- 01.この想いだけは覚えてて -
東の果ての町の、更にその向こうには砂礫しかなかった。
吹きつけてくる風が強い。砂まじりの乾いた風に、無意識のうちに目を細める。
太陽は今、ほぼ天頂にある。足元にできている影は短く、濃い。
このまま消えてしまいそうだ、と思った。
止むことを知らないような風に吹かれているうちに、身も心も、からからに乾いて石となり、やがては風化してゆくような。
足は根が生えたかのように、もうこの場から動かず、時の流砂に呑み込まれるまでここに立ち尽くしているような。
ふと、そんな錯覚に襲われる。けれど、わずかに体重移動をした途端に、足下では、じゃり、と踏みしめられた砂の音が響く。
人間は、簡単には石になれない。
なれないことはないだろうけれど、それには、この脈打つ心臓を止めるしかない。
血脈が停まり、呼吸が途絶え、すべての感覚が世界から切り離された時、初めて人は石になれる。硬く、冷たく、からからに乾いて、やがては風化してゆく。
けれど、と思う。
すべてが風化して消えていったその痕に。
きっと、墓標のように残るものがある。
自分が佇んでいた足元に。
それは、
大きいか、小さいか。
透明か、不透明か。
澄んだ空色か、燃えるような緋色か、光るような琥珀色か、沈むような鉛色か。
丸いか、棘だらけか。
そんなことは、今の自分には分かりはしないけれども。
たった一つだけ、風化せずに結晶のように残るものが、きっとある。
願わくば、それが美しければいいと思う。
どんなに醜くても仕方がないかもしれないけれど、どうせなら綺麗な方がいい。
そしていつか、鉱物の結晶のようなそれが、彼の元に届けばいい、と思う。
それを見て、彼が何かを感じてくれたら。
綺麗な石だとでも思ってくれたら。
そして、通り過ぎた過去の中の、小さな面影をかすかによぎらせてくれたら。
きっともう、それ以上に願うことはないから。
──本当はいつか。
この口から、自分の言葉で、好きだ、と言えたらいいと思うのだけれど。
多分、それは叶わないから。
彼にも自分にも、一番、と定めてしまったものが他にあって、それはもうどうしようもないことだから。
せめて、この想いの結晶だけ、何もかもが遠くなった頃に届いたらいい、と思う。
誰よりも大切で、大好きな、あの人に。
いつの日か、遠い遠い未来に。
end.
エド視点。
両想いになれない両想い、というのは
結構好きかもしれません……。
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