Five-seveN 11

「リボーン、どうでもいいことかもしれないけどさ」
「ん?」
「ボンゴレに俺以外にボスになれそうな人……というか、ボスの候補者になる可能性のある人って、今どれくらい居るのか、お前は知ってる?」
 綱吉が問いかけると、リボーンは黒く丸い目で、ちらりと綱吉を見やった。
「血縁だけで言うんなら、全部数えたら、十三人ってとこだな。初代から数えてお前と同じ代の奴が六人、家光と同じ代の奴が七人だ」
「そんなに?」
「初代から数えて、お前で五代目だ。二回の世界大戦を挟んでる分、途中で頭数が多少減ってはいるが、ボンゴレの歴代ボスだけでも九人いるんだ。
 子孫にそれくらいの人数が居ても、そう不思議じゃねーだろ」
 予想外に多い人数に思わず目を丸くした綱吉だが、しかし、言われてみればその通りだった。
 それぞれの代で子供が二人ずつ生まれたと単純計算しても、五代を重ねれば、綱吉と同世代の血縁は十六人になる。
 しかも、ドン・ボンゴレの座は初代直系のみが受け継いでいるわけではない。
 むしろ、二世代合計の候補者が十三人というのは、まだ控えめな方かもしれなかった。
「そういや、ボンゴレの家系図については、まだツナに教えてなかったな」
「うん。聞いてない」
 秋口からこの方、リボーンの講義は『ボンゴレが今何をしているか』という部分に重きが置かれている……というよりは、むしろ、それだけでも十分すぎるほどに手一杯で、家系図のような雄大な過去を振り返っている余裕は全く無かった。
 ゆえに、綱吉が血縁という意味でのボンゴレについて知っていることは、殆ど無いに等しい。
 何しろ、九代目と自分がどういう血の繋がりであるのかすら分からないのである。
「これについては、家光から話した方がいいと思ってたんだがな。まあ、あいつも中々に忙しいし、仕方がねーな」
 リボーンは珍しくも溜息をついて、改めて綱吉を見上げた。
「さっき俺が言った十三人ってのは、あくまでも血縁ってだけの間柄だ。大ボンゴレのボスになれるだけの素質という意味だと、お前が候補に選ばれる前にXANXASに殺された九代目の甥っ子三人と、お前が抜きん出ていた。
 九代目の甥っ子たちと同年代の家光も、お前が生まれる前後に一度は候補に名前が挙がったが、あいつ自身が、ある程度の自由を確保した上でボンゴレと九代目を守るために門外顧問という役職に執着したから、そっちの話は流れたんだ」
 つまり、と綱吉は思う。
「父さんがボスになってれば、俺は十代目にならなくても済んだってこと?」
「そういうことだが、その場合、十代目にならない代わりに十一代目になるだけだぞ。お前はボンゴレのサラブレッドなんだからな」
 その言い方が、綱吉の脳裏に引っかかった。
 サラブレッド、という比喩は通常、純血種というような意味で使われるのではないだろうか。
 スポーツ界のサラブレッド、政界のサラブレッドというように。
 何となく嫌な感じがして、綱吉はリボーンを見つめる。
 リボーンは感情の浮かばない黒い瞳を逸らさないまま、小さく肩をすくめて見せた。
「こっから先は、本当は家光から聞いた方がいい話だ。つーより、あいつがとっくに話してなきゃならなかったんだが……。ツナ、お前は自分の顔を鏡で見たことがあるか?」
「はあ?」
 突然何を、と綱吉は眉をひそめる。
「見たことがないわけないだろ。洗面所に鏡があるし、毎日顔洗ってるし……」
「じゃあ、聞くがな。お前は自分で、父親と母親のどっちに似てると思うんだ?」
「それは……母さんだろ」
 改めて訊くまでもない、と綱吉は口を尖らせた。
 若々しく可愛らしい顔立ちの母親のことは、幼い頃から子供心にも綺麗だと思っていたが、それが自分の顔によく似ているとなると、心情は途端に複雑になる。
 父親はあれだけ男臭く、図体もでかいのに、髪や目の色以外に似ているところは殆どないのだ。
 子供の頃からしょっちゅう女の子に間違われ、成長して性別だけは間違われなくなった今でも男臭いとは言いにくい容姿は、綱吉にしてみれば時折思い出してしまうささやかなコンプレックスの一つだった。
「じゃあ、もう一つ。夏にシチリアの総本部で、初代の肖像画を見ただろう。どう思った」
「どうって……。まあ、俺と似てるかなとは思ったけど……」
 自分よりはるかに純度の高い金の髪と瞳。色味は違っていたし、雰囲気も自分にはあんな荘厳さはない。
 けれど、単純に顔の造作だけを取っていうのなら、自分と初代はかなり似ていた。
 ───そこまで考えて、綱吉は冷や水を浴びせかけられたような気分になる。
「……どういう、ことだよ……?」
 母親似の自分。そして、明らかに先祖返りだとも思える自分。
 総毛立つような感覚と共にリボーンを見れば、彼の目は真っ直ぐに綱吉を見つめていた。
「先に言っとくが、誰かが仕組んだとか、ボンゴレの策略だとかじゃねーぞ。家光が間抜けだっただけだからな」
 固唾を呑む綱吉にそう前置きして、リボーンはそれ以上の間を置くこともなく、淡々と語り始めた。



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