- 向日葵恋話 -
夢を、見たんだ。
俺は、いつもと同じように……つっても、それこそ何ヶ月かに一度の話だけど、とにかく東方司令部の中を歩いてたんだ。
何しに行ったのかは分からない。夢なんて大概、そんなもんだよな。多分、報告書でも出しに行ったとか、そんなことだったんだろう。本当にいつもと同じだったから。
で、中尉とか皆のいる大部屋を横切って、いつもみたいにノックすると同時にドアを開けた。
──そうしたら。
そうしたらさ。
誰も居なかったんだ。
部屋の中はいつもと同じだった。机も書棚も来客用ソファーも。全部、いつもと同じにあった。
ただ、あんたがいつもサボりまくって山積みにしてる書類がどこにもなくて。それどころか、机の上には何にもなくて、いつもあんたの後ろにある窓から明るい日差しだけが差し込んでいて。
だから、俺は訊いたんだ。
誰だって訊くよな。あいつ、どこに行ったんだよって。だって俺は、あんたに用事があって司令部に行ったんだし。あんたの事だから、てっきりサボって逃げ出したか、そうでなきゃ会議にでも行ってるのかと思ったから。
……でも、そうしたら。
中尉が。
少し困ったみたいに泣きたいみたいに笑って。
──もう、あの人は居ないのよ、って。
俺、意味が分からなくて。それとも分かりたくなかったのかな。
どういうこと、って聞き返そうとしたら、急に辺りが真っ暗になって。隣にはアルが居たはずなのに、誰も、何もなくなって。
思わずアルとか、中尉とか、皆の名前呼んで。
──そんで。
一番最後にあんたの名前、叫んだら。
そこで、目が覚めた。
馬鹿みたいだろ。だから、口に出して説明できるわけないんだ。今、どうしてここに居るのかなんて。
アルにだって変な顔されたよ。当たり前だよな。調べ物の途中……まぁ収穫無さそうだっていう結論は見えてたけど、それを放り出してイーストシティ行きの列車に飛び乗って、半日かけてここまで来て。その間、一言も説明なしじゃ、俺だったらぶち切れてるよ。
だからさ、あんたも訊くんじゃねえよ。
ちょっと通りがかっただけで、汽車の乗り換えまでに時間があったからって理由を鵜呑みにしろよ。俺が気分屋だってこと、知ってるだろ?
お茶になんか誘うなよ。俺は直ぐ、また駅に戻るんだから。あんただって忙しいくせに。その書類の山は何だよ、また中尉に怒られるぜ。ほら、今だって睨まれてるじゃん。
なあ、どうしてそんな風に……困ったみたいに笑うんだよ。
そんな優しい目されたら、どうしたらいいか分からなくなるだろ。分からなくなんかなりたくないんだよ、俺はそれが何だってさ。
……うん。報告書はちゃんと今度、持ってくるよ。今だって途中書きのはトランクん中にあるんだ。昨日までやってた調べ物が終わったら、ちゃんと書いて持ってくるつもりだった。半月ばかり、予定が狂っただけなんだ。
……じゃあ、もう行ってもいいよな? 俺の目的は済んだし、これ以上ここに居る意味なんかねえもん。
──だから、そんな風に笑うなって。
あんたは隣りで睨んでる中尉を気にしてりゃいいんだよ。俺のことじゃなくて、目の前の書類に集中しろって。それがあんたの仕事だろ? 俺のこと気にするなんて、司令官の職務にないだろうが。
それじゃ、もう行くから。またしばらく顔出さないつもりだけど、気にすんなよ。俺は俺で勝手にやるから、あんたはあんたで勝手にやってろ。
……だからアル、訊くなってば。俺だって、お前が答えにくいことを突っ込んだりはしないだろ。兄弟にだって礼は有りだぞ。そんな意地悪な奴に育てた覚えは、兄ちゃんにはないぞ。
ほら、次の目的地にとっとと行こうぜ。
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