Day Dream -Love Key-
「あ、もうシズちゃん来た。今、手が離せないってのに……ああもう、はいはい開けますよ!」
「遅ぇ。どんだけ待たせんだよ」
「うるさいな、急な仕事が入っちゃったんだよ。今ちょっと手ぇ離せないから、勝手にしてて」
「……しゃーねぇなぁ」
「――あ、こっちのダウンロード終わってる。じゃあ次はこっちをまとめて……」
「おい」
「何だよ!? 今忙しいんだってば、話しかけない――」
「茶」
「へ? ――あ、淹れてくれたんだ?」
「他にやることねぇしな」
「……ありがと。あー、ちょっと生き返る。シズちゃんの淹れるお茶、美味しいよねえ。日本茶だけは負けるなぁ」
「別に、普通に湯を注いでるだけだけどな」
「勘がいいんじゃないの? あ、立ってるついでで悪いけど、右から二番目の棚の上から三段目、左から二つ目のファイル、持ってきて」
「ああ? ……これか?」
「うん、そう。で、次は二階の寝室に行って、クローゼットの上から二番目の引き出しに入ってる鍵持ってきて」
「鍵?」
「そう。ほら、さっさと行ってよ」
「へえへえ」
「――ああもう、コピペするだけでも面倒だっての。なんでこんな馬鹿みたいな文章量を……」
「臨也、これでいいのか?」
「え? あ、うん、それ。シズちゃん、持ってて」
「は?」
「それね、そこの玄関の鍵。いちいち立って開けるの面倒だからさ、それで勝手に入ってきてよ」
「――――」
「だーかーらー、回線重いんだっての! いくら海外サーバーを幾つも経由してるからって、光でこの速度ってどうなんだよ!? このクソファイル!!」
「――臨也」
「だから何ってば! 俺は忙しいんだよ!!」
「それ、あとどれくらいで終わる?」
「そんなの……二時間くらい? ダウンロードしてるファイルが多い上に重過ぎてさぁ、まとめ終わるのにちょっと手間取ると思うんだよね」
「分かった。じゃあ夕飯は作ってやるから、何が食いたい?」
「――え。作ってくれんの?」
「お前の作業が終わるの待ってから作ってたら、夕飯は九時近くになるだろうが。それに、そんだけ根詰めて作業してたら、もう台所に立つ気力ねぇだろ」
「……うん」
「で? 何食いたい」
「いや、突然言われても……ええと、あ、肉じゃが! 肉じゃが食べたい。チルドに牛の薄切りあるから使って」
「分かった。じゃあ、あとは適当に作るからよ」
「うん」
「ま、頑張れ」
「ありがと」
「ふふっ、シズちゃんの肉じゃがかぁ。久しぶりだなぁ。――よし、とっとやっつけるとするか」
* * *
「じゃあ、またね」
「おう」
「あー。シズちゃんが帰っちゃうと、この部屋も広いな。二人で居ればちょうどいいんだけど」
「俺も大分、シズちゃんと一緒に居るのに慣れちゃったなぁ……」
「……あれ、そういえば俺、鍵渡しちゃった?」
「うわ、仕事に気を取られてるうちに、なんかメチャクチャ恥ずかしいことしてるよ。うわー」
「……あー、渡した瞬間のシズちゃんの表情、見逃しちゃったなぁ。どんな顔してたんだろ……」
「まぁ、肉じゃが美味しかったし、いいか」
「ていうより、あの肉じゃが、合鍵のお礼のつもりだったのかな。もしかして」
「シズちゃんて時々、可愛いよね。普段は男前だけどさ」
「今度来る時、チャイム鳴っても放っておいたら、合い鍵使うのかな。どんな顔して入ってくるんだろ。ちょっと楽しみかも」
「……いま別れたばっかりなのに、またすぐ会いたくなるなんて、俺も末期だなぁ」
「――ま、いいか。さて、仕事しよ」
End.
『君のいる街角 -Sunshine City-』より再々録。
2011年2月の突発SSでした。
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