Day Dream -Sweet Time-
『PM 3:15』
「飲食店って一言で言ってもさあ、新宿界隈だけで、とんでもない数あるんだけど……5213件ヒット、ってなんだよ。そりゃ、それくらいあるだろうけど」
「まずは……西口・都庁前エリア? 歌舞伎町とかには近付きたくないっていうか、近付かせたくないっていうか……。あ、ちょっと減ったな。でもまだ1340件」
「予算は……安過ぎるのも嫌だな。高過ぎるのも、シズちゃんとは行きたくないし。どうせバーテン服で来るんだろうし。まあ、7001円〜10000円? 酒代込みなら妥当なとこだよね」
「はい、ヒット検数13件。あ、でも駄目だな。このエリアだと、シティーホテルとかのお高い店ばっかりだ。……やっぱり東口か。更に絞込みで、歌舞伎町を外して……あ、予算を入れると駄目だな。5000円以下の店が多いんだ」
「で? ここからどう絞り込めっていうのさ?」
「……シズちゃんって、結局、何が好きなんだろ」
「甘いものと乳製品と卵、ってのは分かってるけど、それじゃどっかのカフェだし。食べ物、食べ物っと……」
「好き嫌いは、無さそうで有るのか、有りそうで無いのか……。シズちゃんの口に一番合いそうなのは、昔ながらの洋食屋さん、って気もするんだけどな。オムライスとかハンバーグとか好きそう」
「でも、それじゃあ1時間で食事終わっちゃうし。……やっぱり無難に居酒屋かな」
「うっわ、何この料理ジャンル。細かく分け過ぎじゃない? ……まあ、その方が便利なのかもしれないけど」
「あ、そうか。逆に、さっき西口で検索した時は、予算入れたせいでヒット検数が絞られたわけだから、西口でもいいのか。……ふりだしに戻る、っと」
「……何してんだろうな、俺。仕事しなきゃいけないんだけど」
「波江さん、そろそろ帰ってくるよねえ。でも、店に予約入れときたいし……って、シズちゃん、一体何時に仕事終わるんだよ?」
「あ、良かった。直ぐメールに気付いてくれたんだ。……九時前、ねえ。はいはい」
「えーと、じゃあ改めて、新宿・西口で、和風居酒屋、っと」
「あー、でもまだ195件か。でも、これ以上絞り込むキーワードがないしなぁ。あ、予算を3001円から5000円、っと。はい、71件」
「ん〜、帯びに短し、襷に長しってね。まあ、星の数が多めのとこで……この辺かなぁ。シズちゃん、日本酒は結構いける口だし……」
「じゃあ予約、っと。あ、波江さん、帰ってきたかな。ぎりぎりセーフ」
『PM 8:30』
「そろそろシズちゃん、仕事終わる頃かなぁ」
「……ていうか、ちゃんと終わるわけ? もともと料金滞納するような連中なんだから、ごねる客なんて珍しくないだろうし、シズちゃんてキレたら止まんないし」
「……やっぱり予約は止めといた方が良かったかな。店の目星だけ何軒かつけるだけにしとけば良かった」
「ていうか、あの店、本当に美味しいんだろうな? ☆3.9だから、大外れじゃないはずだけど」
「……メール、来ないなぁ」
「………………」
「――あれ。もしかして、これって、初デートとかいうやつ?」
「え、嘘だろ。うっわ、俺たちに超似合わないって」
「しかも、初デートで居酒屋とかさあ、ないない。どんな酒飲みカップルだっての」
「いや、そもそもカップルとかってのがないから」
「……シズちゃんは、どんなつもりで誘ったんだろ」
「絶対分かってないよね。脳味噌まで筋肉だし、単細胞だし。うん、絶対分かってない」
「じゃあ、俺が意識する必要もないわけだ。別に最初から意識なんかしてないけどさ」
「……でも、顔見て話したい、とか言ってたような……」
「あー駄目だ。もう誰か、あいつの口を塞いでくれ。なんであんな台詞ばっか言うんだよ。キャラ違うだろ」
「シズちゃんの癖にさあ……そりゃあ、朴念仁も困るけど、限度ってものがさ……」
「ていうか、夢オチとかじゃないよね。ここまで全部、俺の妄想とかさ。痛過ぎ……」
「あ、今日の着歴、ちゃんとある。……じゃあ、やっぱり現実なのか」
「……仕事、まだ終わんないのかな」
「シズちゃん……」
「!」
「あ、仕事終わったんだ。今から山手線……これなら……うん、ちょうど予約時間にぴったりだ」
「〜〜〜あー、どうしよう。どんな顔で会えばいいのか、分かんなくなってきた……」
「……とりあえず行こう。待たせるのもいいけど、待ってる方が偉そうなこと言えるし、うん」
「……シズちゃん、どんな顔してくるかなぁ」
『PM 8:45』
「大体予定通り、か。遅めの時間を言ったつもりだったのに、その通りになっちまったなぁ」
「……さっき、トムさん、なんか勘繰ってたよな。まあ外れじゃねぇんだけど」
「相手が臨也だっつったら驚くよな……。まあ、俺は構わねぇけど、臨也が嫌がるかもしれねぇし……」
「……この話は、また今度だな。今日は、他に言っとかなきゃなんねえことがあるし」
「お、メール返ってきた。西口の改札出たとこな。了解」
「……どんな店、選んだんだろうな。つーより、どんな顔で店を選んだんだか」
「そういうとこ、すげー可愛いんだよな。……なんで気付かなかったんだかな、俺も」
「……気付かなかった原因の九割九部九厘は、あいつの責任だよな。駄目だ、思い出したらムカついてきた。考えるな俺」
「可愛い可愛い可愛い……よし、落ち着いてきた。自己暗示って結構効くよな」
「早く会いてぇな……」
「どんな顔して待ってんだか……あいつ、これが初デートだって分かってんのかな」
「まあ、馬鹿じゃねぇから気付いてるか」
「でも、あいつのことだから、また何か疑ってんじゃねぇか。そもそも俺と付き合い始めたこと自体、まだ半信半疑でいるような気がしてなんねぇんだよな」
「……あんなことばっかやってたんだから、信じられなくても当然っちゃ当然か。まあ、俺らみたいな関係で、あんな馬鹿に惚れる馬鹿は、俺くらいのもんだよな。狂ったとでも思うのが普通だろ」
「……結局、好きだとはまだ言ってやってねぇんだよな。言ったら、なんか逃げるような気がして……。妙に往生際悪いんだよな、あいつって」
「そのうち、言ってやりてぇな……」
「お、新宿だ。臨也の奴、待ってるかな」
End.
『君のいる街角 -Sunshine City-』より再々録。
2011年新年の拍手御礼文3部作でした。
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