Rainy Blue 2








 覚えているのは、よく晴れた空。
 小さな白い雲。
 風に流れる、長い髪。

 記憶の底に眠る、最後の面影。








「───…」
 馴染んだ温もりを肌に感じながら、目を開ける。
 ぼやけた視界をゆっくり動かすと、すぐ横に見慣れた顔があった。
 静かな寝顔を見つめながら、あれ、と思う。
 明け方まで自分たちはリビングのソファーで寄り添い、途切れがちな会話を交わしていたはずだった。
 なのに今、こうしてベッドにいるということは、気付かぬうちに眠り込んでしまったということなのか。
「…………」
 小さく溜息をついて、抱き込むように肩の辺りにある彼の腕をそっと除け、ゆっくり上体を起こす。
 遮光カーテンの隙間からは眩しい光が零れ落ちていて、既に日は高く上っていることを教えていた。
 そういえば、明け方に雨音はしなくなったな、と思い出しながら、薄明かりの中で端整な寝顔を見つめる。
「────」
 本当に夜が明けるまで──雨が止むまで、触れるだけのキス以上のことはしない代わりに、抱きしめた腕をゆるめることも眠れと促すこともしなかった。
 女たらしで誰に対してもいい加減なくせに、時々この男は嫌になるくらいに優しい。
 昨夜だけでなく、去年も、その前の年も。
 年に一度、この夜だけは優しく抱きしめるだけで、決して何もしない。
 代わりに、言葉にはしない温もりで、悲しむことだけを促してくる。
 ───そんな必要などないのに。
 もちろんナーバスにはなる。いくら神経が太くても、さすがにこの日だけは、平然とは過ごせない。
 けれど、もう十年近くも経つのだ。
 祖父はまだ健在だし、二歳下の妹も同じ大学で元気にやっている。
 日常には何の不自由もないし、既に過去の痛みとして捕らえることができるだけの時間は過ぎているのだ。
 なのに、この男が。
 適当にごまかして、一夜をやり過ごすことを許してくれない。
 夜と雨が嫌いなら嫌いでいいと……一人にはしないからと、優しい腕で抱きしめてくる。
 悲しいなら……辛いなら、それをごまかす必要などないと。
 その温もりは、あまりにも優しすぎて。
 薄れたはずの喪失感が──もう決して名を呼ばれることも触れられることもないのだという現実が、まざまざと胸に蘇ってきてしまう。
 それは決して不快ではない。
 嫌なら、最初からこの部屋には来ない。
 けれど。
「…………」
 小さく溜息をついた時、ふと見つめる先で彼の瞼がかすかに震えた。
 そのまま見ていると、ゆっくりと瞼が開いて甘やかな色の瞳がのぞく。ニ、三度まばたきして、楊ゼンはこちらを見上げ、微笑した。
「いつから起きていらっしゃったんですか……?」
 起き抜けの低い声は、ひどく耳に甘い。
「ついさっきだよ」
 答えながら、首筋を引き寄せられるままに唇を重ねる。
 ついばむように軽いキスを繰り返して、それから深く口接ける。互いの熱を求めて舌を絡ませ合い、一眠りする前までは何度キスをしようと決して踏み込まなかった深くて甘い戯れに、簡単に息が上がった。
「……起きた途端、これか?」
 唇を離し、乱れる呼吸を抑えながらそう詰ると、彼は甘く微笑む。
「言ったでしょう? 昨夜、あなたが訪ねてきた時からずっと欲情してるんです。あなたは相変わらず、そんな格好をしてくれてますし」
「なら、痩せ我慢などしとらずに、さっさと抱けば良かっただろう」
「そういうわけにもいきませんよ。男ですからね、痩せ我慢が快感な時もあるんです」
「……それなら、最後まで痩せ我慢を貫いてみたらどうだ」
「それも、やっぱり男には難しいですよ。……分かるでしょう?」
「……あっ」
 するりとシャツの上から背筋を撫で下ろされて、躰の内を駆け抜けた感覚に思わず軽くのけぞる。
「あなただって、ね……?」
 思わぬ刺激に睨むと、彼は瞳を甘やかに微笑ませた。
「長い間、焦らしてすみません」
 悪戯めいた微笑みへの文句は、そのまま深い口接けに飲み込まれた。








「……っ……ん…」
 ここしばらく触れられていなかった躰は、たやすく熱が上がる。
 遮光カーテンが引かれているとはいえ、日が昇りきった現在、少なくとも互いの視界をさえぎるだけの闇は存在しない。
 器用に動く長い指にシャツのボタンを外され、すべてが相手の目の前に無防備にさらけだされていることに、今更ながらほのかな羞恥を覚えた。
「相変わらず……綺麗な肌ですね。ちょっと触れるだけで、簡単に跡が残る」
「馬鹿…っ」
 指や唇だけではく、執拗な視線までもが肌をくまなく這っているのを感じて、思わず総毛立ちそうな感覚に襲われる。
 戯れ、焦らすように何度も胸元に軽い口接けを落とされ、舌先でつつかれて甘い痺れがさざなみのように広がり、躰の奥深くからもどかしい疼きが湧き上がってくる。
 ───本当に、焦らされていたのかもしれない。
 昨夜、確かに誘いはしたがそれは肉体の欲求ではなく、あくまでも悲しみをごまかすための手段でしかなかった。
 一晩、寄り添って男の体温と匂いを感じている間中、言葉にできない切なさはこの胸の裡にあったが、それは欲望とは似ても似つかないものだった。
 けれど。
 それでもどこかで、優しく抱きしめるのではなく、激しく奪い、与えてくれる腕を求めていたのかもしれない。
 そうとしか思えないほど、戯れるように触れてくる指や唇に、過敏に体が反応している。
 熱を燻(いぶ)し、煽るようなゆるやかな愛撫に、焦らすなと叫びたくなる。
「ああ、もうこんなに濡らして……そんなに欲しかったんですか?」
 淫らに低く響く声と共に、官能の中心に長い指が絡みついてきて、駆け抜けた電流のような快楽に背筋がのけぞった。
「……っ…あぁっ」
 濡れた指が弄ぶように快楽の徴(しるし)を撫で回し、意地悪くつついたりやわらかく握りこんだりしながら熱を煽る。
 いつのまにか脚を大きく開いてしまっていることに気付いたが、膝を閉じようにも躰がいうことを聞かない。それどころか、より強い淫戯を求めるかのように腰がうごめいてしまう。
「我慢できないのなら、一度達きますか?」
「あ……や…っ!」
 嫌だと言うよりも早く、胸の尖りを軽く噛まれて、息が詰まる。舌先で転がし、甘く歯を立てると同時に、もう片方を軽くはじくように爪弾かれて、執拗な愛撫から生み出された甘い疼きがそのまま下肢へと集中する。
 それを意地の悪い指にいじられ、こらえきれずに熱が爆ぜた。
「───っ…、……ぁ…」
 躰の芯を突き抜けたほとばしるような快感に全神経を灼かれ、襲ってきた物憂い脱力感にひたる。
 けれど、それだけでは満足できない躰の奥がひどく疼くのを感じて、浅く喘ぎながら重い瞼を明け、視線をさまよわせる。と、濡れた指を舐める彼が映り、その淫らがましい仕草から目を外せないままぼんやりと見上げた。
 その視線の先で、彼が甘く笑む。
「……欲しくてたまらないって顔をしてますよ」
「────」
 腹の立つことに、不埒な言葉の通りだった。
 体内の甘い疼きは、ひたすらに満たしてくれるものを求めていて鎮まる気配もない。
 言い返してやりたくても適当な文句が浮かばなくて、そのことに一抹の悔しさを感じながらも、快楽に萎えた腕を差し伸べて彼を引き寄せ、口接ける。
 薄く開かれていた唇から舌を差し入れ、整った歯列をなぞり、誘い出すように舌を絡ませれば、しばらく焦らした後、彼の舌が応えてくる。
 今度は自分の舌を甘く噛まれ、口腔をすみずみまで犯されて、その感覚に溺れた。
「……本当に誘うのが上手ですよね、あなたって」
「うるさい……」
 含み笑いしながらの甘いささやきに言い返しながら、首筋を這う熱い唇の感触を受け止める。
「──っ…ん…!」
「こんなに欲しがって……。これじゃ切なくてたまらないでしょう?」
 濡れた指に最奥を触れられて、そこが物欲しげにひくついているのを自覚させられる。
 焦らすように不規則につつく指先に甘い疼きが込み上げてきて、耐え切れずに身を捩ると、再び耳元でくすりと小さく笑う声とともに、硬い指がゆっくりと進入してきた。
「……すごいですね。もうこんなにトロトロになってる。慣らさなくてもこのままいけそうですよ」
 低く耳元でささやく淫らな声に、熱が煽られ。
 そう言いつつも奥へと押し入ってくる指に、思考を狂わされてゆく。
「───ぁ…、く…っ」
 過敏な箇所をごく軽く指先で引っかかれて、生じた鋭い快感に、噛みしめていたはずの唇から思わず嬌声が零れ落ちた。
「感じるでしょう?」
 内部の感触を確かめるようにゆっくりと動いていた指が浅く引いてゆき、本数を増やして再び押し入ってくる。
「あなたの中、ものすごく喜んでますよ。美味しい美味しいって、こんなに欲しがって……」
「…っ……ぁ、んっ…」
 二本揃えた長い指が、蜜を絡めながら抜き差しを繰り返す。
 焦れきった秘処は、くちゅ、ちゅ…と淫らな音を立てながら狂喜して指を食いしめる。
 更に、固くしこった胸元の尖りを舌と歯でいじられて。
「──よぅ…ぜんっ……」
 甘すぎる愉悦が脳裏を白く灼き尽くしてゆく。
 より深く快楽を貪ろうと腰が揺れるのを抑えることもできない。
「も……やめ…っ……」
 弱いところを知り尽くした手管に翻弄され、このままでは指だけで再び昇りつめさせられるのも時間の問題だったから、喘ぎながら制止を請う。
「どうしてです?」
「…っ……分かっ…てる…くせに……!」
 涙のにじんだ瞳で睨み上げるが、楊ゼンは微笑を深くしただけで、再びうなじに唇を寄せてくる。
「こんなによがってるのに……途中で止めるなんて残酷なこと、できませんよ」
 深く抜き差ししていた指に、ぐり、と快楽の原点をえぐるように強く刺激されて。
「っあ……、やぁぁっ!!」
 二度目の解放を迎えた。
「──ぁ…くっ、…ん……!」
 脳天を突き抜けた快楽は一瞬のこと。
 直後、泣かずにはいられないような激しい疼きが湧き上がってくる。
 躰の奥が切なくてたまらなくて、どうにかして欲しくて挿し入れられたままの指をきつく食いしめ、身を捩りながら腰を揺さぶる。
「指二本じゃ全然足りないなんて……本当にあなたって淫乱ですよね」
 低く笑いながらの台詞が、どうしようもなく憎たらしくて。
「馬鹿…っ!」
「だって、どうせするならとことん気持ちよくならないと。中途半端じゃつまらないでしょう?」
「い…い…から……もぅ…早く…!」
 余裕を浮かべた秀麗な顔を睨みつけながら、あられもなく悲鳴をあげるように先をねだる。
「分かってますよ」
 口接けとともに指が引き抜かれて、疼きがいっそうひどくなる。が、それに耐え切れなくなる前に熱いものが押し当てられる。
「……あ…ぁ…」
 ゆっくりとその質量を味わわせるように押し入ってくる逞しい熱の感触に、思わず吐息が零れた。
「……そんな気持ち良さそうな顔されると、意地悪したくなるんですけど」
 と、含み笑ったささやきと共に、楊ゼンが焦らすように先端だけ挿入した熱を軽く抜き差しするように揺らす。
「──っあ…、い…い加減に……っ!」
 浅い部分にだけ刺激を与えられて、擦れ合う粘膜から生まれる快感と、焦らされ狂い泣くような最奥の疼きに思わず背筋がのけぞって。
 ねだり、誘いかけるように楊ゼンを受け入れている箇所がきつい収縮を繰り返すのを感じる。
「駄目ですよ、そんなに唇を噛んだら。……ほら、赤くなってる」
 軽い口接けと、優しく触れてくる指先に噛み締めていた歯をほどかれて。
 いいようにあしらわれていることに腹立ちを込めて、偽善者面をした男を睨み上げた。
「だ…ったら、さっさと……!」
「はいはい」
「───あ…っ!!」
 それまで浅い箇所で留まっていた熱が、予告なく、不意にぐいと最奥まで押し入ってきて。
「──達ったばかりだから、きついですね」
「誰…のせい……っ」
 微笑まじりの低い声に応じながらも、躰の奥からこみあげてくる蕩けてしまいそうな快感に全身がおののく。
 求めていたものに最奥まで満たされて、自分の躰が歓喜しながら熱い楔を締めつけるのを感じる。
 指を絡め、手のひらを合わせるように握りしめられ、落ち着くのを待つようにやわらかな口接けを頬や額に散らされて、こうしてただ繋がっているだけなのに甘すぎるほどの快感が疼いてくる。
「………」
 と、耳元で微笑する気配があって、薄く目を開いた。
 視線で問いかけると、楊ゼンは甘やかに瞳を微笑ませる。
「いえ……。あなたの中があんまり気持ちいいものですから、いっそのこと、ずっとこのままでもいいなと思って……」
「───ダァホ…」
 思わぬ言葉に一瞬目をみはり、それから苦笑するように目を閉じる。
「明日は……朝一で…講義があるだろうが……」
「そこで現実を持ち出さないで下さいよ。せっかくひたってるのに」
「…たわけ……」
「あなただって溺れかけてるくせに、他人事みたいな顔をしないで下さい」
 小さく笑いながら詰(なじ)る声とともに口接けられて、繋いでいた手をほどき、首筋に回して抱き寄せる。
 何度も角度を変えながら深く絡み合ううちに、彼を受け入れている躰の奥に熱い疼きが込み上げてきて。
 その反応を感じ取ったのか、深いキスを交わしながら楊ゼンはゆっくりと動き始めた。
「──あぁ…っ…!」
 途端に突き抜けた快感に首がのけぞり、唇が離れて抑え切れない嬌声が高くはじける。
 焦れきっていた内部を逞しいものに擦られ、突き上げられる快感につま先までもが甘く痺れる。
 深々と躰を貫かれてほとばしる深い愉悦に、懸命に抑えていた声も、いつしかすすり泣きと化して。
 ひたすらにその先にあるものを追い求めるだけになる。
 そして、はじける寸前の快楽を数度はぐらかされた後。
 全身が砕け散るような激しい絶頂感とともに昇りつめ、意識が焼き切れた。








 雨によく似た音が鼓膜に響く。
 ややぬるいシャワーが肌を打つ感覚さえ、総毛立つような快感にすりかわって、喘ぐようなかすれた声が絶え間なく唇から零れ落ちる。
「…ぁ……や……も…ぅっ…」
 汗に濡れた躰を流しにきただけのはずなのに、気がつけば立ったまま後ろから貫かれて、新たな快楽に甘い悲鳴をあげている。
 肌を伝い落ちる湯と混じりあっていつもより更に結合部はぬめり、信じられないほどの快感が全身を支配していた。
 身長差のせいでたやすく最奥までを突き上げられ、感じすぎる箇所を執拗に刺激されて、どうしようもないほどに脚ががくがくと震えている。
 タイル張りの壁にいくら爪を立てても、崩れ落ちそうになる躰を繋ぎとめることはできなくて、細い爪が割れそうに軋んだ。
「ひ…ぁっ…、よ…ぅ…ぜん……っ」
 圧倒的な熱と質量を持った楔が何度も何度も、やわらかな粘膜に突き立てられる。
 崩れかける躰の重みをも利用して、奥深く抉り続けるその動きに翻弄されるまま、感極まったすすり泣きを零すしかない。
「も……駄目っ…!」
 本当にこれ以上は立っていられない、と悲鳴をあげても。
 低い声は甘く笑みを含んでささやきかけるばかりで。
「──達きたかったら、もっと集中して下さい」
「そ…んなの……できる…かっ!」
 少しでも気を逸らしたら、限界状態の不安定な身体は簡単に崩れ落ちる。こんな危うい体勢で、到底、快楽だけに集中できるはずがなかった。
 なのに、張り詰めた躰の緊張が余計に感度を高めて、ほんのわずかな動きにも過敏に反応を返し、甘すぎる苦悶をつのらせる。
「あ…やぁっ……も…ぅ…止め…っ」
 高まるばかりでどうしても解放に至ることのできない苦痛と紙一重の快楽に耐え切れず、甘く痺れきった指で懸命にタイル張りの壁にすがりつく。
 そんなこちらの状態が分かっているだろうに、
「でも、あなたの躰はまだ満足してないみたいですよ。……ほら」
「ひぁ…っ!」
 ぐ、と深く押し入ってきた熱塊に過敏な箇所を強く擦られて、背筋が反り返る。
深すぎる快楽に指先までもが切なく震えて。
「も……達かせ…っ…!」
 今にも息が止まってしまいそうな甘い甘い苦痛に、こらえきれずに悲鳴を上げる。
 何度も執拗にやわらかな部分を貫かれて、とうに躰は限界を超えている。深すぎる愉悦に、全身の神経がおののきながら甘く熔け崩れ、砕け散っていくようで。  そんな状態を見て取ったのか、
「……仕方ないですね」
 含み笑いとともに、腰を支えていた彼の手がするりと動いた。
「───っっ!!」
 やわらかく、確かめるように快楽の中心を大きな手に包み込まれて。
 脳裏が真白に灼け付く。
 秘処をえぐる律動とは微妙にタイミングをずらしながら、やわやわと絡みつき蠢く指に、全身が張り詰めて硬直したまま、がくがくと震えた。
「──やぁっ!」
 過敏すぎる箇所を同時に嬲られて、全身を灼くすさまじいまでの快楽に、かすれた悲鳴をあげて泣き叫ぶ。
 タイル壁にきつく爪を立てた指が震えながら滑り落ち、崩れかける躰を彼の腕と突き上げる熱い楔が支える。
「すごくいいですよ……食いちぎられそうなくらい……」
 ささやかれる淫らな声も、もう聞こえないまま。
 ただ責め立てられるままに狂乱してよがり泣きながら、与えられる過剰な熱に喘いだ。
「──っ…あぁんっ……ひぁっ…よぅ……っ」
 快楽の中心を強く扱きたてる動きと同時に、数度深く突き上げられて、躰の奥から純粋な快楽の塊がせりあがる。
「…や……あああぁっっ!!」
 大きすぎるその感覚を制御することもできず、最奥を激しく突かれて、そのまま全身の血液が沸騰するような絶頂へと駆け上った。
「──ぁ……やぁ…っ!」
 更に、とろけきり、びくびくと震えている粘膜に熱いほとばしりを叩きつけられて、立て続けの快楽に全身が灼き尽くされる。
 ゆっくりと繋がりを解かれ、支えを失ってくずおれる躰を彼の腕に抱きとめられて。
 床に座り込むような形で強く男の胸の抱きしめられ、鎮まり切らない鼓動に喘ぐ唇をやわらかなキスで塞がれる。
 降り注ぐぬるいシャワーに脱力しきった躰を打たれながら、目を閉じて力強い腕にすべてを預けた。








 やわらかく髪を梳かれる感触に、ぼんやりと目を開ける。
「大丈夫ですか?」
「……無茶しすぎだ、阿呆…」
 散々に泣かされて嗄れた喉は、声を出すのも辛い。ひどい脱力感が全身を支配していて、指一本動かすのも億劫だった。
「すみません、つい……」
 殊勝そうなことを言いながらも、甘やかに微笑するその顔には反省のかけらも見えない。
 案の定、
「すごく良かったですけどね、さすがに僕も疲れましたよ」
 同じベッドに横たわっていた彼は、頬杖をついていた肘を解き、抱きこむように腕を伸ばしてくる。
「たわけ……」
 本当はもっと色々文句を言いたいのだが、躰はだるいし喉も痛いしでは、到底そんな気力は出てこなかった。
 当然、その腕に抗うこともできず、抱き寄せられるまま胸に寄り添うことになる。
「このまま寝ちゃってもいいですよ。それで目が覚めたら何か食べましょう」
 温かな腕に包み込まれながら、そういえば一体、今は何時なのかとぼんやりとした疑問が脳裏に浮かぶ。
 正確には分からないが、考えるにまだ夕刻前なのではないだろうか。
 ──まぁ、昨夜は徹夜だったしな……。
 完全に昼夜が逆転してしまった状態に、小さな溜息がこぼれる。
 そして、目の前に流れ落ちている彼の長い髪をなんとはなし、左手の人差し指に絡めた。




 楊ゼンが昨夜一晩、付き合ってくれた理由は多分、分かっているのだ。
 彼にも年に一度、記憶に残る日があることを知っているから。
 何故、自分にごまかすことなく悲しむように仕向けるのかは想像がつく。
 けれど。
 彼はきっと分かっていないのだろう。

 彼が何も感じない、何の意味もないと言う、年に一度のその日。
 しかし、その日付を覚えているということ自体が、ぬぐいようのない刻印なのだということを。
 確かにその日付が意味を持って、心に刻み付けられていることを。

 もちろん、気付いていないのなら指摘する気もない。
 その日には必ず、いつもと同じように付き合っていた相手と別れて自分の元へやってくる彼を、いつもと同じように受け入れるだけだ。
 けれど。




「───本当におぬしは馬鹿だのう」
「何がです?」
「自分で考えよ」
 言い捨てて指に絡めた髪をほどき、目を閉じる。
 そして、微苦笑まじりの小さな溜息をついた彼が、毛布をそっと肩まで引き上げてくれるのを感じながら。
 意識はゆらゆらと、気だるい眠りの淵に落ちてゆく。








 何も聞かない、何も言わないけれど。

 それぞれ一年に一度だけ。

 互いを手放せない夜がある。




 それが甘えだということは分かっているけれど。

 いつか痛みの記憶が薄らぐ日まで。

 このままでいることを許して。















というわけで、WEBでは久々のHです。5月新刊で散々書いたはずなのですが、まだ書き足りなかったらしく、ついついキーボードを打つ手が滑ってしまいました。といっても、結構抑えましたから大したことないと思うんですけれど。
そして、いつのまにかシリーズ化しつつあるこの作品ですが、望ちゃんが妙に積極的に見えるのは、恋人同士じゃないからです。楊ゼンに恋をしてるなら、彼はもっと可愛い反応をするでしょう。
互いに微妙な好意を持っていて、なおかつ、どちらにもそれ以上進む気がないことを確信した状態でのやりとりというのは、かえって恋人同士よりも婀娜っぽかったりするのが楽しくて好きです。

今回は本当に思いつきだけで書いたので、これまでの話と繋がってない部分があるかもしれませんが、まぁ広い目で読み流してやって下さい。
そもそも「Only you」は、設定なんてほとんどない単発作品だったんですから・・・(-_-)






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