LOVE IS WAR 2 03
仕切り直しとばかりに、臨也の顔や首筋にいくつものキスを落としながら、静雄の手指がゆっくりと肌の上を滑ってゆく。
手から腕、肩へ上り、胸元を避けるように身体の側面をゆるゆると滑り落ち、腰骨に辿り着いたら爪先へと跳んで、細い脚を丹念に撫で上げる。
それは産毛を撫でるようなやわい愛撫だったが、静雄を愛撫する間、一時逸らされていた臨也の感覚を呼び戻すにはそれで十分だった。
「ふっ…ぁ…、んっ、あ…ん……!」
この上なく優しく肌を撫でられるうちに、全身が再びどうしようもないほど敏感になっていくのを臨也は感じる。
胸元も中心も、触れられることを期待して疼き、もう甘い痛みを覚えるほどだった。
「やぁ…っ、も、さ…わって……、触って…っ……」
どうしようもなくなった体内の熱を持て余して背をのけぞらせ、身をよじりながら、臨也は必死に訴える。肩にすがりつくようにしてきつく爪を立てれば、宥めるように涙の滲んだ目尻にキスを落とされた。
「泣くなよ」
「シ、ズちゃんが、泣かせてるんだって……!」
虐めている張本人に理不尽なことを言われて、思わず臨也は眦を吊り上げる。
だが、静雄は心底嬉しそうに笑っただけで、首筋にかぷりと歯を立てて甘噛みしてくる。同時に太腿を撫で上げた手指がそのまま下腹部に触れてきて、臨也はその刺激に思わず腰を跳ねさせた。
「──っ、あ……っ…!」
脇腹は元々人体の弱い部分であり、触れられれば誰でもくすぐったさを感じるものである。
にもかかわらず、ここまでの愛撫で桁違いに感度を増したそこを意図的に触れられれば、泣き声のような悲鳴を上げないでいるのは絶対に無理だった。
静雄の指先が薄く割れた腹筋を丹念になぞり、大きな手のひらがゆるゆると身体の前面を這い上がる。
「やぁ…っ、も……やめ…て……っ」
「触ってくれって言ったの、お前だろ」
全身にざわざわと鳥肌が立つような快感の波に耐え切れず、もう触って欲しいのか手を離して欲しいのか分からなくなって、捕食動物に囚われた獲物のように小さくもがく。だが、それを静雄が許してくれるはずはなかった。
敢えて胸の尖りだけを避けるように脇を撫でられ、淡い色をした周辺を指先と舌でじっくりとなぞられる。
それだけで、その中心の小さな肉粒ばかりでなく、体の奥深くがどうしようもなく疼き、これで愛撫を待ち侘びて熟れ切った頂(いただき)に触れられたどうなるのだろうと、惑乱した思考で怯えたその時。
「あぅ…っ…!」
掠めるような愛撫が、胸元を襲った。
触れるか触れないか。それくらいのかそけさで、舌先と指先が左右同時に繰り返し触れる。
下から押し上げるようにやわらかくつつき、ゆっくりと爪弾くように転がして弄んでから、最も敏感な先端にそっと舌先を触れることを繰り返す。
「ひ、……あぁっ、あ、ぅ、あ…ん……っ」
静雄は決して先を急がない。過敏すぎる箇所をじっくりと嬲られて、頭の中が真っ白になるような強烈な快感に、臨也は全身をよじり、身悶えしながら泣きじゃくった。
焦らしに焦らされた挙句の愛撫は、うんと優しいのにもかかわらず、まるで雷に打たれ続けているかのように臨也の快楽神経を灼き尽くす。
そして、そのドロドロに融けた灼熱のマグマのような快楽の奔流は──身体の中心へ、そして更なる最奥へと流れ込んでゆき。
「や、だぁっ…、も…ぅ疼いちゃう…っ…」
いつも静雄を受け入れている箇所が、逞しい熱を求めてひくりひくりと息衝き始めている。その感覚に耐え切れず、臨也は泣きながら犯されることを乞うた。
「あぁ…っ…、も…いれ、て…っ、挿れて……っ!」
敏感な尖りに触れられる度、疼いてたまらない最奥を持て余して腰がびくびくと跳ねる。
すると、脇腹から腰骨までをするりと撫で下ろされて、更に疼きがひどくなった。
「シ…ズ、ちゃ…ん……っ」
快楽と涙に霞む瞳を懸命に開いて、まなざしでも求める。
探し当てた静雄の瞳は、強い情欲の光を湛えながらも苦笑するように優しかった。
「ま、ここまで結構焦らしちまったからなあ」
指先で尖りをきゅ、とやわらかくつままれて、その衝撃にびくりと臨也は震える。
それを宥めるかのように静雄は手指の形を少し変えて、人差し指と中指とで軽くつまんだ尖りの先端を親指の腹で何度も何度も優しくかすめ、つついた。
「ひあっ、あああ…ぁっ、あ、ぅ…っ!」
胸元に対する究極の形とも言えるその愛撫に、臨也は新たな雷に打たれたかのように背をのけぞらせ、高い悲鳴を上げる。
だが、静雄は許してはくれず、臨也は全身をびくびくと震わせながら嬌声を高く透き通らせてゆき、やがて力尽きてシーツの上に崩れ落ちた。
「っ…あ……、ふ…ぁ……」
「あー、胸だけで空イキしちまったか」
最初から狙っていたのだろうに、静雄はそんなことを満足げに呟く。
やっと手指を離されたものの、臨也の身体に走るさざなみのような痙攣は治まらず、ひどい、と臨也はすすり泣いた。
「む、ねで…っ、イくの、やだ……って、言ってる、のに…っ…」
「知ってっけどな。でも、すげぇ可愛いし」
「かわ…いい…っ、やだ……っ」
こんな目に遭うのなら可愛いなんて思われたくないと、子供のように泣きながら首を横に振れば、宥めるように頭を撫でられる。
「俺の目がどうかしてるのかもしれねぇけどな。すげぇ可愛いんだから、諦めろ」
好きだ、と駄目押しのようにささやかれ、臨也は嫌々と更に首を横に振る。
だが、その抵抗も、やや強引に唇を重ねられたことで封じ込められた。
「……っ…ん、ふ…っ……あ…」
濃厚に舌を絡められ、たっぷりと口腔を愛撫されて唇が離れた頃には、臨也の思考はぼんやりと霞み、蕩けたまなざしで静雄を見上げることしかできなくなっていて。
「失神しない程度にする、って約束しちまったよな……」
ぼやくように呟いた静雄の言葉の意味も、もう耳を素通りするだけで理解できない。
それよりも胸元だけで達したために返ってひどくなった疼きを持て余し、緩く腰を持ち上げて、すり…と自分の熱を静雄の熱に擦り付けた。
「おい……っ」
「触って……シズちゃん」
慌てたように腰を引いた静雄をそれ以上追うことはできず、代わりに臨也は両腕を持ち上げて静雄の肩に触れ、うなじや頬を撫でる。
「いっぱい触って……、シズちゃんの、挿れて……」
静雄が欲しいと、もうそれだけしか考えられずに、本能のまま甘く囁きかける。
「俺の中、シズちゃんでいっぱいにして……?」
「──あー、クソッ」
甘やかな誘惑に煽られたのだろう。獰猛に静雄が毒付く。
「これで失神しないようにしろとか、拷問だろ……」
こいつがぶっ飛んでるのは俺のせいだけどよ、とぶつぶつとぼやきながらも、もう一度臨也に深く口接ける。
それから、身体を軽く起こし、臨也をころんとうつぶせに転がした。
「シ、ズちゃ……」
「手前はもう黙ってよがってろ」
そんな言葉と共に腰を持ち上げられ、いわゆるバックスタイルを取らされる。
「あー、すげぇひくついてんな。これなら、そうはかからねぇか」
呟きと共に、サイドテーブルの方で少し硬質な音がしたのはローションを手に取ったからだろうか。
顔の見えない体勢はどうしても不安を煽られて、後ろを振り返ろうとした時、不意にぬるりとした感触が秘所を撫でた。
「ひぁ…っ」
静雄の体温に馴染んでいるのか、ローションの冷たさは感じなかったが、それでも敏感な箇所への刺激に反射的に身がすくむ。
だが、それ以上に静雄を求める疼きが強烈に身体の奥からこみ上げて、臨也はシーツに額を擦り付けながら必死に耐えた。
静雄の指先は繊細な粘膜をゆるゆると繰り返し撫で、それから固い指先が感触を確かめるかのようにそっと差し込まれる。
乱暴にされていたら、それだけで絶頂してしまっていただろう。しかし、臨也の状態をよく理解しているらしい静雄に指の第一関節くらいまでを浅く出し入れされて、湧き上がる甘い感覚に臨也はたまらずに細くすすり泣いた。
「シ…ズちゃん……っ、あ、ん…っ…」
もっと深く犯されたい。指一本では足りない。
そう思うものの上手く声にならず、震える喉で懸命に静雄の名前を呼ぶ。
すると、長い指がゆっくりと根元まで押し入れられ、柔襞が抵抗らしい抵抗を見せず吸い付くようにひくつくのを確認してから、慣らすようにぐるりと指を回された。
「すげぇ食い付いてくるな。さっき達ったせいか?」
「知、らない……っ」
聞かれても分かるはずがない。分かるのは、自分がどうしようもなく静雄を欲している。そのこと唯一つだ。
「あ…ん……、っあ…、やぁ…っ」
静雄としても特に答えを求めていたわけではないのだろう。ゆるゆると指を動かし続け、魔法のように臨也の身体から更なる快楽を引き出してゆく。
やがて、静雄の指の腹が最も敏感な箇所に触れ、いつもされるようにやんわりと繰り返し柔襞に秘められたしこりを押されて、臨也は甘い声を上げながら腰を揺らした。
「そ、こ…っ、気持ち、いい……っ、あ…んっ……」
「ここな。こうすると……もっと気持ちいいだろ」
「ひっ、あ、あああ……っ…!」
そうして臨也を快楽に狂わせながら、静雄は指を二本、三本と増やしてゆく。
男らしい形の整った指が、他の誰にも触れさせたことのない場所を暴き、犯している──。そう考えるだけで臨也の甘く霞んだ思考は焼き切れそうになり、無意識のうちに静雄の指をきつく締め上げてしまう。
すると、静雄が熱を帯びた声で低く笑った。
「そんなに締めたら動かせねえっての。お前だってキツイだろうが」
苦笑交じりに言われて、臨也は知らない、とシーツにすがりつきながら必死に首を横に振る。
確かに挿入されたものを締め上げれば圧迫感が増して苦しいが、意識してやっているわけではないのだ。咎められても、宥められても、どうすることもできない。
そんなきつさを増したという柔襞を、しかし、更に広げるようにじっくりと虐められて、臨也は切れ切れに甘やかな悲鳴を上げた。
「……っ、あ…、やっ…そ、こ……っ」
「んー、こっちか?」
「ちが…っ、もっと、奥……っ」
「これ以上は指じゃ届かねぇよ」
本当なのか嘘なのか、静雄は含み笑って浅い位置で指を遊ばせる。
どれ程懇願しても疼いて仕方のない奥には触れてもらえず、込み上げる欲望に耐えかねて、ぼろぼろと零れる涙がリネンのシーツに吸い込まれてゆく。
「や…だぁ……、も、やだ…っ、ちゃんと、挿れてぇ…っ…」
ずっと張り詰めたままの熱からは、指を挿入された直後からねっとりした蜜が滴り落ち続けている。静雄はそこには一向に触れようとする気配はないが、僅かでも触れられたらその瞬間、熱ははじけてしまう違いなかった。
そんなギリギリの状態を長い時間強いられて、臨也はもう身も世もなくすすり泣きながら必死に欲しいと訴える。
すると、まぁこれくらいにしとくか、という呟きと共に、ずるりと指が抜かれた。
「あー……」
最奥を苛んでいたものが消え失せて、思わず立てていた膝が崩れそうになる。
だが、静雄がそれを許してくれなかった。
「力、抜いてろよ」
きちんと腰を抱え直され、とろとろにされた蜜口にみっしりとした重みを感じさせる熱が押し当てられる。
「あ……」
この熱さが、重みが、どうしようもなく欲しい。
でも、こんな欲しくて欲しくて気が狂いそうになっている状態で挿入されたら、一体どうなってしまうのか。
自分は壊れてしまうのではないか。
一瞬のうちにそんな相反した想いが巡り、待って、と口走りかける。が、それよりも早く、ぐ…とそこに体重が掛けられた。
「──あ…っ! あっ…ん、シ、ズちゃ……っ」
硬く張り詰め、ずっしりとした重みのある熱がゆっくりと押し入ってくる。
指とは比べ物にならない質量を馴染ませようと、柔襞がひくりひくりと小さく痙攣するのに合わせて緩く抜き差ししながら、奥へ奥へと入り込んでくる。
「う、あ…っ、あぁっ、やっ…、そ、こ……っ」
疼いて疼いて仕方がない所を愛おしい感触が埋めてゆく。
馴染ませるための動きで最も感じる場所を数度擦り上げられ、その果てにずん…っと最後まで熱塊を押し込まれて、臨也はたまらず高い声を上げて昇り詰めた。
「っあ…、ああああぁ──…っ!」
頭の中が真っ白になるほどの強い快感に灼かれ、がくがくと腰を震わせながら熱を吐き出し、深く挿入されたものを食い締める。
「っ…ふ……あ…ぁ…」
よがり狂った柔襞が激しく痙攣しながら食むような蠕動を繰り返す。その刺激にすら感じて、臨也はシーツに額を擦り付けながら、しゃくりあげるように細くすすり泣いた。
「あー、クソッ、食い千切られちまいそうだ」
身も心も蕩けそうな余韻に溺れていると、臨也の絶頂がもたらした締め付けに耐えたらしい静雄が低い声で呻く。
「臨也」
「──っ…んっ」
そして、シーツに上半身をへたらせてしまった臨也の肩を抱き、自分ごと横抱きにころんと横になった。
「シ、ズ…ちゃ……」
「この方が楽だろ」
身体は深く繋げたまま、背後から臨也を緩く抱きしめる。
汗に濡れた肌が触れ合い、伝わってくるいつもより高い体温や速い鼓動に、臨也はすすり泣くような吐息を零しながら静雄の手を求め、頬をすり寄せた。
「シズ、ちゃん、シズちゃん……」
「ん……」
何度も名を呼べば、答える声と共にうなじに幾つもついばむようなキスを落とされる。
薄い敏感な肌を唇で優しく愛撫して、そのくすぐったさにも似た気持ちよさに臨也が首をすくめれば、やわらかく耳朶に歯を立ててくる。
そのいとおしみ、可愛がるばかりの愛撫がどうしようもなく心地良く幸せで、臨也はほろほろと涙を零してすすり泣いた。
「気持ち、いい……」
「ん……?」
「どぉ、しよう、シズちゃん……ものすごく、気持ちいい……っ…」
深く繋がり合ったそこは満たされているだけでも疼くような心地良さがあるのに、柔襞は互いの脈動に合わせて小さくおののき続け、更なるやわらかな悦びを生み出し続けている。
重なった熱く濡れた肌は互いの息遣いまでもを感じ取り、静雄の唇はうなじから肩までに優しい愛撫を送り続け、腕は臨也を包み込んで、大きな手は臨也が手指をすがりつかせるままに優しく握り返してくれる。
何もかも夢のように幸せで、感情のメーターが振り切れてしまったのか、一旦零れ出した涙は止まる気配もない。
子供のように細くしゃくりあげながら泣いていると、ぎゅっと抱き締める腕の力が強くなった。
「馬鹿……。俺だって滅茶苦茶気持ちいいんだよ」
「シ…ズちゃん……」
「お前のここな、気持ちいい気持ちいい、嬉しい嬉しいって俺のを包み込んでくれてる。分かるんだよ。お前が俺を本当に俺を受け入れてくれてるかどうかなんて、こうして身体を繋いじまえば、すぐに分かる」
「……だって、本当に……そうだもん。すごい、嬉しいし、気持ちいいし……」
「うん、分かる。すげぇぴったり吸い付いてきてくれてて、キツイのにやわらかくて、熱くて……。挿れてるだけで溶けちまいそうなくらいに気持ちいい」
低く熱を帯びた声でうっとりと告げられて、臨也の眦からまたほろりと涙が零れ落ちる。
「シズちゃんが……愛してくれるから、だよ……」
「ん……?」
「シズちゃんが、こんなに俺のこと大事にしてくれるから……気持ちよくて、嬉しくて、幸せで……俺ももっと、シズちゃんを大事にして、うんと気持ちよくしてあげたいって……そう思うんだよ」
「臨也……」
愛されているからこそ、身体もまた静雄を一生懸命愛し返そうとするのだと告げると、またぎゅっと抱き締められ、頬にキスが落とされた。
「すげぇ好きだ、臨也。本当に、お前のためなら死んでもいいくらい愛してる」
「俺も、だよ。シズちゃん」
本当に本当に愛してる、と告げて片手を上げ、届く範囲で静雄の髪と頬をそっと撫でる。
「ね……、うんと気持ちよくなって、俺のこともうんと気持ちよくして……?」
「──おう」
そうだな、と温かな声で応じて、静雄は臨也と指を絡ませていた手をやわらかく解き、取り戻す。そして、臨也の肩から二の腕へとすべやかな肌の上に手のひらを滑らせた。
肘まで辿り着くと、そこから脇腹の辺りへと静雄の手のひらは落ち、腰骨を包み込むようにして通り過ぎ、更に手の届く限り下まで降りてゆく。
それからゆっくりと這い上がってきて、脇腹からゆるりと鳩尾を撫で、胸元へと辿り着いた。
大きな手のひらがしなやかな胸筋の感触を確かめ、指先でそっと先端に触れる。待ち侘びていたその愛撫に、臨也は小さな嬌声を上げて、びくりと身体を震わせた。
「すげぇ敏感だよな、ここ……」
熟れ切った小さな尖りを優しく指先で撫でられ、摘まれる度に甘い声が零れてしまう。同時に、体内に深く含んだ静雄の熱をも締め付けてしまい、そこから生まれる疼くような感覚がじわじわと広がってゆく。
「っ、あ……シズ、ちゃ…ん…っ」
生涯の恋人の名前を呼びながら、柔襞が疼くのに耐え切れず臨也は腰をもじつかせる。だが、深く楔を穿たれて抱き締められた体勢では、僅かしか身体を動かすことができず、加速度的に疼きが膨れ上がってゆくばかりで、どうにもならない。
「あ、や…っ、もう、動、いて……っ」
背をのけぞらせて快感を逃そうにも、それすら許されない。拘束されたままの濃厚な愛撫にたまらず臨也は静雄の腕に爪を立て、かろうじて自由になる足をシーツの上で小さくもがかせた。
「お前ン中、すげぇびくびくしてる……もっと奥に来てくれって言ってるみてぇ」
「やぁ……っ」
耳元で低く囁きこまれて、臨也は嫌々と首を横に振る。
静雄の言うことには、凡(およ)そ嘘はなかったが、熱を帯びた低い声はそれだけでも甘い愛撫だ。何をされても感じ入ってしまう今の臨也にとっては、甘い毒に他ならない。
どうすることもできず、注がれる愛撫に喘ぎながら静雄の腕に爪を立てていると、不意打ちで静雄がゆるりと腰を動かした。
「っあ……っ!」
それはほんの僅かな動きだった。ほんの少し、計測すれば一センチもない程腰を退き、そして緩く押し込む。
それだけのことだったが、待ち侘びていた臨也の性感を狂わせるには十分に過ぎた。
「あ──っ、あ、あっ…、やぁ…っ……!」
身体の奥深くにある敏感な場所を静雄の熱に愛される。その感覚がもっと欲しくて自然に腰が揺れ始める。
横抱きにされた不自由な体勢であっても、うまく膝や上半身で体重を支えれば、それを貪ることはどうにかできなくもない。
勿論、決して十分な動きではなかったが、それでも擦れ合うところから得られる甘い愉悦に臨也は夢中になった。
「あ…、あ、や…っ…止、まん、ない……っ」
前後に揺らして小さな抜き差しを愉しみ、あるいは腰を強く押し付けて柔襞に秘められた感じやすい箇所を静雄の熱に擦り付ける。
「気、持ち、いい……っ、気持ち、いいよぉ…っ…、シズちゃ……あぁっ」
止め処もなく甘い声を上げながら、臨也が自分の動きが生み出す快感を味わっていると、静雄が小さく含み笑った。
「メチャクチャ可愛いけど、顔が見えねぇっつーのはな」
そんな呟きと共に自分の上体を起こし、臨也の脚を折り曲げさせて体勢を入れ替える。その弾みに、僅かにではあったが繋がった箇所に静雄の体重がかかり、臨也は小さく呻いた。
「っ、い、たい……っ」
「あ、悪ぃ」
すぐに静雄は角度を緩めてくれ、痛みはふっと消える。一瞬強張った身体は直ぐにやわらかくほどけて、深く繋がった箇所からじわりと快感が広がってゆくのを感じ、臨也は静雄を見上げて微笑んだ。
「もう大丈夫……気持ちいい……」
「ん……悪かったな」
「平気……」
そのまま上体を屈めてきた静雄に口接けられ、首筋に両腕を回して応える。すると、キスをしたまま背中を抱かれ、身体を起こされた。
「っ…ん……」
身体の密着度は先程までより薄くなったものの、異なる角度で一層深く繋がり合う対面座位の形になり、長いキスを終えた臨也は静雄の顔を両手で包み込むようにして見つめる。
「シズちゃん」
明るい鳶色の瞳が熱情を込めて自分だけを見つめている。そのことがただ嬉しくて微笑むと、首を伸ばした静雄に、ちょんと唇にキスをされた。
「ったく……。可愛過ぎだ、お前」
「ふふっ、俺のこと、可愛いなんて言うの、シズちゃんだけだよ」
「当たり前だ。他の奴になんざ、言わせてたまるかよ」
お前の可愛いところを知ってるのは俺だけでいい、と静雄は臨也の左手を取り、薬指に煌めいているプラチナのリングに口接ける。
その独占欲が嬉しくて、臨也は右手で静雄の頬をそっと撫でた。
「うん、シズちゃんだけでいいよ。っていうか、シズちゃんだけじゃないと嫌だし、そもそも無理」
こんなに何もかも明け渡せるのは静雄だからだ。
世界で唯一人、何があっても愛し抜いてくれると信じられる相手だからこそ、身も心も全てを委ねられる。
心と身体の全て、魂のひとかけらまで静雄には愛して欲しかったし、自分もまた愛したいと思うから、全てをさらけ出すことに何の躊躇いも覚えない。
「全部、シズちゃんだけ」
独占するのもされるのも、ただ嬉しく幸せで、静雄の金色の髪に頬をすり寄せる。
少し痛んではいても、元々はやわらかい髪質らしい静雄の髪は、猫のようにじゃれつく臨也の頬をふわふわと受け止めた。
「……お前って、本当に猫じゃねぇの? サクラみてぇな真っ黒けの猫」
「失礼な、って言いたいけど、いいよ、猫でも。シズちゃんが一生可愛がってくれるんなら、猫でも何でもいい」
「そうか? じゃあ、首輪買ってやらねぇとな。サクラとお揃いの赤いやつでいいか」
「ヤだ。首輪嫌い」
猫の顎をくすぐるように首筋をくすぐられて、臨也はくすくすと笑う。
「首輪なんかなくても、この指輪があるからいいでしょ」
そう告げて左手を翳すと、それもそうか、と静雄も笑った。
そして二人は、また唇を重ねる。心ゆくまで舌を絡め合い、互いの歯列や口腔の仕組みを確かめ合うように愛撫しながら、その感覚に酔う。
その合間に、臨也の背を抱いていた静雄の手がゆっくりと下へ滑り落ち、敏感な腰のくぼみから丸みの狭間へと指先を這わせた。
「──っ、ん…っ……ふ、あ……っ」
薄い皮膚がいっぱいに広がって静雄の熱を受け入れている。互いの蜜やローションでしとどにぬめっているそこを、ゆるゆるとなぞるように撫でられて、臨也は小さく喘いだ。
「すげぇよな、あんなに小さくて狭いのに、こんな風になってよ」
「あ……、だ…って、シズちゃんで、いっぱいにして、欲しいから……っ」
「だから煽るなっつーの」
喘ぎながら懸命に答えると、静雄は苦笑する。
そして、臨也の身体を抱え直した。
「どうする? このままもう一回、達っとくか?」
「……やだ」
問われて、臨也は小さく首を横に振る。
「次は一緒がいい」
「……そうか」
臨也の答えにいとおしげに微笑み、静雄はそっと臨也の頬を撫でた。
「じゃあ、もう少し、な」
「うん」
ここまでも十分に時間はかけているし、互いの性感も、その気になれば直ぐに絶頂に到達できるくらいまで昂まっている。
だが、もう少し、本当に我慢できなくなるまで二人で一つになっている幸せを味わっていようと誘われて、臨也は素直にうなずく。
「大好き、シズちゃん」
「俺も、すげぇ好きだ」
何百回目とも知れない愛の告白をまた繰り返し、いっそ馬鹿げているほどの幸せを噛み締めながら、二人はもう一度、互いを抱き締めて深く口接けた。
to be continued...
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