去り行く日々の足音に 12

 駅前のファーストフード店で綱吉と向かい合い、ハンバーガーとポテトのセットを食べている間、何気ない会話を交わしながらも獄寺の脳裏を占めていたのは、先程の映画だった。
 見ている最中は、どちらかというと隣りにいた綱吉の方に意識が向いており、気付かなかったのだが、あの映画はまるで、自分たちの出会いを暗喩しているかのようだった。
 目を背けたくなるほど激しく家族と衝突し、荒れに荒れて家を飛び出した主人公と、静かな森での生活に突然飛び込んできた彼女に戸惑い、困惑しながらも、温かな食事や寝床を提供し、気遣う無骨で寡黙な男。
 ありのままの自分を初めて他人に受け入れられた主人公が零した涙は、獄寺には痛いほどに理解できるものだった。
 自分だって、泣きたいほどだったのだ。
 もう何年も前、綱吉が自分の存在を認めてくれたとき、自分の存在を……命を望んでくれたとき。
 自分が感じたものは、嬉しいなどという小さな言葉で表現できるものではない。それはとてつもない感情の嵐だった。
 竜巻のように激しい想いが巻き起こり、状況が状況でなければ、そして人目がなければ、その場で泣いていただろう。
 寂しかった。
 悲しかった。
 苦しかった。
 何をどれだけ破壊しようと、他人をどれだけ傷つけようと、それで心が安らいだことは一度もなかった。
 そんな荒(すさ)み切った自分を、戸惑い、怖がりながらでも、受け入れてくれた人。
 今もこうして、傍にいることを許してくれている人。
 獄寺にとって、綱吉は唯一絶対の存在だった。彼のためなら、何を投げ出しても惜しくはない。
 けれど。
 彼は獄寺のものではない。一生、そうはならない。
 そして、互いに均等でない想いは、想いを押し付けられる側にとっては、ただの重荷にしかならない。
 リボーンの一言でそれに気づいたときから、獄寺は自分を抑えるようになった。
 綱吉の邪魔をせず、彼の意図を間違えず理解し、そして彼を傷つけることがないように。
 彼に重荷を感じさせることなく、何があっても助けられる距離に居られるように。
 ちょうど高校に入った頃から激しい自己主張をしなくなった獄寺に対し、色々な人間が「成長したな」などと声をかけてきたが、それも当然だった。
 成長するしかなかったのだ。
 綱吉のため、そして自分のために。
「そろそろ出ますか、十代目」
「そだね。おなかも一杯になったし」
 コーラのMサイズが空になったところを見計らって声をかければ、綱吉は屈託なく笑って立ち上がる。
 ──何があっても、この優しい人の心を裏切らない。
 それが唯一、獄寺が自分自身に課した枷だった。



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