去り行く日々の足音に 13

 何かを考えてるな、とは感じていた。
 映画館を出た辺りから、どことなく獄寺の言動は、いつもに比べるとほんのかすかに上滑りしている。
 やはり映画の選択が悪かったかな、と綱吉は思う。
 『現代の大人のためのおとぎ話』と書かれたレビューの文章に何となく惹かれただけなのだが、映像の美しさはともかく、ストーリーがあまりにも暗示的だった。
 もちろん出会い方のパターンが似ているというだけで、違う部分は山のようにある。
 獄寺が家を出た理由は主人公より遥かに壮絶だったし、自分もあの木こりの男ほど獄寺に対して優しくできるようになったのは、出会ってから随分と時間が立ってからのことだった。何よりも、男と女ではないから、ああいう情愛という形での受け入れ方は最初から無理である。
(──本当に?)
 そこまで考えて、ふと思考が何かにつまづいたようになる。
 それが何なのかはっきりとは分からないまま、綱吉は隣りを歩く獄寺の横顔を、そっと見上げた。
 こうして連れ立って歩くとき、獄寺の口数は昔に比べると随分と少なくなった。
 昔は何かと綱吉に話しかけ、うるさいほどだったのに、今は綱吉が話しかけたときや、彼の方に話さなければならないことがあるとき以外は、自分から口を開くことは少ない。
「獄寺君」
「何ですか?」
「コンビニ寄っていきたいんだけど、いい?」
「はい。もちろんっスよ」
「ありがと」
 当たり前の礼を言うだけで、彼は嬉しそうになる。
 それは最初から変わらない。
 変わらないのだけれど。
(今、何を考えてるの)
(あの頃の、何でもないようなことを次から次に話してくれていた君は、どこに消えたの)
(どうしてそこまで俺に気を遣うの)
 突き詰めるまでもなく、答えは一つだと分かっている。
 昔はあんなにお互い無邪気に、言いたい事を口にしていたのに。
 自分がボンゴレのボスになることを否定しなくなった頃から、比例するように獄寺も、激しい自己主張をしなくなったのだ。
 それを寂しいと言ってはいけないのだろう。
 獄寺のためを、そして自分のためを思うのなら。
 それでも。
(それでも、俺は君の声が聞きたい)
 叶うことなら、主と部下という垣根すら取り払って、対等に、子供のように無邪気に。
「どうかされましたか、十代目」
「ううん。どうもしてないよ?」
「そうっスか。なら、いいんですけど」
 表情には殆ど出ていなかったはずなのに、それでも気遣う獄寺に、綱吉は何でもないと微笑を向ける。
 それでいいのだと分かっていても、ほんの少しだけ、胸が痛かった。



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