去り行く日々の足音に 15

 綺麗な色だ、と思った。
 日伊の混血である綱吉の瞳の色は、純粋な日本人のものに比べるとかなり明るく、光に透けるとスコットランド産の蒸留酒を思わせる深い琥珀色に見える。
 綱吉の父、家光は日本人離れした体格と、金茶に近い明るい色の髪と瞳の持ち主だが、彼の息子である綱吉も、隔世遺伝により西欧の血が強く出たのだろう。
 瞳の色だけでなく、成長期も終わりに差しかかった今、綱吉は伊日クォーターの獄寺ほど顕著ではないが、日本人のようにも、またそうでないようにも見える、つまり異国の血が入っているといえば即座に納得される容姿に成長していた。
 体格は相変わらず筋肉がつきにくく細身だが、身長は随分と伸び、やわらかな雰囲気の内側に凛とした何かが年々備わり始めて、今やクラスメートの少女たちから向けられる意味深な視線の数は、獄寺に勝るとも劣らない。
 そんな綱吉の変化を、獄寺は一番近い場所で見つめていた。
 ───まるで大輪の花が、花びらを一枚一枚ゆっくりと時間をかけて開いてゆくようだった。
 今ですら、外側の花片の幾枚かが開いただけで、満開には程遠いだろう。
 この先何年も、もしかしたら数十年以上をかけて、綱吉は変貌してゆく。ゆっくりと確実に、美しく。
 おそらくあと十年もすれば、彼が何をせずとも全イタリアの暗黒街はこぞって、淡く花びらをほころばせた黄金の絶華の前に膝をつき、ひれ伏すだろう。
 その光景が目に見えるようだった。
 伝説となったボンゴレ一世のように、暴力でも策謀でもなく、彼自身の存在感のみですべてを統率し、掌握する。ボンゴレ十世も、きっとそんな稀代のドンになれる。
 そんな彼の傍らに立つ自分の姿は、獄寺の夢だった。
 まばゆいばかりの黄金色の夢。
 けれど。
「十代目……いえ、沢田さん」
 そう呼べば。
 初めての呼称に、綱吉の瞳が少しばかり驚いたようにかすかにみはられる。
 その綺麗な色を正面から見つめながら、獄寺は一つ静かに息を吸った。
 声が震えないように。
 それだけを思いながら、ゆっくりと口を開く。
「沢田さん。……あなたがなりたくないのなら、無理にボンゴレのボスになる必要はありません」



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