去り行く日々の足音に 20

 ところどころで光っている街灯が、夜の住宅街を照らし出している。
 幾つもの影法師が路上に落ち、自分の歩みと共に移動するのを見るともなしに見つめながら、綱吉は家路を歩いていた。
 昼間の会話の後、綱吉はいつもと同じようにふるまったが、獄寺の方は上手く気分の切り替えができなかったようで、綱吉に合わせながらも、会話はどこかぎこちなかった。
 そして今も、いつものように帰宅する綱吉を送りながら、獄寺は口を開こうとはしない。
 何を考えているのだろう、と思いながら、綱吉はその横顔をそっと見上げた。
 二人の身長差は多少縮みはしたものの、出会った頃とあまり変わりはない。相変わらず頭半分以上、獄寺の方が背が高くて、綱吉が隣に立つ彼を見るときは、ちょうど頬から額、鼻筋にかけての線を見上げる形になる。
 街灯の光に照らされていつもよりくっきりと浮かび上がるそのシャープなラインが、綺麗だ、と思った。
「獄寺君」
「はい?」
 名を呼ぶと、はっと我に返ったようにこちらを見る。
 薄闇の中だと、灰緑の瞳は淡く煙った銀色に見えて、その色も綺麗だった。
「昼間のこと、まだ気にしてるね?」
「いえ、そういうわけじゃ……」
「隠さなくてもいーよ。君が、物事を簡単に考えられるような人じゃないってことは知ってるから」
「十代目……」
「うん」
 十代目、と彼の声に呼ばれるのも、心地好かった。
 沢田さん、と呼ばれるのも悪くはなかったけど、やはり馴染まない。
「あのさ、まさかとは思うけど、俺が気分を悪くしたんじゃないかとか思ってない?」
「え、それは……」
 慌てたような声に、やっぱりと溜息が零れる。
「あのねぇ、俺はそんなに馬鹿じゃないよ。君が本当に俺のことを思って言ってくれたことくらい、ちゃんと分かってる」
 それは本当だったから、綱吉の声も自然ときっぱりとしたものになった。
「分かってるから、ちゃんと考えるし、君が言ってくれたことも忘れない。君が本気で俺を心配して言ってくれたことを、俺が適当にするわけないだろ」
 そう言った時。
「……十代目」
 不意にぴたりと獄寺が歩みを止めた。



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