SWEET PAIN 2
駅前の大形書店は、いつも込み合っているが、さすがに堅い内容ばかりを扱っている文庫の棚の前は、閑散としていた。
壁際の大きな書棚にきちんと並んだ背表紙を見上げて、呂望は目当ての本を探す。
さほど時間はかからず、
「あった、……けど」
本棚を見上げて、呂望は途方にくれた。
よりによって、その本は一番上の棚にあるのである。
小柄な呂望では、背伸びをしても指先が届くかどうかという高さだ。
きょろきょろと辺りを見回しても、店内に幾つかあるはずの踏み台は近くに見当たらないし、店員も居ない。
誰かに頼もうにも、お堅い学術文庫の近辺には、ほとんど人が居なかった。唯一近くに居るのは、後ろにある本棚の前で、男性向けの怪しい文庫を立ち読みしている中年のサラリーマン風の男だけで、とてもではないが声をかけたくない。
「困ったのう」
顔をしかめつつ、とりあえず呂望は背伸びをしてみる。
思った通り、かろうじて指先が届くだけだ。
何とか指先に文庫本をひっかけて取り出そうとするのだが、うまくいかず、2センチばかり棚から出すことができれば、あとは楽勝なのに、と思いながら懸命に指を伸ばす。
だが、棚にぎっしりと詰められた文庫本は頑固だった。
「もう……!」
背の低い客のことも考えて設計しろ、と心の中で経営者を罵倒しつつ、更に背伸びしようと片手を本棚にかけた時。
すっと横合いから伸びた手が、その文庫本を抜いた。
「はい、この本でいいのかな?」
耳に心地好く響く声とともに、本を差し出されて。
呂望は慌ててそちらへと顔を振り向ける。
「奇遇だね、こんなところで会うなんて」
向けられた優しい笑みに。
どきりと心臓が跳ねた。
「女の子には、この高さは辛いよね」
設計者は絶対男だろうな、と苦笑しながら渡してくれる文庫本を、呂望は両手で受け取った。
必死になって背伸びしていた姿を見られたのかと思うと、どうしようもなく恥ずかしい。
「あの、ありがとうございます」
「お礼を言われるほどのことじゃないよ」
さらりと笑う青年に、呂望はどきどきと跳ね回る鼓動をもてあます。
彼は、つい2日前、知り合ったばかりの高校の先輩で、そんなに緊張する必要のない相手であるはずなのに、どうにもこうにも落ち着かない。
「古典の授業?」
「あ、はい。授業でやった時に面白かったから、一度ちゃんと読んでみようと思って……」
文庫本の表紙に目を落としながら、呂望は答えた。
「図書室にも古典全集がありますけど、通学電車の中で読むには文庫の方が便利ですから」
「確かに」
楊ゼンはうなずき、そして、
「そうか、でも学校祭が終わったら、すぐ受験勉強本番なんだね。3年が役員をやる一番のデメリットは、学校祭が終わるまで勉強できないことだな。僕らの時も大変だったよ」
3年前を思い出したように溜息をつく。
「え、でも先輩は、ずっと……」
定期試験の結果はいつも学年でトップだったはず、と首をかしげる呂望に、楊ゼンは肩をすくめて見せた。
「僕はね。でも、姫発は全科目のうち、半分が赤点だったんだ」
「半分!?」
「そう。古典なんかは、赤点どころか青点でね」
青点というのは、呂望たちの学校の俗語で、赤点の半分の点数を指す。
「……それでよく現役合格できましたね」
「姫発の家は親が物の分かった人で、お前の性格だと、現役で駄目なら浪人でも結果は同じ、今年駄目なら就職だって宣言したんだよ。で、あいつは僕に泣きついてきたんだ。
仕方ないから、学校祭が終わった直後から受験本番まで徹底的にしごいたけど、本当に苦労したな」
犬に曲芸を教える方が、まだマシだった、と楊ゼンはうんざりした表情で眉をしかめる。
「でも、それでK大なんて……」
大きくみはった瞳をまばたかせる呂望に、楊ゼンは悪戯めいた微笑を向けた。
「自分が受ける以外の大学の傾向を調べるなんて、まっぴらだったからね。強制的に、姫発も道連れにしたんだ」
鬼、悪魔と叫んでいたけど、滑り止め含めて全部受かったんだからいいよね、と笑う楊ゼンに、一瞬、唖然とした呂望も、こらえきれずにくすくすと笑い出す。
「ひどい……」
「僕に家庭教師を頼んだあいつが悪いんだよ」
そうして、ひとしきり2人で笑ってから。
「こんなところで立ち話もなんだし……。時間があるのなら、お茶でも飲もうか」
誘いかけられて、思わず呂望はうなずいてしまったのだった。
書店があるのと同じビルの1階に、カフェ形式の小洒落た喫茶店がある。
そこで、向かい合ってお茶を飲みながら、呂望は相変わらず胸の動悸をもてあましていた。
先日は、親友の邑姜とその恋人でもあるOBの青年がもう1人いたせいか、別に緊張も何もしなかったのに、今日はやたらと落ち着かない。
あまりにも整った容姿の青年と1対1で向き合って、どぎまぎしているのを悟られないよう、呂望は必死だった。
誰の前に立っても、滅多に緊張などしないのに、と案外、俗っぽい自分に心の中で溜息をつきつつ、アイスティーオーレにたっぷりとガムシロップを注いでかき回す。
「甘いものが好きみたいだね」
「え? あ、はい」
突然、指摘されて、呂望は慌てながらもうなずく。
グラスの傍らの、ガムシロップが入っていたガラスの器は、30ccほどあった中身が空っぽになっていた。
「皆には、そんな甘いのよく飲めるねって言われるんですけど……」
ほんのり赤面しながら答える呂望に、楊ゼンは微笑する。
「別にいいと思うよ。好みは人それぞれだしね。それより、ケーキは頼まなくても良かった?」
「いえ……」
実を言うと、ケーキのショーケースがかなり気になっていた呂望は、またもやどぎまぎとなる。
「ここのは美味しいって評判だよ。僕のことは気にしなくてもいいから」
にっこりと笑いかけられて。
呂望は誘惑に負けた。
楊ゼンが呼んでくれたウェイトレスに、ガトー・フロマージュを頼み、ほどなく運ばれてきたケーキに思わず瞳を輝かせてしまう。
そして、フォークを手に取り、目の前にいる相手のことも意識から追い出して、レモンの風味が利いた、美味しいチーズケーキにうっとりしながら半分ほど食べた時。
「!」
微笑いながら見ている楊ゼンに気付いて、思わずフォークを置く。
途端に、彼は破顔した。
「ごめん、あまり一生懸命食べてるものだから……」
笑いを噛み殺しながら言う青年に、呂望は色白の頬を真っ赤に染める。
一瞬とはいえ、ケーキに気を取られて彼のことを忘れてしまった自分が恥ずかしい。
「すみません、あの、つい……」
「いいよ、僕の方こそ悪かった。せっかく美味しく食べてたのに、邪魔してしまったね」
「いいんです。甘いものを見ると、つい他のことを忘れてしまって……」
「それだけ、好きだということだろう? そんな風に食べてもらえたら、きっとケーキも作ったパティシエも嬉しいと思うよ」
優しくフォローされて、呂望は返って恥ずかしくなる。
「もう邪魔しないから、ゆっくり食べていいよ。僕はその間、さっき買った本を見てるから」
「すみません」
「急がなくていいからね」
そう言い、書店のカバーがかかったままの本を取り出して開くのを見て、呂望ももう一度フォークを手に取る。
そして、申し訳ないとは思いつつも、再び美味しいケーキを味わい始めた。
* *
刻一刻と学校祭当日が近付くに連れて、生徒会執行部を中核とした学校祭実行委員会はてんてこまいに忙しくなる。
あらゆる揉め事が生徒会室に持ち込まれ、役員は学校中を駆け回らねばならず、生徒会長の邑姜でさえも、印刷室だ職員室だ音楽室だ講堂だ、とまともに生徒会室にいる事がない。
ましてや、その補佐であり会長不在時には代理となる副会長の呂望も、邑姜以上に走り回っていた。
「ただいま〜」
どことなくげっそりして生徒会室に戻ってきた呂望を、邑姜の声が迎える。
「お帰りなさい。何とかなった?」
「とりあえずな。ステージの練習時間は1団体につき40分と決まってると、要項を片手にごり押ししてきた。納得したかどうかはともかく、とりあえず次のクラスと交代したよ」
とさりと椅子に腰を下ろしながら、呂望は首をすくめて答えた。
たった今、片付けてきたのは、講堂のステージの利用時間が過ぎているのに、あと少しだからと前のクラスが交代してくれない、という、あるクラスからの苦情だった。
演劇などをステージでやろうと思ったら、実際の立ち位置や大道具の配置は、ステージに上がらないと感覚がつかめない。
だから、事前に実行委員会の方でタイムスケジュールを作って、ステージ利用は割り振ってあるのだが、毎年、こうして揉め事は起きる。
「本当はこれ、文化委員長の仕事なのだがな」
「仕方ないわ。文化委員長は今、後夜祭の打ち合わせ会議に行ってるもの」
苦笑しつつ、邑姜は机の上に置いてある2つのコンビニ袋を指し示した。
「さっき、1年生がパシリに行ってくれたの。好きに食べて下さいって」
その言葉に、呂望はぱっと反応する。
椅子の背もたれから体を起こし、ビニール袋の中をあさって、片方からミルクティーの缶、もう片方から見慣れないパッケージのチョコレートを取り出す。
「もう、チョコの新作が出ておるぞ♪」
「もうすぐ、秋だものね」
嬉しそうにパッケージを開ける親友に微笑みながら、邑姜は窓の外に視線を向けた。
今日は天気もよく、空も真夏に比べると、どことなく高くなったように思える。
学校祭が終われば、衣替え、2年生は修学旅行、その後は中間試験と、季節は急速に秋へ向かうのだ。
そして3年生は、受験本番へ向けてのラストスパートとなる。
もっとも、邑姜と呂望は毎回、定期試験のたびに交代で学年首席となっており、受験にもそれほど不安を抱いているわけではない。
「……のう、邑姜」
「なあに?」
ナッツをチョコレートで固めたお菓子をつまんで口に運びながら、呂望はわずかに首をかしげるようにして、邑姜を見つめる。
「おぬしは姫発先輩といつ知り合ったのだ?」
その質問に、邑姜は軽く目をみはった。
何故なら、これまで、呂望が恋愛に関することを口にしたことなどほとんどないのである。
切れる頭脳と可愛らしい外見で、学年を問わず人気があるにも関わらず、本人は興味がないのか、誰に交際を申し込まれても、すべて断ってしまう。
そんな彼女にしては、意外すぎるほど意外な問いかけだった。
「……珍しいわね、呂望がそんなこと気にするなんて」
「そうか?」
「そうよ。普段、蝉玉のハニー自慢なんてろくに聞いてないじゃない」
「ああ、あれは……」
聞き飽きたから、と言い訳しながら、呂望はチョコレートを口に放り込む。
「まぁ、隠すようなことじゃないけれど……」
肩をすくめるようにして邑姜は立ち上がり、呂望の隣りの席へと来た。そして、私にもちょうだい、とチョコレートをつまむ。
「──初めて顔を合わせたのは、1年生の卒業式の日。卒業式は生徒会のOBが沢山遊びに来るのよ。その中にいたの」
邑姜は1年生の後期から、ずっと生徒会役員を務めている。
もっとも、呂望にも誘いはあったのだが、面倒事は嫌だと逃げ回っていたのだ。それが、よりによって3年生になってからやる羽目になったのは、適任者がいないと邑姜が困っているのを放っておけなかったからである。
とはいえ、邑姜が、会長はあなたの方が適任、というのだけは、会長やるくらいなら役員そのものにならないとごねて、ギリギリ回避した。
前期には学校祭などという面倒くさい最大の行事があるのに、会長なんかやれるか、というのが呂望の本音である。
「それで?」
「あの人はマメというか、この学校が好きだったのね。だから、去年の5月の球技大会にも9月の学校祭にも、3月の卒業式にも来たのよ」
「それで?」
「それで、まぁ何となくよ。今年の卒業式の後、ここで皆でわいわいやってる間に映画の話とかしていて、10日後に映画見に行かないかって誘いがきて。それから、月に1回くらい映画見に行くようになって、気が付いたらそういう感じになってたってところかしら」
さらさらと、邑姜は答えた。が、ほんのり頬が染まっているのに、間近から見ていた呂望は気付く。
「……ふぅん、そうだったんだ」
「でも、どうして? これまで何にも聞かなかったのに」
付き合っている人がいる、というようなことは夏休み前から、会話の中に出てきていたのである。
その時は別に気にする様子を、呂望は見せなかった。
それが、どうして今更、と考える瞳になった邑姜が、頬杖をついた呂望の顔を覗き込む。
「ねえ、呂望」
「うん?」
「楊ゼン先輩は、今、彼女いないらしいわよ」
「え?」
呂望の反応は露骨だった。
ぱっと顔を上げた直後、色白の頬から耳先まで真っ赤に染まる。
そんな親友の様子に、邑姜はにっこりと微笑んだ。
「やっぱり」
「や、やっぱりって何が!?」
「ごまかしても駄目よ、あなたはとっても分かりやすいんだから」
そう言って笑いながら、邑姜はコンビニのビニール袋の中から烏龍茶の缶を取り出す。
「隠さなくてもいいでしょ? 私でも先輩のことは素敵な人だと思うし」
「べ、別に好きとかそういうのではなくて……」
頬を紅く染めたまま、呂望は決まり悪げにミルクティーの缶をもてあそびながら、弁解する。
「ただ、優しくていい人だなと……」
「それでも、あなたにしてみれば大したものじゃない。これまでに付き合ってくれって言った人の顔も人数も覚えてないんでしょう?」
「それは覚えてないんじゃなくて……」
「忘れちゃったのよね?」
にっこりと微笑まれて、呂望は何も言えなくなる。
そして、烏龍茶を一口飲んでから、邑姜は改めて親友を見つめた。
「私から彼に、楊ゼン先輩のことを聞いてあげてもいいけど?」
その提案に、呂望は思わず目を丸くする。
が、面白がっているようにも見える邑姜の瞳を見つめて、ふと微苦笑した。
「要らぬよ」
短い返事に、邑姜も微笑む。
「それでこそ、呂望よ。本当に気になるのなら、頑張りなさいな。とりあえず学校祭には先輩も来るんだから」
「……そういうのじゃないと言うのに」
すべてお見通し、といいたげな親友の態度に、呂望は苦笑しながらミルクティーを飲む。
と。
「邑姜、呂望、一般入場チケットが出来てきたわよ」
がらりとドアが開いて、すらりとスタイルのいい少女が元気良く入ってくる。
二人の同級生で、広報委員長の蝉玉だった。
小さめのダンボールをどさりと机の上に置き、黒い紙に銀色のインクで描かれた短冊サイズの紙を二人の前に広げる。
「ほら、結構綺麗に印刷出たでしょ?」
「そうね。思ってたよりずっと綺麗だわ」
「1人2枚ずつだから……1クラスにつき100枚弱か」
「それに30クラスを掛けてよ」
「面倒だのう」
「でも、チケットで規制しないとね。フリーパスの家族やOBだけでも結構な入場者数になるんだから」
「……もしこれが全部利用されたら、30学級×100枚×2人+家族+OBが一般入場するわけ?」
「実際は半分以下だと思うけど」
「数えるでないよ、蝉玉」
うんざりと会話を交わして。
「───頑張りましょうか」
少女たちは立ち上がった。
* *
「あと1週間か。早いね」
「はい。皆、気が立ってるから揉め事も多くて……」
「そういう時、男子の役員がいるといいんだけどな。女の子ばかりだと大変だろう?」
「そうでもありません。皆、気が強いですから」
「それなら心配ないかな。でも、腕力沙汰になったら、絶対に女の子は不利だからね。気をつけた方がいいよ」
「はい」
うなずいて、呂望はミルクティーのカップを口元に運ぶ。
台風が近付いているせいで、雨模様の今日は温かい飲み物の方が良かった。
乗換駅にある大形書店で、同じく学校帰りの楊ゼンに遭遇するのは、これで三度目だった。
学校祭の準備のために下校時間が遅くなっているせいで、大学生の彼の帰宅時間にちょうど合ってしまうらしい。
彼もまた、この駅で乗り換えるついでに、毎日のように書店に寄るのだと、初めて偶然会った日に呂望は聞いていて、つい、書店に入ると辺りを見回してしまうのが癖になっていた。
だが、家の方向が違う邑姜には、まだ楊ゼンと再会したことは言っていない。何となく気恥ずかしくて、言えなかった。
「でも、台風が心配だね。今のは明日辺りには通り過ぎるみたいだけど」
「とりあえず初日の体育祭の日にさえ、降らなければいいんですけど……」
「僕らが2年の時に1度、台風のせいで日程入替えがあったな。最初からマニュアルが組んであるから、それほど混乱したわけじゃないけど、面倒は面倒だったよ。四六時中、生徒会室に苦情や問い合わせが来るし、体育祭の張りぼては飛んでいったし」
「どこにですか?」
「外には出て行かなかったけどね。体育館の下の駐車場から、20メートルくらい移動してた」
苦笑混じりに語ってくれる思い出話に、呂望は目を丸くして聞き入る。
と、その時。
「あれ、楊ゼンじゃん」
カフェ形式になっている席は、ビル内の通路から良く見通せる。
声をかけて近付いて来たのは、背の高い、なんとも構わない服装をした青年だった。
「何で君がこんなところに?」
「レポートの資料探しに来たんだよ。相変わらずやるね〜。セーラー服なんて久しぶりに見た気がするぜ」
「通学電車に乗れば、うんざりするくらい見れるよ」
「オレの下宿はガッコから徒歩3分だもん」
ひとしきり会話を交わして。
「ごめん、呂望さん。彼は大学のゼミ仲間なんだ」
「どーも、韋護です」
「あ、初めまして」
初対面の二人は、それぞれぺこりと頭を下げる。
そしてまた、韋護と名乗った青年は楊ゼンの方へ向き直った。
「すんごく可愛いけど、いくら可愛いからって、セーラー服に手ぇ出すってのは犯罪じゃねぇの?」
「違うよ」
いかにも興味津々と言った態度の友人に、楊ゼンは苦笑する。
「彼女は、ただの後輩。偶然本屋で会っただけだよ」
その台詞に。
呂望は殴られたような衝撃を覚えた。
「──先輩」
「ん?」
「そろそろわしは帰ります。明日もまた早いですし……」
「ああ、それなら──」
駅のホームまで送ろうと立ち上がりかけるのを制して。
「お友達もいらっしゃいますから、いいです。それと、この間も奢っていただきましたから」
自分の分のお茶代をテーブルの上に置く。
「いいよ、そんなのは」
「いえ、けじめですから」
そう言って微笑み、呂望は立ち上がった。
「それじゃ、さようなら」
ぺこりと頭を下げて。
気をつけて、と決まり文句を言うのに笑顔を返して、早足で駅へと向かって歩き出す。
人波の中をすり抜けながら歩く速度は、どんどん速くなってゆき、最後は走り出した。
───馬鹿みたい。
たかが偶然、何度か会っただけで、喜んで、浮かれて。
後輩だから、優しくしてくれただけなのに。
───人前でなんか泣きたくない。
涙を堪えてホームを抜け、電車に飛び乗って。
6つ目の駅で降り、家まで10分弱の道程をまた走って帰る。
そうして、ようやく自分の部屋に飛び込んで。
「───っ…」
後ろ手にドアを閉め、ずるずるとその場に座り込んだまま。
呂望は胸をえぐる痛みに泣いた。
to be continued...
というわけで、第2回。
セーラー服呂望ちゃんを書くのは楽しいです^^ が、邑姜ちゃんが微妙に普賢化・・・。つっこみが鋭いのは、似ているような似ていないような。
あと、余談ですが、蝉玉のハニーは天化希望。土行孫もイイ男だとは思いますが、天×蝉好きなのです。
さて、次でこの作品は終わりです。はたして呂望ちゃんの片想いはどうなるのか、邑姜&姫発、美しき保険医・竜吉公主の出番はあるのか? (余談ですが、公主は『うる●やつら』のサクラ先生に似てると思います。外見とか、しゃべり方とか)
頑張ってさっさとかき上げますので、もう少しだけお待ち下さいね^^
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