※この作品はR18指定です。
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Idylle

 ドン・ボンゴレの誕生パーティーは盛大に祝われるのが常だった。
 パーティー会場であるボンゴレ総本部・迎賓館のキャパシティーに応じて、招待客は極力限りはするものの、同盟ファミリーをはじめとする様々な関係を網羅してゆけば、どうしても数百人単位の計算になる。
 それらの盛装した人々が美しく飾り立てられた豪奢な迎賓館に集い、若きドン・ボンゴレに祝辞を述べ、ちょっとした余興を披露し、歌い騒ぐ様は、壮観としか呼びようがなかった。
 室内楽団の美しい調べが流れる中、何度、乾杯が交わされたか分からない。
 人前で酔うのはみっともないこととマナーを承知している人々の集まりだから、見苦しく乱れるものはいなかったが、それでも誰もが軽く頬を上気させ、楽しげに笑いさざめいている。
 その中をゆっくりと回遊しながら、綱吉もまた、いい気分に浸っていた。
 自分の誕生日を祝われることはさておき、大切な人々が楽しげにしていることほど喜ばしいことはない。
 儀礼上どうしてもリストに名を連ねなければならなかった招待客もあるが、それはほんの一握りで、綱吉の右腕が厳選に厳選を重ねた顔ぶれは、殆どが綱吉に好意的な人々である。
 そして、誰もが主賓に好意的であるということはその場に一種の連帯感を生み、招待客同士のいさかいも起きず、見苦しくドン・ボンゴレの寵を争うような場面も、全くとはいえなかったものの殆ど生じなかった。
 何もかもが平和で穏やかで、満ち足りている。
 それが今この場限りの錯覚であったとしても、充分だった。
「お疲れではないですか?」
 午後二時から始まったパーティーは、晩餐まで続く長丁場である。
 獄寺がそうそっと声をかけたのは、日没後間もない頃だった。
「平気。いい気分だよ」
 主賓の綱吉は基本的に主会場である大広間にずっといたものの、来賓と会話する時には相手の性別や年齢によっては、至る所にしつらえられた談話用の椅子に腰を下ろすことも多く、別段立ち詰めというわけでもない。
 適度に中庭に出たり、レストルームに行くついでに少しだけ一人になってみたりと、小刻みに休んでもいたから、獄寺が気遣うような疲れはなかった。
「それより皆が楽しそうなのが嬉しいよ。料理もワインも美味しいし」
「俺には招待客全員、十代目のお誕生日を口実に騒いでいるとしか見えませんよ」
「それでいいんだよ。パーティーなんて、どんなに派手にやっても楽しんでもらえなかったら意味がない。違わない?」
「違いませんね」
 綱吉の指摘に獄寺も微笑む。
 正式なパーティーであるだけに、二人も今日は完璧な正装だった。
 晩餐に合わせて、昼間のディレクターズ・スーツから少し前に着替えた光沢ある艶やかなタキシードは、隣りにドレス姿の女性が不要なほどに二人の雰囲気を華やがせている。
 無論、正装は二人だけでなく、他の守護者(毎年欠席の雲と霧を除く)もだった。
 武闘派の山本と了平は、正装は動きにくいと毎年渋い顔をするものの、背が高く肩幅や胸厚も欧米人に劣らない体格をしているため、本人たちが思うよりは堂々と着こなして女性たちの注目を集めている。
 ただ、やはり二人に似合うのは正装よりも略装であるスーツ姿かな、というのが綱吉の正直な感想だった。
 見るからに活動的な雰囲気を発散している彼らには、あまりにも改まった服装はそぐわない。だが、それでもこの一晩は我慢してもらうしかなかった。
 そして守護者最年少のランボはといえば、まだ若すぎるために、これもまたタキシードが似合わない。
 きっちり採寸してあるものの、その十代の体の線の細さは、かえってタキシードが大人の服なのだということを強く示してしまっている。
 あと五、六年というところかな、と人波にふわふわと漂いながらも、律儀に女性客ばかりに近づいていっている雷の守護者を眺めやって、綱吉は小さく笑った。
 何のかんの言いながら、あの悪ガキも十五歳の少年である。
 沢田家に居候していた頃は第一次反抗期の真っ只中だったが、今は思春期真っ盛り。
 早熟なイタリアの少年らしく、小さな紳士ぶって淑女たちに口当たりの良いカクテルをサービスしているのが何とも微笑ましかった。
 そうして雰囲気を楽しんでいるうちに、これまた正装した執事が現れ、晩餐の支度が整ったことを一同に告げる。
 そしてまた人波が、一定の方向を持って動き始めて。
「俺たちも行こうか」
「はい」
 綱吉もまた、獄寺を引き連れて主賓席へと向かった。



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