去り行く日々の足音に 07

 その映画館は、駅前の繁華街からは離れた小さな商店街の、そのまた奥にあった。
 バスを途中で一度乗り換え、七分ほど歩いてそこに辿り着いたのは、計算通りにちょうど上映時刻の十五分ほど前だった。
「十代目、飲み物はどうします?」
「んー。今はいいや。獄寺君は?」
「俺も、今は別に喉渇いてないっス」
「じゃあ、あとで昼御飯ってコトで。とりあえず入っちゃおうよ」
「はい」
 切符売り場で、映画代を持つ持たないを多少もめた後、結局は綱吉が押し切って割り勘になり、獄寺は綱吉の前に立って小さな映画館の中に入る。
 普段は、綱吉が「隣りじゃないと話し辛いから」と並んで歩くことを望むため、獄寺もその通りにするのだが、初めての場所を訪れる時、獄寺が綱吉の前に立つのは、もはや習い性だった。
「やっぱり小さくて狭い……けど、思ったよりお客さんいるね」
「まぁ土曜ですし、雑誌に紹介されてましたからね」
 上映室はまだ客電が消されておらず、薄明るい。その中でひそひそと言葉を交わしあい、二人は中央後方の席を選んで、クッションのへたりかけた古い座席に腰を下ろす。
 そうして一息ついてから、綱吉が隣りの獄寺へと顔を向けた。
「ごめんね、つき合わせちゃって」
「え?」
「いや、考えてみたら、俺一人で見に来ても良かったんだよね。ここに来るのは初めてだけど、バス停から一直線だから、これなら道にも迷わなかったと思うし」
 その綱吉の言葉に、獄寺は心外だと言わんばかりの表情になる。
「それを言うなら、俺が一緒に行きましょうって言ったんですよ。十代目が謝られるような筋じゃないです」
「それはそうだけど。せっかくの土曜だし、獄寺君もやりたいことあったんじゃない?」
「俺は何にも予定ないですよ。この映画がなければ、家でだらだら遅寝してただけです。……それとも俺、十代目の邪魔しちまいましたか?」
「へ? なんでそんな話になるの?」
「いえ……。もしかしたら十代目は、お一人で見たかったのかなぁと」
「そんなわけないじゃん。もう、君は俺に対して、変な気を回しすぎ」
「それをおっしゃるなら十代目もですよ。俺の予定なんて気にしないで、どこでも連れ回して下さればいいんです」
「……そういうわけにはいかないよ」
 綱吉の返事は、小さな溜息めいた呼吸を挟んで、わずかに遅れた。
 だが、それについて獄寺が何かを言う前に、上映開始のアナウンスがかかり、客電が落ちてしまい、結局その会話についてはそれきりになった。



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