去り行く日々の足音に 04

 翌朝は、初夏らしい良く晴れた空が広がった。
 カーテンから零れる陽射しで綱吉が目覚めた時、リボーンはハンモックには既にいなかった。
 そればかりか家の中にいる気配もせず、またどこかにでかけたのかと思いながら、綱吉は起き上がる。
 そして、ベッドサイドの時計を見てみれば、目覚ましのセット時刻どころか、まだ七時前だった。
 毎朝叩き起こされている習慣が身に染み付いてしまっていることに、悲しい溜息をつきながらも、二度寝をする気にはなれず、綱吉はベッドを降りた。
 おそらく母はもう起きて朝食を作っているだろうが、朝早い家の中は特に物音が響くこともなく、しんとしている。
 数年前までは物騒な子供が幾人も居候して、殺人的に賑やかだったこの家も、綱吉の高校進学を期にすっかり静かになった。
 ランボとイーピンは、それぞれのボスや師の下へ戻り、最近では滅多に尋ねてくることもなくなったし、フゥ太とビアンキも、こちらは頻繁に沢田家にやっては来るものの、生活基盤そのものはイタリアに戻っている。
 父親の家光は、相変わらず留守にしっぱなしで、結局、小さなこの家に今いるのは、綱吉と母親の奈々、そしてリボーンの三人だけだった。
 ばらばらになったのは、それだけではない。
 今でも放課後や休日に頻繁に会ってはいるものの、同年代の仲間たちもそれぞれの進路を選び、厳密な意味で、以前と同じように綱吉の傍にいるのは獄寺だけとなっている。
 了平は、綱吉たちよりも一年早くスポーツ特待生として進学し、山本も、受験なしに進学できるのはラッキーだと笑いながら、スポーツ特待生の道を選んだ。
 京子とハル、ついでに黒川花は、仲良く一緒の進学校へと進み、獄寺は、綱吉に当たり前のように付き従った。
 無論、綱吉は受験時、自分と同じ高校を志望校にしようとする獄寺を止めはしたのだ。
 が、彼はてんで聞く耳を持ってはいなかった。
 十代目の行かれる所へならどこへでも!と、成績だけならどこへでも入れた学年首席が、並みの並である高校へ進学してしまったのである。
 そして、高校でも入学以来、今回の高校三年の1学期中間試験まで変わらず学年首席を維持し続けながら、彼もまた、進路指導を受ける態度は不熱心もいいところだった。
 そもそも獄寺は、勉強にも大学進学にも、綱吉以上に興味を示してはいない。
 高校進学したのも、ひとえに綱吉が進学したからであり、彼自身が何かを学びたいと思ったからではないだろう。
 獄寺隼人という人間は、学校という狭い枠組みをとうにはみ出しており、実社会の中で生きてゆく力を既にその身に備えている。
 ただ、本人にその気はなかっただろうが、同年代の一般的な日本の少年少女と、学校という場で交流を持ったことは、結果的に彼に少なからぬ影響を与えている、とも綱吉は思っていた。
 あるいは、その変化は別に学校という環境が介さなくても起きたのかもしれないが、高校に入ってからの獄寺は、いい意味で肩の力が抜け、周囲の級友ともそれなりに言葉を交わせるようになって、全体的に落ち着きが出てきたのである。
 そして、そのことは自然と二人の関係にも影響を与え、この二年近い間、大概の時間を二人で過ごしていたにもかかわらず、綱吉と獄寺が意見を違えたり、いさかいを起こすことは最近では殆ど無くなっていた。



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