「ぁう…っ、あっ……あぁ…っ!」
 一番気持ちよく感じる強さでの巧みな愛撫に、綱吉はすすり泣くような声を上げて昇り詰めた。
 汗に濡れたしなやかな身体が激しく震え、投げ出された細い手が力なくシーツを引っかく。
 嗚咽のように震えている喘ぎを愛おしく聞きながら、獄寺は綱吉をそっと抱き締めた。
「愛してます」
 そうささやくと、ん…、というかすかな返事と共に綱吉の腕が動いて、抱き締めている獄寺の手に手が重ねられる。
 ぴったりと隙間なく身体を重ねている感覚がひどく心地良くて、一瞬、このまま終わらせてもいいかもしれないという思いが脳裏を横切った。
 が、それでも綱吉の中で欲望を遂げたいという思いの方が遥かに強くて、獄寺は欲深い自分を詫びるように綱吉のうなじに一つキスを落とす。
 それからもう一度、体勢を入れ替えて正常位に戻った。
 この形だと綱吉の方に負担が大きくなるのだが、どうしても顔を見ていたかったし、綱吉もこちらの方が獄寺を抱き締めることも愛撫することも自由になる上、正面から向き合えることの安心感もあるようで、今もベッドに深く体を預けながら、悦びに蕩けた微笑を獄寺に向けた。
「隼人……」
 甘くかすれた声で名を呼ばれ、手を差し伸べられる。誘われるままに、獄寺は唇を重ね甘い喘ぎを自分の中に飲み込む。
「もっともっと、感じて下さい」
「うん……」
 獄寺がそう願望を口にすると、綱吉は従順にうなずく。
 見上げてくる濡れたような濃琥珀色の瞳は、獄寺を何一つ疑ってはいなかった。
 獄寺が自分を愛してくれること、更なる悦びの高みに導いてくれること。そこには何の苦痛も屈辱も存在し得ないこと。
 何のためらいもなく開かれ、差し出された綱吉の心を感じ取って、獄寺は不意に泣きたいほどの喜びと感動を覚える。
 これが人を愛するということだった。そして、愛されるということだった。
「愛してます、世界中の誰よりも、何よりも……」
 全ての想いと魂を込めてささやきながら、再び唇を重ねる。そして、ゆっくりと動き始めた。
 今度は初めのように浅く加減する必要もない。一度達した綱吉の内部は熱く、ひどくきついが、その分過敏で、己を蹂躙する獄寺の熱を激しい悦びと共に受け入れる。
 深い動きで知り尽くした柔襞を貪ると、やわらかな粘膜は痙攣するようにひくついて絡みつき、それはまるで千もの舌に舐めしゃぶられているような快感を獄寺に与えた。
「気持ち、いいですか……?」
 綱吉の顔も汗に濡れて上気し、きつく閉じた目じりには涙が滲んでいる。
 言わずもがなの獄寺の問いかけに、だが、綱吉は細い顎を震わせながら懸命にうなずいた。
「もっ……お、かしく…なりそ……っ……」
 うっすらと開かれて獄寺を見上げた目も、またすぐに襲い掛かる快感に閉ざされる。たまらないとばかりに首が横に振られ、のけぞった首がわななく。
「──っあ…っ、ふ、ぁあ……っん…っ」
 全ての制御がはじけ飛んだように、甘く蕩けきった悲鳴をとめどもなく上げ続けながら、それでも綱吉は獄寺の手を求めた。
 細い手が断末魔を迎えた小動物のように力なく震えながらシーツの上を彷徨い、手探りで獄寺の手を見つけ出す。
 すぐに獄寺が気付いて、手のひらを合わせて指を絡ませると、綱吉は残されたありったけの力ですがりつくように指に力を込めた。
「は…やと……っ…隼人っ……」
「綱吉、さん……っ」
 すすり泣くような声で繰り返し名を呼ばれて、獄寺の胸にもたまらないほどの想いが溢れる。
 愛おしかった。大切だった。
 このまま死んでもいい、いっそこのまま死にたいと思う一方で、綱吉と共に永遠に生きたかった。
 永遠に、こうして愛しい人を抱いていたかった。
「綱吉さん、愛してます……!」
 叫びだしそうな思いのままに、深く繋がる動きが速く、激しさを増す。
 そうして高みへと続く最後のドアを開いた時、獄寺が感じたのは真っ白な幸福と、自分を受け入れ包み込む綱吉の存在、ただそれだけだった。




 獄寺が簡単に後始末を終えてベッドに戻ると、すぐに綱吉が擦り寄ってくる。
 目を閉じたまま、もそもそと肩に頬を寄せてくる物憂い仕草に獄寺は微笑んで、そっとその身体を抱き寄せた。
「すみません、ちょっと加減ができなくて……きつかったでしょう?」
「んーん、平気」
 眠いのだろう。綱吉の声は少しぼやけていたが、それでも微笑んでいることは十分に聞き取れた。
「すっごく気持ち良かったし、すっごく満足」
「すっごく、ですか」
「うん」
 中学生時代に戻ったような物言いをする綱吉に獄寺も微笑んで、綱吉の額にキスを落とす。
「俺もすっごく気持ち良かったですし、すっごく満足ですよ」
「うん」
 綱吉の口調を真似て言うと、綱吉は笑ってうなずく。そして獄寺の肩に頬を寄せて目を閉じた。
「また、こんな風に休みが欲しいね。半日休でも構わないからさ……」
「大丈夫、ちゃんとお休みを取れますよ。俺がスケジュール調整します」
「うん、頼りにしてる」
 巨大複合企業体としてのボンゴレは、欧州の企業らしく土日休みで長期バカンスもあるが、その頂点に立つ綱吉の場合は、そんな優雅なことなど言っていられない。
 代表者にワークシェアリングをする相手がいるはずもなく、ましてやボンゴレには本業の裏家業もある。もちろん綱吉自身もそれなりに息抜きはしているものの、年が明けてからというもの春の盛りまで殆ど働き詰めだった。
 そして、綱吉が働いているということは、右腕であり筆頭秘書官でもある獄寺も働いているということであり、二人揃って一日半の休みが取れたのは、スケジュールの調整に調整を重ねた獄寺の努力あってのことだった。 
「夕飯までまだ時間がありますから、少し眠って下さい。明日も休みなんですから、のんびりしましょう」
「うん。……あとでピアノ弾いてくれる? 聞きたい」
「幾らでも弾きますよ。明日、一日中でも」
「うん」
 微笑んでうなずき、綱吉は安心したように深く息をついて獄寺の腕に体を預ける。
 その肩までそっと毛布を引き上げ、綱吉のやわらかな前髪を優しく指で梳いてから、獄寺も目を閉じる。
 ドン・ボンゴレの右腕として考えるべきこともやるべきことも沢山あったが、今は愛しい人のぬくもりに包まれて、自分も少しだけ眠ろうと思った。

end.

Primavera〔春〕のそのまんま続き。
タイトルは複数形ではなく単数形。

<< PREV
<< BACK