Day and Night 4








 4. bedtime





 秋の入り口にさしかかったとはいえ、三十分も夜道を歩けば、それなりに汗も滲む。
 どちらが先に入浴するかは、その日の気分だが、とにかく交代で風呂を済ませば、後はあまり長いとはいえないものの、朝まで二人きりの時間だ。
 今日提出の数学の課題があるからと先に入浴した太公望は、楊ゼンが髪を乾かして戻る頃には、もうリビングでくつろいでいた。

「もう終わったんですか」
「あんなもの、十五分もかからぬよ」
「それ、教師が聞いたら泣くでしょうね。あなたみたいに教え甲斐のない生徒も珍しいんじゃないですか」
「おぬしだって一緒だろうが。授業はサボりまくりで素行不良の癖に、テストや模試だけは良いんだからな。教師にしてみれば最悪に憎たらしいだろうよ」
「サボってるのは、あなただって一緒じゃないですか。手段が違うだけで」
「その『手段』が、教師には大問題なのだ」
「詐欺師」
「何が悪い。世の中、そんなカラクリで満ちておるのだぞ」

 言い合いながらも、互いの瞳には笑みが滲んでいる。
 くすりと笑って、楊ゼンはソファーに腰を下ろしている人の肩を抱き、身をかがめて唇を重ねる。
 太公望も両腕を伸ばして楊ゼンの首を抱き寄せ、キスに応えた。

「──さっき、マスターが言ってたんですけどね」
 軽いキスの合間に、楊ゼンが甘い笑みの混じった声でささやく。
「僕と一緒にいる時、あなたが全然警戒してないって」
「……太乙が?」
「ええ。それを聞いた時、僕がどれくらい嬉しかったか、分かります?」
「そんなこと」
 一瞬きょとんとした太公望が、くすりと笑った。
 そのまま左手を上げて楊ゼンの頬に触れ、細い指先で肌を優しく撫でる。
 そして、淡く笑んだまま、言った。
「不可抗力ということはあっても、おぬしはわしを意図的に傷つけることはないだろう? それこそ、わしの方が意図的におぬしを傷つけでもしない限り」
「当たり前ですよ。好きな人を傷つけたいわけがないでしょう」
「だったら、どうして警戒などする必要がある?」
 悪戯っぽい光をたたえた瞳は、艶めいているのにどこか優しくも見えて。
 それがひどく嬉しく感じられて、楊ゼンは太公望の目元にキスをした。
「すごい殺し文句ですよ、それって」
「だろう?」
 小さく笑みながら太公望は、両腕をするりと楊ゼンの首に回し、挑発するような悪戯めいた瞳で年下の恋人を見つめる。
「で? 感動させてやったお代は?」
「そう来ますか」
「もちろん。わしはそんな安くないぞ」
「知ってますよ」
 恋人の戯言に、楊ゼンは微笑んだ。
「それこそ十分すぎるくらいにね。だから御要望通り、たっぷりお返ししますよ。あなたがもう嫌だって泣くくらい」
「ぬかせ」
 互いの背に腕を回して、小さく笑いながら二人は唇を重ねる。
 角度を変えつつ何度も深く絡み合い、触れ合う。
 それだけのことなのに、たまらないほどに心地好く、触れた箇所から熱が上がった。
「不健康ですよね、僕たち」
 小さく笑いながら、楊ゼンはキスを耳の下から首筋へと移動させてゆく。
「まだ高校生なのに。授業はサボって、酒場でバイトして、同棲して、真夜中過ぎにSEXして。教師やPTAが聞いたら引っくり返りますよ」
「どんな不良生徒だろうな」
 太公望も、くすくすと笑いながら、楊ゼンの背を流れ落ちる長い髪を、ゆっくりと手で梳く。
 楊ゼンの唇が、鎖骨の窪みを強く吸い上げた時、その手がびくりと一瞬、止まった。
「明日、体育の授業には出ます?」
「……もう付けたのか、まだなのか、どっちだ?」
「まだ、ですけど。跡、つけてもいいですか?」
「……まぁ良いよ」
「ありがとうございます」
「……っ、ん……、こら、あまりきつくするな…っ」
「大丈夫ですよ。これくらいなら二日で消えますから」
「たわけ……っ」
 軽い言葉の応酬をしながらも、楊ゼンの指は着込んだばかりのパジャマのボタンを外してゆく。
 胸元に口接けが落とされ、小さく反応し始めていた尖りに指先が触れると、甘い嬌声が太公望の唇から短く零れ落ちた。
「本当に胸をいじられるのに弱いですよね」
「馬…鹿っ……あっ、ん……!」
 片方を焦らすように指先で転がし、爪弾きながら、もう片方を軽く吸い上げ、舌先でつつくと、左右同時に異なった方法で施される愛撫に耐え切れないように、華奢な躰がびくびくと震え出す。
 だが、それでも楊ゼンは執拗に小さく尖ったしこりをいじり続けた。
 優しく、時にはきつく、強弱をつけながら丁寧に愛してやる。
 甘い声を聞きながら、片方を押し潰すように指先で捏ねつつ、片方に軽く歯を立てると、たまりかねたように太公望の躰が大きくのけぞった。
「……っあ…もう…っ!」
「ああ、まだ達かないで下さい」
 限界を察して胸元からは離れたものの、唇と指先はそのまま下へと、すべやかな肌を這い降りてゆく。
 太公望は腕力がある割には筋肉がつきにくい体質なのだろう、どこもかしこもほっそりすんなりとしていて、とても年上とは見えない。
 普段は決して性別を見間違えることは有り得ないのに、こうしていると、まるでボーイッシュな少女にも見える細い躰に、楊ゼンは丹念に口接け、蕩けさせていった。
「ここと……ここも? 感じますか?」
 薄い肌は、ごく軽く吸い上げただけで簡単に跡が残る。
 花片のような薄紅の所有印を白い肌に刻むたび、太公望は小さく息を詰め、甘い声を上げる。
 どこに触れても過敏に反応を返す肌に甘い酩酊を覚えながら、楊ゼンは太公望が感じる箇所を一つ残らず見つけようとするかのように、華奢な躰をくまなく指先と唇で触れてゆく。
 と、やがて執拗な愛撫に耐え切れなくなったのか、太公望が焦れた悲鳴を上げた。
「お…ぬし、しつこい……っ!」
「──っ、髪を引っ張らないで下さいって。まだこれからでしょう?」
「いい加減に……!」
「駄目です」
 言うなり、楊ゼンは太公望の細い膝に手をかけて、更に大きく脚を広げさせる。そして、その奥で濡れて小さく震えているものに、軽く口接けた。
「もう少しだけ我慢して下さい」
「──あっ、ん……、や…っ…早くっ……!」
 ゆっくりと舌を絡めると、切羽詰った嬌声が零れる。
 その甘い響きを聞きながら、楊ゼンは伝い落ちた蜜を指先に掬い取って、そっと最奥に触れる。と、かすかにひくついていたそこが、びくりと反応して慄えた。
 その感触を確かめ、ゆっくり指先に力を込めてゆくと、直接的な愛撫を求めていたそこは、強い抵抗を見せることもなく、楊ゼンの指を飲み込んでゆく。
 だが、貪欲なまでに収縮しながらも、太公望の裡はひどくきつかった。
 蕩け切った柔襞は、指一本でさえも動かしにくいほど、きつく絡み付いてくる。そこに指とは比べ物にもならないものを受け入れさせるには、ぎりぎりの感覚で焦らし、より強い感覚を求めさせるしかない。
 だから、楊ゼンは太公望が達してしまわないよう、慎重に反応を測りながら、ゆっくりと指を増やしてゆく。
 加減しているとはいえ……否、加減されているからこその、果てがないような前後を同時に責め立てられる快感に、太公望は声にならない悲鳴をあげた。
 やがて、三本の指の感覚に狭い箇所が馴染んだところで、楊ゼンはゆっくりと柔襞から指を抜き、太公望から離れる。
 そして、濡れた口元を指先で軽く拭ってから顔を上げ、太公望のこめかみに宥めるようなキスを落とす。
 と、太公望は生理的な涙に潤んだ瞳を開いて、うらめしげに楊ゼンを見上げた。
 睨むだけではなく文句も言いたげだったが、限界まで焦らされたせいで吐息はひどく乱れ、震えていて、とても言葉にならないらしく、瞳だけが恋人の意地の悪い手管を責める。
「すみません」
 濡れているせいで一層艶やかな瞳の色に睨まれた楊ゼンは、苦笑しながら唇に口接けて、あやすようにやわらかな舌を絡め取る。
 そして、甘い口腔と舌をひとしきり愛撫しながら、細い脚に手をかけ、猛った自身を濡れてひくついている箇所に押し当てた。
「これ以上、焦らしたりしませんから。力、抜いていて下さいね」
 耳元で甘くささやいて、そのまま身構える余裕を与えることなく腰を進める。
 と、逞しいものに押し開かれる感覚に、太公望の唇から震えるような細い声が零れた。
 ゆっくりと侵入してくる熱に、散々に嬲られ焦らされきっていた柔襞は、衝撃におののきながらも歓喜の蜜を溢れさせ、狭い内部のきつさと熱さが、楊ゼンにもまた、たまらないほどの快感をもたらす。
 余計な苦痛を感じさせないよう時間をかけて最後まで収め、それから楊ゼンは熱を帯びた息を一つついた。
「すごく気持ちいいですよ。あなたも感じてるでしょう?」
 込み上げる欲望のまま目茶苦茶にしてしまいたい衝動を抑え込み、すぐには動かさないまま、華奢な躰を抱きしめて、宥めるように軽いキスを繰り返す。
 と、太公望が閉じていた目を開き、数度まばたきしてから楊ゼンを見上げた。
 すがるような詰るような、濡れて深い色をした瞳の艶やかさに、思わず息を呑んだ楊ゼンに、
「も…う…いいから……っ」
 早く動いて欲しいと、甘くかすれた声がねだる。
 同時に、自身を包み込んでいる柔襞が貪欲にひくつきながら熱く絡み付いてくるのを感じて、楊ゼンは煽られるままに唇を重ねた。
 他の誰でもない、自分を感じて求めてくれることがたまらなく嬉しくて。
 何度も角度を重ねながら深いキスを繰り返し、そして、ゆっくりと動き出す。
 途端に、太公望は甘い声を上げて背をのけぞらせた。
「──っあ…、も…駄目……やあっ…!」
 躰を繋ぐまでに散々焦らされ、高められた躰は限界を迎えるのも早い。
 数度突き上げただけで、びくびくと震え出した柔襞を感じて、楊ゼンは動きを深くする。
「一度達って下さい。我慢しなくて良いですから……」
「───っ…!」
 そのまま最奥を強く刺激してやると、びくりと華奢な躰が大きく反応を示して、楊ゼンをきつく締め付けた。
 声にならない声を上げて、軽い痙攣を起こしたように震える躰が落ち着くのを、楊ゼンは動きを止めて待つ。
 そして、汗に薄く湿った太公望のやわらかな前髪を優しくかき上げ、目元に口接けを落とした。
「大丈夫ですか?」
「……ん…」
 うっすらと開いた瞳を、ニ、三度まばたかせてから、太公望は濡れた瞳で楊ゼンを見上げる。
 どこか切なげなその甘い色に、楊ゼンは目を細めた。
「もっと……?」
「……分かりきったこと、聞くな…っ」
「すみません」
 小さく眉をしかめた太公望に、楊ゼンは笑って謝る。
 そうして、機嫌を取るように唇に小さなキスを繰り返し、それから深く口接ける。
 やわらかな舌を絡めとり、隅々まで愛撫してやれば、細い肢体は過敏に反応して、きゅうっと挿入したままの熱を締め付けてきた。
「愛してますよ」
 続きをねだられている甘い感覚に微苦笑した楊ゼンは、またゆっくりと動き始める。
 その濡れた粘膜が擦れ合う感覚に、互いに焦らされていたような躰は、またたくまに沸点近くまで温度を上げ、神経まで蕩けそうな甘さが隅々にまで満ちる。
 動きを深めてゆきながら、楊ゼンがほっそりとした脚に手をかけ、更に大きく広げさせると、たまりかねたようにのけぞった太公望の細い顎が震えた。
「もっと感じて……?」
 一度昇りつめた躰は、反応も最初とは比べ物にならないほど鋭い。
「っあ…ん……あう……っ」
 快楽に溺れた白い肌が淡く染まり、蕩けきった柔襞が熱い蜜を溢れさせて、きつく絡みついてくるのに、楊ゼンも熱が高まるのを覚える。
 強弱をつけながら、柔襞の奥に秘められた快楽の原点を何度も擦り上げてやると、甘く引きつったすすり泣きが零れた。
「──っ、ひぁ…っ……もう…っ!」
「駄目ですよ、まだ……」
 口では限界を訴えても、よがり泣いている柔襞は更なる愛戯と快楽を求めて淫らにひくつき、楊ゼンを煽る。
 過ぎる快楽から逃れようとする細腰を逃さず、ぐいと片脚を肩に担ぎ上げて、更に深くまで熱を突き立てると、途端に太公望の嬌声が一段高く跳ね上がった。
 楊ゼンが動くたびに熱い蜜が溢れ落ち、ぐちゅ…ちゅぷ…と濡れそぼった箇所が、みだらがましい音を立てて二人を煽る。
「や…あ……っ楊…ゼンっ……楊ゼン…っ!」
 感極まったすすり泣きの声が、何度も名を呼ぶのを甘く聞きながら、この家が一軒家、しかも二人きりで良かったな、と楊ゼンは脳裏でちらりと考えた。
 もしこれが互いに狭いアパートあたりで両親と同居だったら、とてもではないが、こんな大っぴらなSEXはできない。
 家族の目を盗んで声を殺して、というのも刺激的かもしれないが、プレイの一環ならともかく、毎度というのは自分たちには合わない。
 好きな相手と抱き合うのなら、妙な遠慮も気遣いもなく、素のままで愛し合う方がいいに決まっている。
 うんと子供の頃には仕事人間の両親を恨んだこともあったが、今となっては一人息子を放り出して海外に行ってくれたことは感謝以外の何でもないと、現金なことを考えていられたのは、ほんの一瞬のこと。
 熱くひくつく柔襞に締めつけられる快感と、絶え間なく零れる甘く濡れたすすり泣きに、たちまちに意識を引き戻される。
「──あ…っ、も…ぅ……!」
 快楽に引きつった声と、びくびくと震え出した華奢な躰が限界を訴える。
 すがるものを求めて、シーツを握り締めていた細い手が楊ゼンの背に回り、肌に爪を立てる。
 その小さな痛みに甘さを覚えながら、楊ゼンも限界が近いのを感じて細い腰を強く抱き寄せ、最奥まで激しく突き上げた。
「…っ、────ぁっっ!!」
 過敏な箇所を強く刺激されて、再び太公望が昇りつめる。
 二度目の激しい絶頂に、痛いほど締めつけてくる柔襞の感触を味わうように数度抜き差ししてから、楊ゼンもまた深い快感と共に、迸る熱を注ぎ込んだ。
「……っ……ぁ…」
 柔襞を灼く熱を最後まで受け止めた華奢な躰に、余韻を示すさざなみのような痙攣が走り、小さくすすり泣くような吐息が太公望の唇から零れる。
 それを宥めるように額や頬、唇に軽く口接けながら、楊ゼンは太公望を優しく抱きしめて落ち着くのを待った。
 やがて、切なげな喘ぎが、おののくような呼吸に変わったのを感じて、楊ゼンは太公望の目元にキスをし、汗に濡れた前髪をかき上げて瞳を覗き込む。
「大丈夫ですか?」
「ん……」
 そっと頬を撫でた楊ゼンの手に、太公望の手が添えるように重ねられて。
 温もりを求めるようなその甘い仕草に、楊ゼンは微笑んだ。
「このまま眠ってしまっていいですよ。シャワーは朝、浴びればいいですから」
 優しい声でささやくと、それが限界だったのか、太公望はぼんやりと小さくうなずいて目を閉じる。
 そして、またたく間に呼吸は寝息へと変わった。
 眠ったというより失神したと言った方が正しいその様子に苦笑して、楊ゼンは身を起こし、ゆっくりと太公望から離れる。
 そして、手早く簡単に後始末を済ませてから、恋人の華奢な身体をソファーから抱き上げ、二階の寝室へと運んだ。





 ベッドに寝かせて、自分も隣りに横になり、細い身体をそっと腕に抱きこんでも太公望は目を覚まさなかった。
 瞳を閉じているせいで年齢よりも幼く見える寝顔は、安心しきっているように穏やかで、どことなく可愛らしい。
「まるで子猫みたいだな。起きてる時は、まるで野生の虎か豹みたいに綺麗で凄味があるのに」
 そのギャップに微苦笑と愛しさが同時に込み上げて、楊ゼンはやわらかな黒髪をそっと指先で梳き上げ、額に口接けを落とした。
「何があっても、あなたを傷つけたりしませんから、ずっとこうやって傍に居させて下さいね」
 祈るように静かにささやいて。
 そして楊ゼンもまた、朝になるまで少し眠ろうと目を閉じる。

 誰よりも愛しい人と、他愛ない日常を過ごせる。
 それだけのことが、ただ幸せだった。






end.










ようやく終わりました、バカップルの1日。
太公望は相変わらず好きだという台詞こそ言ってませんが、楊ゼンに対しては言動の隅々まで甘い甘い。
どうやら作者が当初に予想していたよりも遥かに、甲斐性があるんだか無いんだか分からない年下の恋人のことを愛してるようです。

一方、楊ゼンの方は、言わずもがな。
こっちも最初の頃のクールさはどこに行ったんだか、ほとんど忠犬ハチ公(但し、秋田県ではなくピレネー犬)です。

どうもこのシリーズは、非常識なキャラ設定の割には、ほのぼの平和で日常的な幸せ生活にストーリーが落ち着いているようで、100のお題の方も妙に健全でラブい話が多いんですよね。
ほのぼのしすぎて、エロも不発っぽいですし。どうせなら、もっとガンガン書きたかったんですけど・・・・ううむ。
あまりの砂吐き度合いに、少々書くのがアホらしくもなってきたのですが、まだ小ネタは幾つかあるので、またそのうち、100SSかサイト小説で書くと思います。
というわけで、阿呆なバカップルストーリーでしたけど、感想等ありましたらお聞かせ下さいませ〜。





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